第64話 迷宮脱出!

「えぇい、これはどういうことだ!? 説明しろ!」

「そ、そのように申されても……」


 オーブでウェアウルフを追尾し監視していたルノーは激怒した。今目の前で見た光景を見れば当然だ。


「首輪をつけていましたから、恐らくさっき迷宮に送り込んだ三人の誰かのペットです。多分マチルダを見つけたら助けるよう、命令されていたのでしょう」

「なぜ気づかなかった!? お前ともあろう者が!」


 ルノーに叱責され、フェイルも何も言い返せなかった。正直ルノーにだけは言われたくない、フェイルも心の中で罵った。


「甘く見ておりました、あの狼の迅速性と忠実さ。全て無駄がなく完璧でございます」

「敵を褒めている場合か! もう我慢ならん!」

「ルノー様?」


 ルノーが憤然と立ち上がり、部屋から出た。廊下を歩き続け、大きなドアがある前に立った。


 ドアを強引に開けて大部屋の中央に立った。天井には巨大な穴が、ぽっかりと開いている。


「これ以上部下どもに任せられん。俺が直接向かう。ラファテ!」


 ルノーの声が響く。すると、奥から不気味に光る二つの瞳が近づいた。


「ぎぃああああああああ!!」


 翼を生やした小型のドラゴンが現れた。背中には手綱があり、「ルノー専用」と書かれたプレートがついた首輪をつけている。


「フェイル、あの狼の逃げた方向は!?」

「東南東約400メートルほどです。そのまま一直線に下山中です」

「よし、ラファテ! 全速力で追え!」

「ぎぃあああああああ!!」


 ルノーが乗り込むとドラゴンは翼を広げて飛び上がり、天井の穴から外へ飛び出した。


 フェイルはそのままルノーを見送ったが、もう一つの大事な事実を敢えて報告せずにいた。さっきオーブに一瞬だけ映った女性、フェイルは一目見てわかった。


「本物も到着したな。これは、波乱となりそうだ」



「はぁ……はぁ……もうすぐ地上よ。頑張って!」


 先頭にいたウィンディが、息を切らしながら声をかける。何メートル進んだかわからないけど、確かに空気の質が変わってきたのを感じる。


「順調すぎないか」

「ジョージ、深く考えちゃ駄目! とにかく進んで!」


 ジョージは慎重だから、まだ罠が潜んでいると警戒しているのね。


 確かに今のところ魔物も襲ってこない。だからと言って、今更戻るわけにはいかない。


 ドン!


 何かがぶつかる音が聞こえて、ジョージが止まった。私もジョージにぶつかった。


「ちょっと、何急に止まってんの!?」

「いや、ウィンディが……」

「ウィンディ!? 一体どうしたの!?」


 確かにウィンディが立ち止まっていた。よく見たら、左手に何か持って見つめている。


「……やったわ! あの子が!」

「どうしたって言うのよ!?」

「グスタフがやってくれたわ。これを見て!」


 ウィンディが振り向いて、左手をこっちに見せた。左手には小さな鏡があり、そこにグスタフが映っていた。


「これは!?」

「まさか……マチルダ!?」


 グスタフが背中に女性を乗せて走っていた。さっきルノーと一緒にいたマチルダだ。


「よかった。本当に……」

「ジョージ、安心するのはまだ早いわ。下山するまでは、奴らが追ってくる」

「わかっているさ。僕らも急いでここから出ないとな!」


 言われなくてもわかっている。マチルダは逃亡に成功した。急いでここを抜け出さないと。


 ウィンディも鏡をしまい込んで、私達は走って地上を目指した。


 それから約五分、階段を上ってやっと出口のドアが見えた。


「着いたわ。ここが出口ね!」


 立体地図をもう一度確認した。確かにこの先に広大な空間が広がっている。


「気を付けろ。何が待ち受けるかわからないぞ」


 ジョージが警告した。ウィンディも頷いて、慎重にドアの取っ手に手を伸ばす。


「じゃあ、開けるわ」


 そぉっと取っ手を回すと、そのままゆっくりとドアを押す。ドアが開くと、その先には確かに広大な空間が広がっていた。


「間違いない、奴らのアジトだな」


 空間内を一目見て分かった。今までとは作りが違う。私達がルノーと対面した広間と似ている感じだ。


「気配を殺して。ここからは、絶対に気付かれないように」


 改めて中に入ると、かなり広大な空間だとわかる。


 どのくらいの高さか、気になって天井を見上げたその時だ。


「見て、あれを!」


 奥の壁の天井に近い部分に、鉄格子がかかっている部分がある。その鉄格子の間から、赤い何かが垂れ下がっていた。


「あれは……そんな!」

「ここはあいつの寝床のようね。広すぎるわけだわ」

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