第81話 ギルドマスターの怪しい行動
一時間後、もうすぐ日付も変わろうかという時間帯にペラーザの町に到着した。グスタフも疲れている、今日はご馳走させてあげないとね。
「それじゃ、ギルドに行きますか」
ギルドに直行した私達を例のごとく受付嬢が笑顔で迎えてくれた。今や私もすっかりここのギルドで有名人、受付嬢は真っ先に対応してくれる。嬉しいんだけど、ほかの冒険者とかに迷惑よね。
「お帰りなさいませ、ナターシャ様。今日も大漁ですね!」
「大声出さなくていいから。それより早く鑑定してね」
「はい、喜んで!」
集めた魔物の素材や魔物封印球をカウンターの上に置いた。夜遅くだというのに、いつも以上に元気があるわね、気のせいかしら。
すると突然背中を誰かが小突いてきた。ウィンディかと思って振り向いた。
「……失礼します、ナターシャ様」
声を掛けたのは、もう一人の受付嬢だ。
「いきなり声掛けないでよ、驚くじゃない」
「申し訳ございません。ですが、その……ナターシャ様にぜひお願いしたい依頼がございまして……」
「私に直接? 受付嬢が直接依頼するのは、禁止なんじゃ……」
「そうなんですけど、今回は異例中の異例なんです」
すごく真剣な顔をしている。ウィンディも聞いてあげた方がいいと目で合図した。
「……わかったわ。じゃあ、ギルドマスターの部屋に……」
「いえ、そこは駄目です」
「はぁ? ギルドマスターと話すんじゃないの?」
受付嬢は私の腕を掴んで、かぶりを振った。
「……そのギルドマスターのことで話があるんですよ」
*
十分後、ギルドを出た私達は受付嬢の話した場所まで来た。そこはギルドの裏口から入ってすぐにある倉庫の中だ。
「ごめんなさい。こんな狭苦しい場所に案内しちゃって」
「そんなに他人に聞かれちゃまずい話なの?」
「さっきも少し言いましたが、マスターについて大事な話があるんです」
「ギルドマスター……確か名前は……えぇっと……」
「アンジェラ・レインハートよ」
ウィンディが呆れながら答えた。
「そうそう、アンジェラって言ってたわね。思い出した」
「あなた、いつ覚えられるわけ?」
「昔から人の顔と名前は覚えるのが苦手なのよ」
「つい先週会ったばかりじゃない。その時は三度目の自己紹介だったわ」
私とウィンディの駄弁りを聞いて受付嬢は苦笑いしている。
「えぇと……いいですか?」
「あぁ、ごめんなさい。本題に入っていいわよ」
「では……お話しますね」
受付嬢が満を持して話そうとした。でもすぐにそわそわしだした。
「どうしたの……?」
「ごめんなさい。遮音の結界使えますか?」
「私は……使えないわ」
ウィンディの顔を見た。何も言わず、黙って右手を上げて、何やら魔法を発動させた。
「これで大丈夫よ。さぁ、話して」
「ありがとうございます。マスターは耳がいいから」
「絶対聞かれちゃまずいってわけね。もしかして、かなりヤバい話?」
受付嬢も黙って頷いた。そしてゆっくりと深呼吸した。
「最近、マスターの様子がおかしいんです」
「おかしいって、どんな風に?」
「昨日もそうなんですけど……一人で夜遅くに外出しています」
何を言うかと思ったら、別にそれって大したことじゃないんじゃないの。
「誰だって夜遅くに外出することくらいあるでしょ? それともこれ?」
私は右手で小指を立てた。受付嬢はすぐにかぶりを振った。
「違います! もっと大事なことなんです」
「とにかく話を続けて」
「えぇと……それで昨日気になってマスターのあとを追ってみたんです。そしたら町の外にまで出て、行き着いた先が……」
「待って!」
突然ウィンディが声を上げた。
「どうしたのよ? 今大事なところじゃない」
「違うわ。誰かが……外にいる」
「なんですって?」
ウィンディは口の前に指を立てたまま、窓際に近づいた。私と受付嬢もウィンディの隣に立って、窓の外を見た。
すると、窓の外に一人の女性が立っている。
「マスター!? あぁ、やっぱり……」
「まさか、気づかれた!?」
「いいえ、遮音の結界は完ぺきよ。あの様子だと、多分……」
ウィンディの言う通り、アンジェラはこっちには気づいていない。そのまま周囲を警戒しながら、歩き出した。
「……もしかして昨日と同じ?」
「はい。昨日だけじゃありません。最近マスターはこの時間帯になると、一人で出歩くんです。あんな感じに……」
「一体こんな夜遅くにどこまで行くって言うの?」
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