第68話 手段を選ばない獅子

 来た。ブローディアの読み通り、ルノーは一直線に自分に突進している。


 目の前で大斧を大きく持ち上げた。胴体ががら空きになったその瞬間を逃さない。


「バーストスイング!」

「ぐぅっ!?」


 ブローディアが力を込め棍棒をフルスイングした。


 しかし棍棒は空を切る。ギリギリのところで察知したルノーが、ジャンプしてかわした。


「馬鹿な……どうして!?」

「ははは! ブローディア、お前も相変わらずだな。そう来ると思ったぜ!」


 笑いながらルノーはブローディアの背後に着地した


「お前の行動は読めていた。どんな奥義も、当たらなければ意味がなかろう」

「……そうやって、あたしの体力の消耗を狙うつもりかい?」

「いけないか? 避けられる方が悪いんだろ!」

「避けた、と本当に思ってる?」

「なんだと……うっ!?」


 バキン!


 何かが割れる音が聞こえた。そして次の瞬間、ルノーの足の周辺に金属の破片が散らばった。


 ルノーもそれが一目でわかった。そしてがら空きとなった腹部をさする。


「俺の鎧を……よくも!」

「おやおや、どうした? あたしの行動が読めてたんじゃないのかい?」

「調子に乗るなよ! お前相手に鎧など必要ない。ふん!」


 ルノーは全身に力を込めた。隆々とした上半身の筋肉をさらに膨らませると、深紅色の鎧はその筋肉の圧力で一気にバラバラに砕けた。


「これで身軽になった」

「馬鹿だね。今度は絶対に当てて見せる。直撃したら、あんただってただじゃ!」

「馬鹿なのはお前の方だぜ! 俺が鎧を脱いだ理由はこれだ!」

「なんだと!?」


 ルノーが腰を低くして、斧を両手で持ち上げた。そして大量の炎で斧全体を覆った。


「な、なんて魔力!?」

「ふはは! ブローディア、お前は相手の魔力を吸い取れるんだったな。俺の大技、吸い取れるものなら吸い取ってみろ!」


 ルノーが挑発した。その言葉通り、受け止めて魔力を吸い取れる。しかし斧全体をまとう業火によって、簡単にいきそうになかった。


「あの灼熱じゃ吸い取る前に焼き尽くされる。ならば……」

「たっぷりと地獄を味わえ! 獅子豪炎刃!」


 ルノーが斧を全力で振りかぶった。巨大な炎で出来た刃がブローディアに向かって一直線に飛んでいく。


 ブローディアは避けなかった。ルノーと同じように棍棒を両手で持ち、魔力を込めた。


「バーストプレッシャー!」


 渾身の力を込め地面をたたき割った。ブローディアの目の前の地面が大きく盛り上がる。


 盛り上がった地面はそのまま盾の役割を果たし、巨大な炎の刃の勢いを弱らせた。


 ブローディアの読み通りだ。地面の盾は破壊されたが、勢いが弱まったおかげで魔力が吸い取れる。


「よし、うまく行った。あとは……」


 必死にルノーの気配を探ったが、どこにもいなかった。影も形もいない。


「不意を突くつもりだね、させないよ」


 ブローディアは身動きせず、周囲の気配と音を慎重に探った。


 すると、頭上から何かが高速で落下してきた。


「来た!」


 ブローディアは迷わず、その落下してきたものに狙いを定めた。


「でやあああああああ!!」


 全身の力を込めた全力のバーストスイングを直撃させた。手応えは十分だ。


 直撃され前方の木に衝突したのを確認し、ブローディアは近づいた。


「これは!?」


 目を疑った。どう見てもルノーじゃない。


「うぐ……ル……ルノー……様……」


 木に衝突していたのはルノーと同じく獅子顔をした戦士、部下の一人だった。


 急いでルノーの気配を探り直そうとしたが、遅かった。


「ぐぅ!?」

「残念だったな、俺の勝ちだ」


 ルノーの巨大な右手がブローディアの首を掴んだ。身動きできず、ブローディアは宙に浮かされる。


 はめられた。ルノーは手段を選ばない、勝つためにはどんな手も使う。もっと早く気づいていれば、ブローディアは後悔した。


「部下って言うのはこういう時に役に立つ。俺と顔が似た戦士はいくらでもいるんでなぁ」

「……部下を物のようにしか扱わないのか、お前という奴は!」

「ははは、なんとでも言え! 勝つためには手段を選ばないことにしてるのさ、俺はな!」


 ブローディアの怒りは頂点に達しようとしていた。必死にルノーの右手を掴んで抵抗をはかるものの、まるでビクともしない。


「ぐぅ……うぅ……」

「ふふ、単純な腕力じゃ俺の方が上だってことは知ってるだろ?」

「あたしが苦しむのが……そんなに楽しいかい?」

「楽しいさ。でもな、残念だが俺もそこまで暇じゃねぇ。お前をさっさと殺して、新しい花嫁を探さねぇといかないんだ」

「新しい花嫁だと!?」

「おうよ。マチルダ・グノーシス、俺はグノーシス商会を乗っ取り、そしてゆくゆくはこの国の王となるのだ!」

「……やっぱりそれが狙いだったんだね。失望したよ、お前には!」

「失望だと? お前に何がわかる!?」

「うぐっ!?」


 さらに強力な握力で首を絞めた。


「人間どもに俺達亜人の住処はとことん奪われた。今度は俺達が人間どもを支配する、奪われたものを奪い返すだけだ!」

「だからって……やっていいことと……悪いことがあるだろ……あろうことか……人間の……女と……」

「俺は欲しい物は何でも手に入れる。それだけだ。ブローディア、残念だがお前はもう用済みなんだよ」

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