第85話 黒いローブの正体は?
「出てきたわ、アンジェラよ」
夜になり、ギルドの前の建物内で様子を見ていた私達の前に、案の定ギルドマスターのアンジェラが姿を現す。
昨日と同じ時間帯に昨日と同じ感じで出てきた。完全にデジャブね。
アンジェラは間違いなく神経を研ぎ澄ましている、そんな彼女を尾行するのは、かなり骨が折れる。
でもそこは、受付嬢が用意した道具でなんとかなった。
「この絶理のカーテンで身を包めば、大丈夫なはずよ」
「こっちからはアンジェラの姿が見えるけど……」
アンジェラがふとこっちを見た。思わずギョッとしたけど、すぐに彼女は振り向いてそのまま歩き始めた。
「あぁ、心臓止まるかと思ったわ」
「言ったでしょ、この絶理のカーテンの中に入っていれば、視界も遮られて気配や臭い、音だって遮断してくれるの」
「受付嬢も便利な道具を持っているものね」
ウィンディの言う通り、アンジェラは私達に気付く様子もなく、そのまま歩き始めている。大した魔法道具だわ。
最初はあのアンジェラをどうやって尾行しようか迷ったけど、意外と簡単にその問題が解決した。
「それじゃ、後を追いましょう」
そのまま私達もアンジェラの後を追った。でもある建物の中に入った。
そこは厩舎だった。冒険者が商人などが、個人で馬を利用する際によく訪れる。
さすがのアンジェラもコルガン峡谷までは徒歩で行かない。しばらくして馬に乗って出てきた。
問題なのは、私達。さぁ、どうやって追いかけるか。
「グスタフ、ある程度距離を開けて尾行しなさい。じゃないと気づかれるから」
グスタフに乗って移動するのはいいものの、絶理のカーテンでは私達だけを覆うのは無理がある。
アンジェラに気付かれないよう、ある程度距離を置いて移動しなければいけない。でもグスタフは狼だから、鼻がきく。
アンジェラが見えなくなって、グスタフも走り始めた。グスタフは迷いなく走っている、どうやら尾行は順調だ。
ペラーザの町を離れて南西へ10分ほど経って、コルガン峡谷が見えてきた。
アンジェラの姿は見えない、そして例のごとく気配も消している。あとはグスタフが頼りだけだ。
「グスタフ、あとは歩きよ。慎重にね」
コルガン峡谷の入口まで来たところで、走るのをやめてグスタフも臭いを嗅ぎ始める。
さすがのアンジェラも臭いまでは消せないはず。
峡谷を入ってしばらく歩いたけど、突然グスタフが止まった。
「ちょっと、どうしたのよ?」
「ガルルルルル……」
「吠えちゃ駄目だから、アンジェラに気付かれるでしょ!」
「ガルルルルル……」
グスタフの様子が明らかにおかしい。でも私もやっと気づいた。
「……つけられたようね」
「なんですって……あっ!」
耳がいいウィンディも気づいた。峡谷の入口から感じた、人の気配を。
アンジェラの気配じゃなかった。でも確かに覚えがあるわ。私達は戻って岩場の影に隠れて、入口の様子を見た。そこには見覚えのある男が立っていた。
「……宝石商じゃない! なんで彼がここに?」
「私の勘が当たっていたわね。やっぱり宝石商もここに用があったみたいよ」
「ってことは、今朝戻ってきたのは……」
「恐らく、昨日の夜もここに来た。だけどあまりに夜遅くになったから、多分帰るのが夜中になったのね」
「なるほど。ってことは、どこかで野宿でもしたってこと」
「そうね。いずれにせよ、睡眠時間もろくにとれなかったはずよ」
「それよりさ、何持ってるの?」
宝石商は左手に何かを大事そうに抱えている。一体何が入っているのか気になる。
「待って! まだ誰かいるみたい」
「まさか……アンジェラ!?」
「違うわ……この気配は人間じゃない」
「に、人間じゃないって?」
ウィンディの顔つきが変わった。数秒後に私も彼女の言っていた意味が分かった。
宝石商の後ろの岩場から、突然人影が現れた。最初は人間かと思ったけど、見るとなんと全身を黒いローブで覆っている。
黒いローブと言ったら魔道士のフェイルを思い出すけど、フェイルの気配じゃない。それにやたらと背が高い、190近くありそう。
「……まさかあいつ?」
「あなたも気づいた? あいつは……かなり厄介よ」
「なんて言ってるか聞こえる?」
黒いローブの奴が宝石商に話しかけている。絶理のカーテンでも、向こうからの音は入ってくる。ウィンディが耳を研ぎ澄ました。
「場所を変えるみたいね。どうする?」
「決まってるでしょ、追うわよ」
「でもアンジェラは?」
「彼女を追うのは後よ。今はあの宝石商の目的と、あいつの正体を探るのが先決」
当初の予定とは変わっちゃったけど、あの宝石商もかなり怪しすぎる。ましてや正体不明の奴が出たらなおさらよ。
危険な臭いがプンプンしてきた。しばらく退屈な依頼続きだったから、わくわくしてきたわ。
二人が一緒に峡谷の入口を出て、少し離れた場所にあった洞穴へ入った。
峡谷の入口の東側にある高さ100メートル以上ある岩壁に開けられた小さな洞穴、ポイズンモールの穴かと思ったけど、近づいてみたら大人数名も入れるほどの大きさだ。
二人とも中に入り、宝石商が腰のポーチから明かりを取り出した。私達も離れた岩場の間から二人の様子を見守った。
「……何をするつもりなの?」
「左手に持ってるのは……箱かしら?」
次の瞬間、宝石商がずっと左手で抱えていた箱を地面に置いた。そして蓋を開けた瞬間、眩いほどの光が洞窟内に溢れた。
「なんなのあれ?」
「まさか……あれって」
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