第70話 ルノー第二形態

「なんなの? この異様な気は!?」


 やっとこさ外の空気が吸えたと思ったら、今度はただならぬほど巨大な気を感じるじゃない。


 かなり離れているけどはっきり感じるわ。今まで以上にないくらいヤバい奴が出てきた。


 だけどこの気、どことなくルノーの気に似てる。気のせいかしら。


「とにかく急がなきゃ!」


 東南東の方角ね。全速力で飛ばすわ。ウィンディ、ジョージ、なんとか無事でいて。



「うぐぐぐぐぐぐ……ぐおわぁあああああ!!」

「完全に化け物になったな。言葉まで失って……哀れだね」


 ブローディアは恐怖とともに哀れみまで感じた。ルノーが過去に言っていた言葉を思い出した。


「俺を絶対に怒らせるなよ。怒りが頂点に達したら最後、誰にも止められなくなる。町どころか国が滅ぶ。大量虐殺の始まりだ」


 当初は自分を畏怖させるために、誇張して言ったのだろうと思っていた。


 だけどこうして現に化け物と化したルノーを見ると、それが冗談ではないと嫌でもわかった。ブローディアも無意識に手が震えた。


「甘く見ていた。でもあたしだってオーガ族最強の戦士、こんなところで引き下がるわけにはいかない! 来るなら来い」


 自分を鼓舞し、棍棒を強く握り直した。腰を低くし、ルノーが来るのを待ち構える。


 そして次の瞬間。


「なにっ!?」

「がぁああ!」


 ルノーの鋭い右手の爪がブローディアに襲い掛かる。咄嗟に棍棒で防御した。


「ぐぅ!? なんて威力だ!」


 あまりの衝撃に棍棒が大きく揺れる。魔力で硬質化していなければ、真っ二つだ。


 それ以上に驚いたのが、ルノーの素早さ。それまでとは格段に上がっている。一瞬でも気が緩んでいたら、間違いなく喰らっていた。


「上等じゃないか! うおおおおおお!」


 ブローディアは引き下がらない。魔力を上げ、自分自身の身体をさらに強化させ、ルノーに立ち向かう。


 ブローディアは考えた。ルノーの能力も格段に上がっている。ならば長期戦は不利、一気に勝負をつけないといけない。


 棍棒を振り回し続ける。ルノーは腕を交差し防戦一方だ。


「でやあああああああ!!」


 頃合いを見計らい、棍棒を全力で振り下ろした。しかし空を切る。


「……そんな」


 突然視界が暗くなったかと思い空を見上げたら、ルノーが飛んでいた。新しく生えた翼のおかげで飛翔能力も得た。


 ブローディアは目を疑った。空を飛べるとは思っていたが、まさかこんな高くまで飛び上がるなんて。


「がぁあああああああ!!」

「今度はなんだ!?」


 ルノーが両腕を広げ気合を溜め始める。


 そして両手の手の平を頭の上で向かい合わせ、その中心部に気を溜め始めた。とてつもない量の魔力が集中するのを、ブローディアは嫌でも感じた。


 魔力が凝集し、魔球が形成された。真っ赤に燃える魔球、膨らみ続けやがてルノーの顔以上の大きさになった。


「がおわあああああ!!」


 ルノーが両腕を振り下ろした。巨大な炎の魔球もそのまま高速で落下を始める。


 ブローディアは引き下がらない。逆に好機ととらえた。


「お前がそう来るなら魔力を思う存分吸い取ってやるよ。バーストプレッシャー!」


 ブローディアが棍棒を勢いよく地面に叩きつける。盛り上がった地面をさらに棍棒で叩きつけた。


 粉砕された地面の塊が、落下してくる魔球に激突した。勢いを削がれた魔球はなおも落下を続ける。


「はぁああああああ!!」


 両手を高々と上げて魔球を受け止めた。勢いが削がれたとはいえ、一瞬で手が火傷するほどの熱さだ。


「ぐぅううう……うおおおおお! 負けるかあああああ!!」


 全身から汗が噴き出す。体中が焼かれるほどの熱さを感じる、それでもブローディアは耐えた。


 耐え続けると次第に魔球の火の勢いは弱まり出した。そしてあっという間に縮み、魔球は消え去った。


 同時にブローディアの体力と魔力も回復した。


「ははははは! あたしの底力、なめるなよ!」

「ぐぐぐ……がぁああ!!」

「悔しいかい? だけどね、あんたにはもう勝ち目はないよ。たっぷり回復させてもらったからね」


 見下ろしていたルノーはなおも攻勢を緩めない。再び両手を広げ、気を溜め始める。


「またかい。何度やろうと同じことだ……って、なに!?」


 異変に気付いた。今までとは様子が違う。確かにさっきと同じように魔力を溜めているが、今度はルノーの周囲に円形の結界が張られた。


 結界はルノーを完全に囲みだした。ルノーは両膝を両腕で抱えて丸くなった。さながら自ら巨大な球体と化し、ぐるぐると回転を始める。


 自分自身が巨大な魔球となり、そのまま地面に衝突する。その威力は計り知れない。


「あの規模だと……この山ごと吹き飛んでしまうよ」


 ブローディアは迷った。このまま回避するべきか、受け止めるべきか。


 さすがに今度の大技を受け止めるのは不可能だと察した。魔力が桁違いすぎる。


 回避しても、衝突の破壊力は計り知れない。逃げて防御態勢をとっても、かなりのダメージを喰らう。


 逃げても立ち向かっても一緒だ。ブローディアは覚悟した。


「……全力を込めた一撃だ。あの究極奥義で」

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