第75話 まさかの釈放!?

「おはよう、ナターシャ」


 翌日、目を覚ました私は真っ先にウィンディの顔を目にした。そしてすぐに、ハーブの香りが漂っていることに気付いた。


「おはよう。それにしても、いい香りね」

「シャワー浴びたのよ。ここのシャワーは最高よ、好きな香りが選べるみたい」

「本当? それじゃ私も……」


 私もベッドから起き上がって、シャワー室に直行した。ウィンディの言う通り、本当に好きな香りが選べれるようになっている。気が付かなかった。


 ここはペラーザの町の『まどろみの月』、ジョージが泊まっていた部屋だ。ジョージは今はいない。


 昨日ザローイン山から真っ先に向かったのは、マチルダの別荘だ。すでに日が暮れていて、マチルダを別荘に帰した。


 リチャード卿も涙を流しながら礼を言った。母親も無事に体調を取り戻し、今は別荘で両親が一緒にいる。ジョージは仮面を外し、しばらく彼女の別荘に居座ることになった。


 でもマチルダが目を覚ましたら、出ていくと言っていた。無理もない、婚約破棄を言い渡したことは覚えているはずだから、居座れるわけがないわ。


 そして私達はというと、昨日の夜遅くにペラーザの町に帰還した。


 ジョージがカエサルに話をつけてくれたから、『まどろみの月』の部屋には自由に出入りできた。大した権力行使ね。


「はぁ、さっぱりした」


 シャワーを浴びて、ゆっくりとソファにくつろいだ。ありがたいことにキンキンに冷えたジュースまである。


 でもジュースを飲みながら、ふと端っこのベッドでまだ眠っていた女性が目に入った。


「ブローディア、まだ起きないわね」

「仕方ないわ。昨日はまさに死闘だったから」


 彼女はまだ眠っている。治療にはかなり時間がかかりそう。


 後から聞いた話だけど、満身創痍でルノーを撃破したらしい。その直後にあのゼイオスの魔法で苦しめられた。彼女の体はボロボロだ。


「生きているのが不思議なくらいよ。オーガ族の生命力は凄いわ」


 ウィンディがそう言いながら、彼女が寝ているベッドのそばに寄った。私もブローディアのベッドに近づいた。


 こうしてみると、本当に普通の女性ね。角が生えているという点を覗けば、とてもオーガ族最強の戦士とは思えない。


 というかよく見たら、やっぱり美人。あのルノーが愛人としていたのも頷けるわ。


「あの話、本当なの?」

「あの話って?」

「……私の幻影」

「あぁ、精霊魔法の一種よ。ブローディアに掛けたのは一種の勝利のまじないみたいなもの。一時の間、劇的に潜在能力を解放させる。でもまさか、あなたの幻影を見せつけるだなんてね」

「勘弁してよ、恥ずかしいから」

「どうして? ブローディアの底力、凄かったわよ。あなたにも見せたかった」


 仮にも一度は敵対していた仲なのに、まさか私の幻影が彼女を助けるだなんて。正直嬉しいというより、なんだか気持ち悪いわ。


「……うぅ」


 ブローディアが声を出した。そして目をゆっくりと開けだす。


「おはよう。やっとお目覚めね」

「……はっ!? ここは!?」

「ペラーザの町の宿よ。あなたを連れてここまで来るの大変だったから」

「……なぜあたしをここに? 脱獄囚だぞ」

「それはもう昨日までの話よ。まぁ話せば長くなるけど……」

「ナターシャ!? お前……」

「おはよう。私は幻じゃないわよ」

「何だと……いや、なんでそのことを?」


 あぁ、そうか。多分ウィンディの魔法だと思ってないんだ。これはまいったな。


「そ、その……あなたがまるで私の幻を見たとウィンディが言っててね。違った?」


 ブローディアがウィンディを睨んだ。


「エルフは人の夢を盗み見ることができるのか?」

「え? いや、それは……」


 まずいわ。なんか変な誤解を生ませちゃったみたい。


「今度夢を覗いたりしたら承知しないぞ」

「……ごめんなさい」

「それよりさっき言ってたな。昨日までの話ってどういうことだ?」

「あぁ、そのことね」

「まぁ結論から言うと、あなたはもう脱獄囚じゃないってことよ」


 ブローディアが口を開けたまま私を見た。


「……なんだと?」

「だからその通りの意味よ。あなたはもう脱獄囚じゃない」

「平たく言えば、もう釈放ってこと」

「しゃ、釈放だと!? どういうことだ? あたしは……」


 ガタッ!


 ドアが開いて誰かが入って来た。


「おや、どうやらお目覚めのようですね」

「話がわかる人が来たわ」


 中に入ってきたのは警備隊隊長のジュドーだ。手には紙を数枚ほど持っている。


「ジュドーか、一体何しに来た?」

「いきなり不愛想な挨拶だな。正式に手続きが終了したから、それを報告しに来たところだ」

「手続き……だと?」

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