第69話 怒り狂う獅子の覚醒!

 必死にルノーの腕を掴んで抵抗をするが、ブローディアも異変に気付いた。徐々に自分の体が熱くなってくる。


「もうこれ以上の口論はたくさんだ! 俺の炎で焼き尽くしてやる、ホークと一緒の死に方だ。嬉しいだろ!?」

「ぐわぁああああああああ!!」


 ブローディアの体が炎で包まれた。一か八かブローディアは賭けに出ることにした。


「今度こそあばよ」

「うおおおおおおおおお!!」

「なにっ!?」


 ブローディアが両脚でルノーの右腕を絡めとった。


「ナターシャ! お前の技、借りるぞ!」

「何の真似だ!? まさか……!?」

「そのまさかだ。でやああああああああ!!」


 両脚に渾身の力を込めルノーの右腕を締め上げた。バキッ、ボキッと骨が折れる音が響いた。


「ぐわあああああああああ!!」


 右腕に力が入らなくなり、ルノーの右手からブローディアは解放された。


 ブローディアは絡めていた両足をほどいて、そのまま地面に着地した。腕の骨が折れたルノーはうずくまった。


「ぐっ! お、おのれ……よくもおお!」

「まだ終わりじゃないぞ!」


 ブローディアは反撃の手を緩めなかった。地面に転がっていた棍棒をすぐに持ち上げ、ルノーの胴体に向けフルスイングした。


「バーストスイング!」


 棍棒が直撃し、ルノーは背後にあった木に一直線に衝突した。


 だがブローディアも消耗を隠し切れない。棍棒を地面に立て、しゃがみこんだ。


「はぁ……はぁ……やった……」


 棍棒は間違いなくルノーの腹部に直撃した。鎧はなかったから、これで致命傷のはず。


 しかしブローディアも慎重になった。おそるおそるルノーのそばまで近寄り、見下ろして様子を伺う。


「……死んだか」


 ルノーはうつ伏せに倒れたまま動かなかった。


「力を使い過ぎた。くそ……こんな様じゃ、まだナターシャには勝てない」


 ブローディアの喜びは半分だった。ルノーなんか本当の敵じゃない。


 あくまで自分の目的はナターシャを倒すこと、脱獄した真の理由もそれだった。


「今は一旦退くか。とにかく体力を回復……」


 ブローディアは山を降りることにした。しかししばらく歩くと、背後から妙な気配がした。


「まさか!?」


 振り向いたブローディアは唖然とした。なんと倒れていたはずのルノーが動いていた。


 まだ生きていたのか。ブローディアは棍棒を持ち直し、身構えた。


「……許さねぇ……」


 むくりと起き上がったルノーはボソッと呟いた。


「……許さねぇ……」

「なんだ、妙におとなしいぞ?」


 ブローディアも徐々に嫌な予感がしてきた。明らかにルノーの様子がおかしい。


「許さねぇ、許さねぇ、許さねぇ……」

「なんだよ……そんなに悔しいならかかって……」

「許さねぇええええぞおおおおおおおお!!」


 ルノーが山中に響き渡るほどの雄叫びを上げた。雄叫びが何度もやまびこで反響した。森中にいた鳥たちも一斉に羽ばたいた。


「な、なんだ……こいつ一体!?」

「許さねぇえええええ! 全員皆殺しだぁああああああ!!」

「あぁ、ルノー様が!?」


 背後に駆け付けていたルノーの部下が叫んだ。


「おい、あいつはどうなってるんだ!?」

「どうなってるって……もう俺達はお終いだ。ああなってしまっては最後。誰にも止められない!」


 部下の恐怖に満ちた言葉に応えるように、直後ルノーの体に変化が起きた。


「がおわああああああああ!!」

「なんだ? 翼だと!?」


 苦しんでいるようにも聞こえる呻き声を上げつつ、ルノーの背中から大きな翼が生えた。


 それだけではなく、顔には二本の角が生え、体も三メートル近くにまで巨大化した。


 爪と牙はさらに伸び、目もギラギラと真っ赤に光る。もはや以前までの面影がなくなった。


「あぁ……ルノー様のもう一つの姿……もうお終いだ」

「あれが……本当の姿……」

「ぐがぁあああああああ!!」



「ふふ、とうとう怒らせてしまったな」


 山頂のアジト内にいたフェイルは、オーブにてルノーの変貌を見届けた。


「あぁ、なんてこと! フェイル様、早くルノー様を止めに!」

「無駄だ。私でもどうしようもできんな」


 慌てふためく部下をしり目に、フェイルは言い切った。


「そ、そんな……」

「すべてはブローディアの責任だ。もっとも彼女でも無理だろうがな」

「このままじゃ俺達だって殺されてしまいます! こんなところで死にたくねぇ!」

「ならばさっさと逃げるがいい。まぁ、ルノーに見つからなければの話だが」


 戸惑っていた部下達だが、一人がアジトを足早に出て行った。そして次々に逃げる者が続出し、最後にはフェイル一人が残った。


「馬鹿どもめ。もう“獅子奮迅”はお終いだな。そして計画も全て破たんだ。ゼイオス様に報告せねば……」

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