第84話 宝石商の秘密とは?
目の前にいたのは宝石商だった。まさかこんな時間に帰って来たの。
「もしかして……宝石の鑑定でしょうか?」
「いや……実は……」
「えぇ、そうよ。鑑定をしてもらいたいの!」
ウィンディが言おうとしていたのを咄嗟に制した。
「かしこまりました。それでは今からお店を開きますので、少々お待ちください」
宝石商がそのまま裏口へ回った。手には鍵を持っていた。
「……ちょっと。鑑定じゃなくて事情聴取じゃないの?」
ウィンディが小声で話しかけてきた。
「わかってるわよ。だけど事情聴取だって言ったら、こっちが怪しまれるわ。自然な感じで聞いた方がいい」
「なるほど」
ウィンディもわかってくれたようだ。こんな朝早くに店を出て外出、しかも開店時間後に帰宅だなんて。怪しすぎる
「さぁ、開けましたよ! どうぞ、どうぞ」
店の表口のドアが開いて、宝石商が中に招き入れてくれた。
「失礼ですが、以前どこかでお会いしましたか?」
「覚えてないの? 一か月前に会ったじゃない」
「一か月前……あぁ、もしかしてあの時の!?」
やっと思い出したようね。背の高い二人の女性だから絶対に覚えられていると思ったのに、ちょっと意外だわ。
「エルフのお嬢さん、それにあなたは……ナターシャ・ロドリゲス様ですね!」
「え? 私の名前……知ってるの?」
「もちろん。ギルドであなたの活躍ぶりは有名になってましたよ、なんでもあの獅子奮迅のリーダーを倒して、グノーシス商会の長女を救ったともっぱらの噂で……」
ウィンディと思わず目が合った。
確かに一か月前の戦いが終わって、私達はギルドでもてはやされたけど、まさか宝石商にまでその噂が届いていたなんて。
「あなたがもう一度来店されるのを心から待ってましたよ。ということは、今回鑑定してもらえるのは……」
「えぇっと、これよ」
私がカウンターの上に出したのは、赤い色の宝石だ。するとそれまでにやにやしていた宝石商が、急に渋い顔になった。
「おや……これは?」
「何よ、そんな渋い顔して?」
「あぁ、申し訳ございません。これは……マグマダイヤですね。では鑑定させてもらいます」
手に取ってマグマダイヤをまじまじと見つめ、それからしゃがみこんで何かを探し始める。
しばらくしてカウンターの上に取り出したのは、一か月前にも見た貝殻の形をした鑑定器具だ。
「では、この“アプレイザルシェル”で鑑定させてもらいます。ちょっとお待ちください」
宝石商が貝殻の下の窪みにダイヤを置いて蓋を閉じた。
「ねぇ、あのダイヤって……」
「ルノーのアジトにあった遺産の残りよ。さすがにアクアリウムスライムのコアは出せないわ」
こんなこともあろうかと、まだ残しておいたのだ。もちろんあとで換金するつもりだったけど。
「むむ!? これは!?」
貝殻全体が金色に輝いた。確か一か月前も同じ反応を見せたはず。
「これは上物ですね……よし、3000ゴールドでどうでしょう!?」
「え? 3000って……」
思わず呆気にとられた。マグマダイヤが3000ゴールドですって。
でもよく考えたら、別に不思議じゃないかも。確かマグマダイヤの相場が小石分の大きさで500ゴールド、今宝石商に渡したマグマダイヤが拳大の大きさだから、3000ゴールドになるのもおかしくない。
「……アクアリウムスライムのコアと同じじゃない」
ウィンディがボソッと小声で言った。私も覚えている。確かに3000ゴールドだった。
やっぱりこれで明らかになったわね。
マグマダイヤはそこまでレアな宝石じゃないから、相場はよく知られている。だから誤魔化しがきかないんだ。宝石商が急に渋い顔を見せたのも頷けるわ。
「どうします? 言っておきますが、これ以上の金額はつけられませんよ」
「いいわよ、3000で」
「おお! それでは早速3000ゴールド準備いたします」
「それよりさ……聞きたいことがあるんだけど……」
「聞きたいこと、ですか?」
今は宝石の鑑定のインチキを批判するより、大事なことを聞かないといけない。
「昨日の夜さ、一体どこ行ってたの?」
単刀直入に言った。宝石商はそれを聞くと、かなり動揺した顔を見せる。
「き、昨日の夜……ですか?」
「そうよ。あなたが夜遅くに出歩いているのを見たのよ、偶然ね。一体どこ行ってたの?」
「…………」
思わず黙り込んだ。この様子だと誰にも見られていないと思っていたようね。さぁ、どんな答えが返ってくるかしら。
「じ、実はですね……あまり大きな声で言えない場所に言ってたんですよ」
「大きな声で言えない場所?」
宝石商は苦笑いしながら答えた。
「いやいや、恥ずかしながら私もこの年で独身でしてね。一人身はやはり寂しいんです、その寂しさを癒してくれる大人だけが通える場所に……」
「うっ……そう言うことだったの」
なんてこと。宝石商が言いたいことがわかった。ウィンディも察したようだ。
「わかったわ、それ以上は聞かない。ありがとう」
「へへ、あまり人の性事情に首を突っ込まないでくださいよ」
「そうね……ごめんなさい。それじゃ、これで失礼するわ」
私達はそのまま急いで店をあとにした。店からある程度距離をおいて、ウィンディはため息をついた。
「もう、とんだ早とちりじゃない。何がギルドマスターと同じ感じなのよ、ただの風俗通じゃない」
「……そうかしらね」
ウィンディの言うことももっともだ。だけど私には別の確証があった。
「あら? もしかしてまだ疑っているの?」
「風俗に行っているのは間違いないかもしれない。でもそれだったら、夜遅くには帰ってるはず」
「夜遅くに帰ってたじゃない、昨日の夜は帰る途中だったんでしょ?」
「彼の目の下、見た?」
私は目の下を指差してウィンディに言った。
「目の下? よく見てなかったけど、何かあった?」
「すごいクマができてたわ……」
「クマ……ってことは……」
これが意味することはただ一つ。
「あの宝石商、多分店に戻ってないのよ」
「……もしかして夜通し風俗?」
「夜中はどこの店も開いてないわ。つまり、明らかに嘘ついてる」
「それじゃ……一体どこに?」
「……コルガン峡谷」
私はボソッと呟いた。でもウィンディは納得していない顔をしている。
「ただの宝石商がそんな危ない場所に行ったりしないでしょ」
「でもギルドマスターだってコルガン峡谷に行っているそうじゃない。偶然とは思えないわ」
「あぁ、もう……わかったわ。とにかく今日の夜まで待ちましょう、そうしたら全て明らかになるわ」
ウィンディの言う通りだ。確かに今は深く考えてもしょうがない。夜まで待とう。
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