第80話 ダークエルフとヴァンパイアの戦争②

 エルフはダークエルフやヴァンパイアと違って支配欲が低い。ヴァンパイアと同じくこの大陸に先住していたけど、彼らは平穏で静かな暮らしがしたかった。


 二種族の争いが激化するにつれて、エルフの生活圏も脅かされ始めた。だけどここで思わぬ助け船が来た。


「ヴァンパイアを束ねる王サピア・ヴォーレンツが、エルフと共同戦線を張ることにしたの」


 ウィンディが言うには、ダークエルフの勢力は想像以上だったのこと。戦争はほぼダークエルフが優勢になり、あとわずかでダークエルフが本当に大陸を支配するところまで来たらしい。


 そこでヴァンパイアの王であるサピアは動き出した。サピア、一か月前にゼイオスの部下が叫んでいたのは、ヴァンパイアの王だったのね。


 サピアは同じくエルフの王に共同戦線の提案を持ち掛けた。だけどエルフ側も簡単には了承しなかった。エルフ側は条件を持ち掛けた。


 自分達の生活圏を脅かさない、そして大陸の自然や生態系を破壊しない、この二つを堅守することを条件にした。


 背に腹は代えられないヴァンパイア側も了承した。こうしてエルフとヴァンパイアの二種族が結束することで、形勢は逆転した。


 追い詰められたゼイオスは残党のダークエルフ達と一緒に魔空庭園に身を隠した。ヴァンパイアとエルフの軍団も彼を逃しはせず、魔空庭園を包囲し始めた。


 でも、戦いはそこで突然終わったという。


「ゼイオスが……消えたのよ」

「消えたって、どういうこと?」

「正確には、魔空庭園ごとね。本当に謎の現象よ、あとの記録によれば、魔空庭園は跡形もなく消えて、普通の山だけが残っていた」


 にわかには信じがたい内容ね。それ以降、ゼイオスも魔空庭園も本当に姿を現さず、ヴァンパイアとエルフの2種族は互いに不可侵の条約を結んで、この大陸に居座った。


 私達人間の種族がこの大陸にやってきたのは、約500年前、それ以降今度は人間とヴァンパイアとの間で領土を争う戦争が起きた。


 そのヴァンパイアと五十年前に不可侵条約を結んだのが、先代のロナルド・ロイ・グラムス・エルザーク皇帝、つまりジョージの祖父だ。


 ヴァンパイアとの間の戦争を終わらせ、私達人間とエルフも現在は比較的平穏な日々を送っている。


 でもその平穏な日々も、終わろうとするかもしれない。ゼイオスが魔空庭園とともに復活した。どうして復活したのか、今までどこにいたのかは不明のままだけど、ダークエルフを束ねるゼイオスの力は本当に脅威的だという。


「ゼイオスを止めないと。また大陸全土を巻き込むほどの大戦争が起きるわ。しかも1000年前と違って、今は人間までいる。被害は計り知れない」

「必ずまた現れるわね。あいつ、私をえらく気に入っているみたいだから」

「そうね。でも、今度は一人で戦おうとしないで。あの時見せたゼイオスの力なんか、ほんの小手調べよ。ヴァンパイア族だって手を焼くほどだから」


 ウィンディが怖い顔で警告してくれた。でもそう言われると、余計に戦いたくなるのよ。


「そのゼイオスは、あれ以来姿を見せていない。魔空庭園に戻ったかどうかもわからないわ」

「あと気になるのは、ヴァンパイアの動きね」

「サピアだっけ。ヴァンパイアの王が確か魔空庭園に向かっていたらしいけど、どうなったの?」

「さぁ、それもわからない。ヴァンパイアの国はコルガン峡谷を挟んで遥か先にある。不可侵条約がある以上、足を踏み入れることがないから、ヴァンパイア達の動きが掴めないの」

「サピアってどんな奴か知らないけれど、あのゼイオスに勝てると思う?」


 私の質問にウィンディも神妙な顔で考え込んだ。


「……サピアだってヴァンパイアの王よ。簡単に負けるとは思えない」

「でも、最悪の事態は想定しておかないと」

「気持ちはわかるけど、とにかく今は下手に大きく動かない方がいいわ。恐らくサピアとゼイオスは魔空庭園付近でにらみ合っているか、戦闘状態にあるはずだから」


 ウィンディの言う通りだ。ゼイオスもサピア、互いに人間とは敵対する種族だ。この二種族間で争っているだけなら、私達に大きな影響はないからいいんだけど。


 今は様子を見るのが得策ね。


「帰ってジュドーの報告を聞いてみましょう。何か新しい動きがあったかも」

「そうね。じゃあ今日はこれで……」

「ちょっと待って! 寄り道してほしいんだけど」

「寄り道? いいけど、どこへ?」


 ウィンディがこんな頼み事するなんて珍しいわね。でも目的地と退治する魔物名を聞いたら、納得した。


「なるほど。それなら行かなきゃね」

「あなたの雷魔法が頼りよ。それじゃ、お願いね」

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