第81話 ギルドマスターの怪しい行動

 一時間後、もうすぐ日付も変わろうかという時間帯にペラーザの町に到着した。グスタフも疲れている、今日はご馳走させてあげないとね。


「それじゃ、ギルドに行きますか」


 ギルドに直行した私達を例のごとく受付嬢が笑顔で迎えてくれた。今や私もすっかりここのギルドで有名人、受付嬢は真っ先に対応してくれる。嬉しいんだけど、ほかの冒険者とかに迷惑よね。


「お帰りなさいませ、ナターシャ様。今日も大漁ですね!」

「大声出さなくていいから。それより早く鑑定してね」

「はい、喜んで!」


 集めた魔物の素材や魔物封印球をカウンターの上に置いた。夜遅くだというのに、いつも以上に元気があるわね、気のせいかしら。


 すると突然背中を誰かが小突いてきた。ウィンディかと思って振り向いた。


「……失礼します、ナターシャ様」


 声を掛けたのは、もう一人の受付嬢だ。


「いきなり声掛けないでよ、驚くじゃない」

「申し訳ございません。ですが、その……ナターシャ様にぜひお願いしたい依頼がございまして……」

「私に直接? 受付嬢が直接依頼するのは、禁止なんじゃ……」

「そうなんですけど、今回は異例中の異例なんです」


 すごく真剣な顔をしている。ウィンディも聞いてあげた方がいいと目で合図した。


「……わかったわ。じゃあ、ギルドマスターの部屋に……」

「いえ、そこは駄目です」

「はぁ? ギルドマスターと話すんじゃないの?」


 受付嬢は私の腕を掴んで、かぶりを振った。


「……そのギルドマスターのことで話があるんですよ」



 十分後、ギルドを出た私達は受付嬢の話した場所まで来た。そこはギルドの裏口から入ってすぐにある倉庫の中だ。


「ごめんなさい。こんな狭苦しい場所に案内しちゃって」

「そんなに他人に聞かれちゃまずい話なの?」

「さっきも少し言いましたが、マスターについて大事な話があるんです」

「ギルドマスター……確か名前は……えぇっと……」

「アンジェラ・レインハートよ」


 ウィンディが呆れながら答えた。


「そうそう、アンジェラって言ってたわね。思い出した」

「あなた、いつ覚えられるわけ?」

「昔から人の顔と名前は覚えるのが苦手なのよ」

「つい先週会ったばかりじゃない。その時は三度目の自己紹介だったわ」


 私とウィンディの駄弁りを聞いて受付嬢は苦笑いしている。


「えぇと……いいですか?」

「あぁ、ごめんなさい。本題に入っていいわよ」

「では……お話しますね」


 受付嬢が満を持して話そうとした。でもすぐにそわそわしだした。


「どうしたの……?」

「ごめんなさい。遮音の結界使えますか?」

「私は……使えないわ」


 ウィンディの顔を見た。何も言わず、黙って右手を上げて、何やら魔法を発動させた。


「これで大丈夫よ。さぁ、話して」

「ありがとうございます。マスターは耳がいいから」

「絶対聞かれちゃまずいってわけね。もしかして、かなりヤバい話?」


 受付嬢も黙って頷いた。そしてゆっくりと深呼吸した。


「最近、マスターの様子がおかしいんです」

「おかしいって、どんな風に?」

「昨日もそうなんですけど……一人で夜遅くに外出しています」


 何を言うかと思ったら、別にそれって大したことじゃないんじゃないの。


「誰だって夜遅くに外出することくらいあるでしょ? それともこれ?」


 私は右手で小指を立てた。受付嬢はすぐにかぶりを振った。


「違います! もっと大事なことなんです」

「とにかく話を続けて」

「えぇと……それで昨日気になってマスターのあとを追ってみたんです。そしたら町の外にまで出て、行き着いた先が……」

「待って!」


 突然ウィンディが声を上げた。


「どうしたのよ? 今大事なところじゃない」

「違うわ。誰かが……外にいる」

「なんですって?」


 ウィンディは口の前に指を立てたまま、窓際に近づいた。私と受付嬢もウィンディの隣に立って、窓の外を見た。


 すると、窓の外に一人の女性が立っている。


「マスター!? あぁ、やっぱり……」

「まさか、気づかれた!?」

「いいえ、遮音の結界は完ぺきよ。あの様子だと、多分……」


 ウィンディの言う通り、アンジェラはこっちには気づいていない。そのまま周囲を警戒しながら、歩き出した。


「……もしかして昨日と同じ?」

「はい。昨日だけじゃありません。最近マスターはこの時間帯になると、一人で出歩くんです。あんな感じに……」

「一体こんな夜遅くにどこまで行くって言うの?」

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