第71話 ブローディア覚醒!

 ブローディアが両手で棍棒をしっかり握り直した。大きく息を吸い込み、ありったけの魔力を棍棒に送り込む。


 魔力により棍棒が徐々に巨大化した。あまりの重さにブローディアが態勢を崩す。


 右手を棍棒の先端に近い部分に持ち直し、ルノーの落下に備える。


「さぁ、来やがれ!」

「ごわあああああああああ!!」


 ルノーはさらに回転を速めた。そのまま勢いを弱めず、一気に降下しだした。


 武者震いが止まらない、しかし臆せず棍棒を持ち続ける。攻撃の射程範囲にルノーが入ったその瞬間、棍棒を一気に振り払った。


「ハイパーインパクト!」


 棍棒がルノーに激突した。


 巨大な魔力同士の衝突が起き、周囲一帯に爆風が吹き荒れた。ブローディアはその爆風で吹き飛ばされた。


「うぐぐ……くそっ!」


 倒れた木々によって衝撃が和らいだ。ブローディアは起き上がり、衝撃の被害を目の当たりにする。


 目の前には巨大なクレーターが生じていた。これでもあのルノーがそのまま衝突するよりかは、小さい被害だ。


「奴は……どこ!?」


 あの程度で死ぬはずがない。ブローディアは周囲を注意深く見回した。


 すると周囲の地面が突然揺れ、態勢を崩した。


「がぁあああああああ!!」


 目の前の地面が割れ、ルノーが出てきた。そしてそのまま左手の爪で攻撃を仕掛ける。


「させるか!」


 咄嗟に棍棒で防御をした。巨大化した棍棒で難なく左手の攻撃は防いだ。


「ごふっ!」


 直後、ブローディアは後ろへ吹き飛ばされ、後方の木に叩きつけられる。一瞬何が起きたのかわからなかった。


 ブローディアが見たのは、膝を折りたたんで右足を上げていたルノーだ。


「ふ、不覚……もう少し……だったのに……」


 せっかく体力と魔力が回復できたのに、直撃した膝蹴りのダメージが思った以上に大きい。


 身動きが取れないまま、ルノーが近づいた。両腕を広げ、鋭く伸びた爪に炎をまとわせた。


「くそぉ……こんなところで死んで……たまるか」


 今度こそやられる。しかし体は動こうにも動けない。


 一瞬でも油断した自分に腹が立つ。悔しさで涙がこぼれそうになった。


「ナターシャ、お前と戦う前に死ぬのか。あたしは……」

「えぇ、死ぬわね。間違いなく」


 女性の声が聞こえた。気のせいではなかった。


「誰だ!?」

「こんなところでぶっ倒れているだなんてさぁ、見損なったわよ」


 なんと目の前に女性が現れた。見覚えのある女性、ブローディアが忘れたくても忘れられない姿をした女性だ。


「ナターシャ!?」

「あなたには失望したわ。もうちょっと骨のある女性だと思っていたのに」

「な、なんだと……」

「だってあんな化け物相手に苦戦するんだもの。あたしなら片手で十分よ」


 そう言ってナターシャは右腕を回し始める。その言葉は冗談ではないとブローディアも感じた。


「ふざけるな……いくらお前でもあいつには……」

「あら、そう。だったら見せてあげようかな」


 ナターシャが突進しルノーに正拳突きをお見舞いした。直後にルノーの体は霧のように消える。


「……馬鹿な」

「見ての通りよ。あなたに同じ真似ができて?」

「あたしだって……本気を出せばあんな奴……」

「だったら、本気出してみなさいよ!」


 ナターシャが見下したように言い放つ。ブローディアは右拳を握りしめ力を込めた。


 だがやはり力が入らない。


「あぁ、やっぱりそんな様子じゃ駄目みたいね。期待して損したわ」

「……ふざけるなよ!」


 もうこれ以上耐えられなかった。


「さっきから聞いてれば、あたしを侮辱してそんなに楽しいか!?」

「えぇ、楽しいわ。あなたってもう負け犬ね、私だけじゃなくあんな化け物にも負けるだなんて」

「……負け犬だとぉおお!?」


 ブローディアの体中に力が沸き上がった。怒りと悔しさは体の疲労を忘れさせた。


「あたしは勝つ! そしていつかお前も倒す! それを果たすまでは、絶対死ねないんだぁあああああ!」


 腹の底から声を上げた。そして、ブローディアはふと我に返った。


「なんだ……消えた!?」


 目の前にいたナターシャが消えていた。代わりにルノーの姿があった。


 幻覚だったのか。だけどそんなことはどうでもいい。力がそれまで以上に漲って来た。こんな気分は初めて味わう。


「……ふふふ、ありがとうよ。おかげで、吹っ切れた! もうあたしは、迷わない!」

「ぐがぁああああああああ!!」

「来やがれ、化け物!」


 ブローディアは寝転がったまま挑発した。ルノーもその挑発を受けたのか、翼を大きく広げ飛び上がった。


 空高くまで飛び上がったルノーは両腕を伸ばしたまま、爪先は自分に向かっている。


 ブローディアは微動だにしない。静かに右腕に力を込め始める。


「ナターシャ、お前ならこう倒すだろうな」

「ぐがああああああああ!!」


 ルノーが雄叫びを上げながら、真っすぐ降下してきた。


 大きく広げた両腕をそのまま振り下ろした。その瞬間を逃さない。


「だぁあああああああ!!」


 ブローディアも雄叫びを上げ、無心で右拳を上げた。


 おびただしい量の血しぶきが周囲に飛散し、ルノーは動かなくなった。


 振り下ろしたはずの爪も、ブローディアに届かなかった。


「腕力だって、あたしの方が上だったね」


 ブローディアは大量の血しぶきを浴び、動かなくなったルノーを地面に投げつけた。ルノーの目から光が消えた。

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