第2章 大陸覇権戦争
第79話 ダークエルフとヴァンパイアの戦争①
月日は流れ、私はウィンディと一緒に冒険者稼業を続けていた。
ペラーザの町の周辺にある地理にもだいぶ詳しくなった。コルガン峡谷、クレセント山、キノエ海岸、さらにこの前行ったばかりの南東にある大鍾乳洞、その地下深くには海底火山に繋がるまでの大空洞があった。
毎日が新しい発見だらけで楽しい。おかげでこの一か月間、あっという間に時間が過ぎたわ。
町のギルドに行ったら、もう私は有名人。背が高いって言うのもあるけど、とにかくちやほやされる。退治する魔物が強すぎて、あっという間にランクが上がって今やAランクだ。
公爵令嬢時代にも好待遇は何度もあったけど、冒険者となった私は全部自分の実力で勝ち取ったものだ。今まで見たいに家柄や美しさ、金と権力なんかは関係ない。
私が望んでいたのはこれよ。やっと公平に評価されたってことになるわ。
受付嬢が言うには、一か月そこらでAランクとかあり得ないこと、最低でも一年はかかるらしい。私は何が難しくて一年もかかるのかわからないけど。
所持金もだいぶ貯まった。実家を離れた際に持ってきた貯金よりも、遥かに多くのお金を稼げるようになった。もう完全に冒険者として食っていけそうだわ。
順調すぎる。逆に順調すぎて、退屈もしてきた。
「どうして、そんなに浮かない顔なの?」
メンバーのウィンディが聞いてきた。
「なんというか……つまらないわ」
「つまらない……多分、その最大の原因は……」
達成感が得られない。確かに新しい洞窟や地形に踏み入れた時は、わくわくする。そして見たこともない魔物にも遭遇する。
だけどどの魔物も、あまりに弱すぎるの。私より弱いと自覚しているウィンディですら苦戦しない相手ばかり。
「あまり贅沢言わないで。強すぎる魔物がいないなら、それに越したことはないわ。本来Sランクの魔物なんか、いるほうが異常なの」
「でも……一か月前はそうじゃなかったわ」
「あの時が異常だっただけよ。ブローディアやルノー、レッドドラゴンももういないわけだし」
あの激戦からもう一か月も経つのか。一か月前は本当に凄かった。
二大盗賊団との戦い、その頭領と戦い、さらにレッドドラゴンという凶悪ドラゴンとも戦った。
「そういえば、ブローディアはどうしてるんだろう?」
「ルノーが乗っていた翼竜がいたでしょ。ラファテって言ったっけ、ご主人様が死んで、ブローディアが代わりに乗っているらしいわ」
「皮肉ね。自分の主人を殺した張本人を乗せているなんて」
「でも、ラファテもわかっているらしいわ。正直前の主人は嫌いだったみたいだから」
「へぇ……それなら楽しくやってそう」
ブローディアとはまた会うことになるわ。今頃どこかで修行しているはず、私との雪辱を果たすために。
そしてもう一人強敵がいる。ダークエルフのゼイオス・ラグランジュ。
「二度と会いたくない」って私は別れ際に言い捨てたけど、あいつの底が知れない強さに半分興味はある。もう一度会って戦ってみたい気持ちが、少し湧いてきちゃった。
「ゼイオスは、一体何をしているの?」
「あれから全く音沙汰ないわ。ジュドーは国境警備隊に知らせて一応警備に当たらせてるって言うけど、何も動きは見せてないみたい」
ゼイオスの居城は魔空庭園と呼ばれている。魔空庭園、後から聞いた話だけど、その昔まだシルバニア帝国ができる前からあったという、巨大な城塞都市。
ダークエルフのゼイオスの根城だ。ただのダークエルフにそんな城塞都市を築けるはずがない。
「ダークエルフの王ですって?」
「本当よ。彼の頭から生えている二本の角がその証拠」
「あの角が……確かにダークエルフだから妙だとは思っていたけど」
ゼイオス・ラグランジュはダークエルフを束ねる王だ。でも私は聞いたことがない。もしかしたら学校の授業で習っているかもしれないけど、座学の成績悪かったし、そもそも授業とかほぼ寝ていたからね。
そのゼイオスは千年前にダークエルフの軍団を束ね、シルバニア帝国があるこのシルバニア大陸に渡来した。
それからシルバニア大陸の北西部にあるイビル山脈に巨大な城塞都市を築いた。それが魔空庭園、山脈に築かれているけど雲がかかっていることが多いから、あたかも空に浮かんでいるように見えるためそう呼ばれている。
ゼイオスはその魔空庭園を拠点にして、この大陸全土の支配を画策していた。だけどそこに最大の邪魔が入った。
「ヴァンパイア族との争い。この大陸に既に先住していて、ダークエルフと同じく大陸全土の支配を画策していた」
「つまり、二つの種族が衝突しちゃったわけね」
「そういうこと。互いに協力とか、分割する気なんてさらさらなかった二種族は、全面戦争に突入するしかなかった。当時はまだ人間がこの大陸にいなかったから、あまり記録は残っていないけど」
「でも、エルフは知っているのね」
「そう……ダークエルフは私達の天敵だから」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます