第66話 金鎖からの解放
公爵令嬢時代に磨いた奥義がここで役に立つ。頭上に向けて十字状の衝撃波を放ち、取り囲んでいた竜巻の勢いを弱めた。
そのまま衝撃波は天井に届いて、一部を崩落させた。衝撃波だけじゃなく、崩落した天井の一部でさらに竜巻の勢いは弱まるはず。
計算通りになった。天井の一部が崩落すると、火炎竜巻がほぼ収まりかけた。
今度は私の番よ。
「スーパーミスト!」
大気中にある大量の水蒸気を集めると、濃い霧が発生する。この空間が蒸し暑いから、より大量の霧が集まり始めた。
ドラゴンの周囲を濃い霧が発生した。おかげで姿が見えなくなったけど、あっちからも私の姿が見えないはず。
今のうちに気配を殺して、そのままドラゴンの背後に回り込む。隙を見て、このミスリル製の剣で金鎖を破壊してやる。
霧でよく見えないけど、ドラゴンはまだ右往左往しているみたい。狙い通りね。
これで決めるわ。勢いよくジャンプして、頭部に装着されていた金鎖に剣先を向けた。
行ける。そう思った直後、変なものが鎖から出来た。
「なにこれ!?」
そのまま私は後ろに吹き飛ばされ、地面に落下した。何が起きたのよ。
よく見たら、金鎖が妙な形状に変化している。鞭のようにしなやかになって、私を弾いたのね。
なんてこと。多分破壊されないよう、鎖自身が接近してきた物体に対して攻撃するよう仕組まれているのね。
甘く見ていたわ。ということは迂闊に近づけない。どうしたらいいのよ。
「ぐがぁああああああ!!」
しまった。霧が薄まってきて、ドラゴンも私の場所に気付いた。
「くぅう!?」
強烈な尻尾で叩きつけてきたけど、なんとかかわした。
仕方ない。また霧の魔法で姿をくらます。だけど、今度はそうはいかなかった。
「ごぉおおおおおお!!」
ドラゴンは大きく息を吸い込んで吐き出した。炎を吐き出すかと思ったら違う、なんと霧を振り払った。
なかなか賢いじゃない。二度も同じ手は効かないとはね。
金鎖に近づいたら、弾き飛ばされる。となれば、この剣をあそこまで投げようか。
いや、多分それも駄目。近づいてきたら、剣にだって反応するはずよ。打つ手がない。
「待てよ! あれだ」
何も飛ばすのは剣じゃなくてもいい。人差し指を額の鎖に向けて、魔力を高める。
高威力のライトニングバレット、しかもこの魔法は雷だ。雷は金属に帯電する性質があると聞いたことがある。
あの金鎖も金属だ。ならばライトニングバレットを鎖に当てれば、帯電して破壊できるはず。
でも狙いを絞ろうとしたけど、なんということか、額の鎖は思った以上に細い。
狙いがつけにくい。なんとか正確に照準をつけようとしたけど、ドラゴンがまた炎を吐き出した。
炎の次は尻尾を振り回してくる。避けるのは簡単だけど、これじゃ狙いが正確に定まらない。
「えぇい、このままじゃ……でも行くしかない!」
もたもたしている暇はなかった。意を決して、ライトニングバレットを額の金鎖に向けて発射した。
バァン!
「ごぉおおおおお!!」
「くそ、外した」
やっぱり金鎖が思った以上に細すぎる。金鎖の僅か上の部分を直撃しただけだ。しかも魔力的に大したダメージにもなっていないはず。
「がぁああああああああ!!」
かなり怒らしてしまったみたい。また翼で猛烈な風を起こして、渦を形成させる。そして炎を吐いてお得意の火炎竜巻だ。
さっきより威力が高め。何が何でも私を焼き尽くしたいのね。でも威力が上がったって、また十字破斬で収められる。
再び衝撃波が天井にぶつかって、瓦礫が落ちてきた。
ゴォオオオン!!
何やら金属製の物体がぶつかるような音が聞こえた。よく見たら、すぐ横の地面に鉄の棒が落ちている。
「……これは?」
さっきドラゴンが起きた際に落下した鉄格子だ。五本くらい落ちている。
待てよ。鉄格子、よく考えたらこれも金属じゃない。
しかも鉄格子が五本あるけど、なんとお互いにくっついている。多分、ドラゴンの吐き出した炎の熱で溶けたのね。
溶けてくっついた五本の鉄格子、かなり大きい。これなら狙いをつけやすい。
「これを使えばいけるはず!」
私は迷わず、鉄格子を両手で持った。かなり熱い、今にも火傷しそう。でも我慢よ、あのドラゴンの額に投げるまで。
今度こそ決める。念のため、ドラゴンが攻撃をし終えたのを見届けてから投げよう。
「がぁああああああ!!」
「今だ」
ドラゴンが例のごとく口から炎を吐き出す。その炎を素早くよけ、体を回転させ勢いよく鉄格子を額に向け投げた。
鉄格子はそのまま額に一直線に向かっている。そして金鎖がその鉄格子に反応して、鞭のように変形して弾き飛ばそうとした。
その瞬間を逃さない。
「はぁあ!!」
鉄格子に向けライトニングバレットを発射した。金鎖に比べれば当てやすい。私の狙い通りだった。
バァアアアアアアアン!!
間違いなく命中した。それと同時にバチバチバチバチと強烈な火花もドラゴンの額の周りに起きている。
「ぎぃああああああああああ!!」
ドラゴンが叫びをあげて固まった。そしてしばらくすると、額の金鎖が真っ二つに割れて、地面に落下した。
ドラゴンも口を開け硬直したまま、地面に寝そべった。多分気絶しているはず。
「ふぅ、やったわね」
金鎖じゃなく鉄格子にライトニングバレットを当てた。金鎖は自動的に伸びて鉄格子を弾こうとしたけど、その瞬間絶対に鉄格子に触る。
ならば鉄格子にライトニングバレットを当てれば、金属同士だから帯電するわ。私の計算通り。
私って超頭いいでしょ!って、ジョージがいたら大声で自慢したかったけどな、残念。
「って浮かれてる場合じゃなかった!」
もう私としたことが。ドラゴンは片付いたんだから、マチルダを助けに行かないと。
ジョージとマチルダだけじゃ不安だ。急がなきゃ。
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