第70話 ルノー第二形態
「なんなの? この異様な気は!?」
やっとこさ外の空気が吸えたと思ったら、今度はただならぬほど巨大な気を感じるじゃない。
かなり離れているけどはっきり感じるわ。今まで以上にないくらいヤバい奴が出てきた。
だけどこの気、どことなくルノーの気に似てる。気のせいかしら。
「とにかく急がなきゃ!」
東南東の方角ね。全速力で飛ばすわ。ウィンディ、ジョージ、なんとか無事でいて。
*
「うぐぐぐぐぐぐ……ぐおわぁあああああ!!」
「完全に化け物になったな。言葉まで失って……哀れだね」
ブローディアは恐怖とともに哀れみまで感じた。ルノーが過去に言っていた言葉を思い出した。
「俺を絶対に怒らせるなよ。怒りが頂点に達したら最後、誰にも止められなくなる。町どころか国が滅ぶ。大量虐殺の始まりだ」
当初は自分を畏怖させるために、誇張して言ったのだろうと思っていた。
だけどこうして現に化け物と化したルノーを見ると、それが冗談ではないと嫌でもわかった。ブローディアも無意識に手が震えた。
「甘く見ていた。でもあたしだってオーガ族最強の戦士、こんなところで引き下がるわけにはいかない! 来るなら来い」
自分を鼓舞し、棍棒を強く握り直した。腰を低くし、ルノーが来るのを待ち構える。
そして次の瞬間。
「なにっ!?」
「がぁああ!」
ルノーの鋭い右手の爪がブローディアに襲い掛かる。咄嗟に棍棒で防御した。
「ぐぅ!? なんて威力だ!」
あまりの衝撃に棍棒が大きく揺れる。魔力で硬質化していなければ、真っ二つだ。
それ以上に驚いたのが、ルノーの素早さ。それまでとは格段に上がっている。一瞬でも気が緩んでいたら、間違いなく喰らっていた。
「上等じゃないか! うおおおおおお!」
ブローディアは引き下がらない。魔力を上げ、自分自身の身体をさらに強化させ、ルノーに立ち向かう。
ブローディアは考えた。ルノーの能力も格段に上がっている。ならば長期戦は不利、一気に勝負をつけないといけない。
棍棒を振り回し続ける。ルノーは腕を交差し防戦一方だ。
「でやあああああああ!!」
頃合いを見計らい、棍棒を全力で振り下ろした。しかし空を切る。
「……そんな」
突然視界が暗くなったかと思い空を見上げたら、ルノーが飛んでいた。新しく生えた翼のおかげで飛翔能力も得た。
ブローディアは目を疑った。空を飛べるとは思っていたが、まさかこんな高くまで飛び上がるなんて。
「がぁあああああああ!!」
「今度はなんだ!?」
ルノーが両腕を広げ気合を溜め始める。
そして両手の手の平を頭の上で向かい合わせ、その中心部に気を溜め始めた。とてつもない量の魔力が集中するのを、ブローディアは嫌でも感じた。
魔力が凝集し、魔球が形成された。真っ赤に燃える魔球、膨らみ続けやがてルノーの顔以上の大きさになった。
「がおわあああああ!!」
ルノーが両腕を振り下ろした。巨大な炎の魔球もそのまま高速で落下を始める。
ブローディアは引き下がらない。逆に好機ととらえた。
「お前がそう来るなら魔力を思う存分吸い取ってやるよ。バーストプレッシャー!」
ブローディアが棍棒を勢いよく地面に叩きつける。盛り上がった地面をさらに棍棒で叩きつけた。
粉砕された地面の塊が、落下してくる魔球に激突した。勢いを削がれた魔球はなおも落下を続ける。
「はぁああああああ!!」
両手を高々と上げて魔球を受け止めた。勢いが削がれたとはいえ、一瞬で手が火傷するほどの熱さだ。
「ぐぅううう……うおおおおお! 負けるかあああああ!!」
全身から汗が噴き出す。体中が焼かれるほどの熱さを感じる、それでもブローディアは耐えた。
耐え続けると次第に魔球の火の勢いは弱まり出した。そしてあっという間に縮み、魔球は消え去った。
同時にブローディアの体力と魔力も回復した。
「ははははは! あたしの底力、なめるなよ!」
「ぐぐぐ……がぁああ!!」
「悔しいかい? だけどね、あんたにはもう勝ち目はないよ。たっぷり回復させてもらったからね」
見下ろしていたルノーはなおも攻勢を緩めない。再び両手を広げ、気を溜め始める。
「またかい。何度やろうと同じことだ……って、なに!?」
異変に気付いた。今までとは様子が違う。確かにさっきと同じように魔力を溜めているが、今度はルノーの周囲に円形の結界が張られた。
結界はルノーを完全に囲みだした。ルノーは両膝を両腕で抱えて丸くなった。さながら自ら巨大な球体と化し、ぐるぐると回転を始める。
自分自身が巨大な魔球となり、そのまま地面に衝突する。その威力は計り知れない。
「あの規模だと……この山ごと吹き飛んでしまうよ」
ブローディアは迷った。このまま回避するべきか、受け止めるべきか。
さすがに今度の大技を受け止めるのは不可能だと察した。魔力が桁違いすぎる。
回避しても、衝突の破壊力は計り知れない。逃げて防御態勢をとっても、かなりのダメージを喰らう。
逃げても立ち向かっても一緒だ。ブローディアは覚悟した。
「……全力を込めた一撃だ。あの究極奥義で」
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