第67話 牙をむいた女戦士
「見つけたぞ、マチルダ!」
ラファテに乗って追っていたルノーがついにその姿を捉えた。
前方100mほど先の木々の間を狼に乗って下山している。
「あそこに向かって降下しろ!」
ラファテは翼を広げ、そのまま降下し始める。
マチルダが振り返った。彼女もルノー達の姿を確認して、さらに速度を上げた。
「今更逃げられんぞ!」
「ぎゃああ!?」
突然ラファテが呻き声をあげ、態勢を崩した。
「なんだ? おい、どうした!?」
「ぎぃああああ!?」
またもラファテが呻き声をあげた。血が噴き出している。
「矢だと!? 一体どこの誰が!?」
翼と胴体に刺さった矢によって血が噴き出し、ラファテはそのまま地上へ落下した。
ルノーもラファテを見限り、飛び降りた。
「えぇい、こんな時に! 役立たずが!」
ルノーが右手で大斧を持ち、もがいていたラファテに向け振り下ろそうとした。
その刹那、ルノーは何かが高速で飛んできたのを感知した。
ガキィイン!
斧で弾き飛ばしたのは石だった。誰かが背後にある岩場から狙っている。
「誰だ!?」
「相変わらず怒りを他にぶつけないと気が済まないのかい」
「まさか……その声は!?」
聞き覚えのある女性の声が聞こえた。声の主は岩の背後から出てその姿を現す。ルノーがよく知っていた女性だ。
「おやおや、なんだいその顔は? まるで亡霊でも見るようじゃないか」
「馬鹿な……お前はさっき……」
「あぁ、そうか。さっきも会ったっけ。でもね、本物の私が雷ごときで死ぬわけないだろ」
*
「馬鹿な? なぜブローディアがここに!?」
遠くの木々の間から、二人の邂逅を目撃していたのはジョージとウィンディだ。
「あの監獄から抜け出したのね。大したもんだわ」
「あそこから脱獄なんて、いくら彼女でも……」
「そうか、あなたは知らないのね。ナターシャが彼女にヒントを教えていたの」
「ヒントだって!? それは一体……」
「詳しくはナターシャに聞いて」
「……わかった。それでどうする? 助けるか?」
ジョージの言葉にウィンディは頷かなかった。
そして左手にある鏡を覗き込んだ。
「マチルダはまだ下山中よ。あとはルノーをなんとかしないと……」
「ブローディアが味方とは限らない。もしあの二人が協力でもしたら……」
しかしそんなジョージの心配はすぐに消えた。
なんとブローディアが棍棒を持ったまま、ルノーに襲い掛かる。そのまま跳躍し、ルノーの頭上目掛けて棍棒を振り下ろした。
ガキィイイイイン!!
金属の衝突音が響く。なおもブローディアは攻撃を続ける。
「……あの二人、完全に敵対してるわ」
「ならば、ブローディアを助けよう。あのルノーが相手だと彼女だって苦戦するぞ」
「待って!」
ジョージが立ち上がったが、ウィンディは左手で制した。
「まさかこのまま黙って見ていろっていうのか!?」
「冷静になって考えて。あのブローディアだって元盗賊団よ。しかも脱獄囚。味方をする理由はないわ」
「それは……確かにそうだけど……」
「あの二人が戦っているのなら、それはそれで好都合。どっちが勝っても敵よ。ならば互いに消耗させればいい」
ジョージも彼女の言葉にある程度納得し、再びしゃがんだ。ウィンディは腰を低くしたまま動き始める。
「マチルダを助けに行きましょう」
*
「でやあああああ!」
ブローディアは攻撃をし続ける。ルノーは襲い掛かるブローディアの棍棒攻撃を斧であしらい続ける。
「何の真似だよ、ブローディア。それが元愛人への態度か!?」
「誰が元愛人だ!」
ルノーの言葉に怒りをあらわにしたブローディア、攻撃の勢いを緩めないがルノーは動じない。
ブローディアが勢いよく棍棒を振り下ろした。ルノーはさっと後退して避け、棍棒は地面を叩きつけた。
二人は目を合せ間合いをはかっている。
「あの監獄からどんな方法で抜け出したか知らんが、せっかく脱獄して自由の身になったのに俺に逆らうとは馬鹿な女だ。命が惜しくないのか?」
「どのみち逃げたって、お前はあたしを生かしたりしないだろ!」
「ははは、その通りだ。裏切者には死あるのみ。部下が部下なら、ボスもボスだ。お前もホークと一緒の墓で眠らせてやるよ」
ルノーの言葉がブローディアに伸し掛かった。彼女の怒りはまた爆発しそうになった。
しかしブローディアは逆上するのをこらえた。相手はルノーだ。自分を挑発しているのは目に見えている。
「ふふ、どうした? かかってこねぇのか!?」
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