第62話 隠し階段発見!

「えぇい、部下どもは何をしている!? まだ見つからんのか!?」


 大盗賊団“獅子奮迅”の頭領室にて、ルノーの怒り声が響き渡る。


 マチルダが失踪して三十分も経つ。捜索にあたった部下達からの連絡はまだない。


 唯一わかっていることは、マチルダが屋外に出た可能性があるとのことだ。


 それでもまだザローイン山の山頂付近のどこにいるはず。広いのは間違いないが、それでも一人の女性を探すのになぜここまで手間取るのか。ルノーのいら立ちはつのるばかりだ。


「ルノー様、よろしいでしょうか?」


 魔道士のフェイルが話しかける。


「フェイル、どうしてお前のオーブでも探し出せない!?」


 フェイルの持ちこんだオーブをルノーが睨んだ。頭領室内の中央の台座に置かれていたのは、フェイルが用意した特殊な魔法オーブ。この魔法オーブなら、マチルダの居場所もわかるはずだ。


 しかしオーブにはマチルダの姿はどこにも現れない。さっきからフェイルが念入りに魔力を送り込んでいるが、いくら待っても、もやがかかったような映像が流れるだけだ。


「恐らく、特殊な魔法結界を張っているものかと存じます」

「魔法結界だと!? 馬鹿な! たかが貴族の令嬢ごときが、そんな大それた魔法など使えるものか!」

「ルノー様、世の中には様々な魔法道具が存在いたします。マチルダ殿が使っているのは、魔結界のネックレスかと存じます」

「ネックレス……」


 言われてルノーも気づいた。確かにマチルダはネックレスを使っていた。まさかそれが魔法道具とは予想もしなかった。


「小癪な真似をしおって」

「ご安心ください、すでに手はうってあります」


 フェイルがオーブに手をかざすと、違う映像が現れた。数匹の狼が、臭いを嗅ぎながら闊歩している。


「ウェアウルフか、なるほど……」

「ここから東に約300メートルほどです。すでに部下達にも伝達済みです」

「よくやった。ふふ、マチルダめ。臭いまでは防げまい! 絶対に逃がしはせんぞ」



「はぁ……まだ三分の一くらいね」


 地下迷宮の最深部から移動を開始して、はや一時間が経った。


 ソナー珠のおかげで、迷うこともなく進んでいけてる。行き止まりもない、今のところすごく順調。


 地図がなかったらと思うとゾッとするわ。だけどさすがは1000メートルの深さがあるだけに、まだ迷宮の半分の地点にもいっていない。


 途中には案の定魔物も大量に襲ってきた。まぁそこまで強くもなく、さっくと倒し続けられたけど、数が多すぎるわ。


 これからまだ先は長い。疲れもだいぶ溜まって来た。力を使い過ぎないように気を付けないと。


「一旦休憩しましょう」


 ウィンディが声をかける。幸い魔物の気配もほぼない、私とジョージも頷いた。


 私達がいるのは、左右に分かれ道がある三叉路の場所だ。地図を頼りにすれば、ちょうど左側にいけばいいことになっている。


 でも私はここで妙な線があることに気付いた。


「この紫色の線は、何なの?」


 左右の分岐のちょうど中間点、今私達が立っている目の前の壁から、何やら紫色の線が表示されている。


 さっきまでは小さすぎて気づかなかった。近づくにつれて徐々にその線が明瞭になって、一本の途切れない直線になっていることに気付いた。


「気になるな。どこまで続いているんだ……」


 ジョージも気になって指で辿り始める。紫色の線はそのまま真っすぐ上に向かっている。


 途中で何度か直角に曲がったりしているけど、そのままずっと真っすぐ続く。


 私の視線はそのまま上に向かった。そして紫色の線は途切れた。途切れた箇所をよく見たら、目を疑った。


「は? 嘘でしょ……」

「そのまま地上へ出るみたいね」


 ウィンディも気づいた。私は咄嗟に目の前の壁を凝視した。


「この先に、地上へ続く階段があるのね!」

「でも……特に何もなさそうだが」

「隠し扉になっているのよ。ちょっと待って……」


 ウィンディも壁に近づいて手を触れる。目を閉じて、今度は額を壁につけた。


「……間違いないわ。この先は空洞になっている」

「この壁を壊せばいいのよね?」


 私が腕を回しながら言うと、二人とも呆気にとられた。


「……罠かもしれない。念のため用心して」

「どんな罠が来ようとかまわない。もうこれ以上迷路を進むなんてうんざりよ!」

「そうだな。今回ばかりは僕もナターシャに賛成だ」

「ありがとう」


 ジョージも珍しく私に同調してくれた。腕に力を集中させ、腰を低くした。


「はぁあああああああ!!」


 壁に目掛けて聖拳突きをお見舞いした。衝撃が壁どころか、床にまで伝わって二人とも態勢を崩した。


「全く、あなたという人は……」

「見ろ、壁が!」


 次の瞬間、壁一面にひび割れが生じた。そしてそのまま壁一面は崩れ去り、真っ暗な巨大な穴が姿を現した。


「階段だわ!」

「やった。あとはひたすら上り続けるだけね」

「でも、用心してくれ。まだどんな罠が待ち受けているかわからないから」


 ジョージの言う通りね。確かに地上までの最短での近道に違いないけど、危険な罠が潜んでいる可能性もある。


「じゃあ、私が先頭で」

「しんがりは私に任せて。ジョージは真ん中ね」

「わかった」


 ウィンディを先頭、ジョージが真ん中、私が最後尾に並んで階段を上り始めた。


 縮小されたソナー珠の立体地図をもう一度見た。階段の行き着く先は地上っぽいけど、広大な空間になってるみたい。


 この空間、多分ルノー達のアジトの一部なのかな。それにしてもかなり広い、一体何があるというの。


 まぁ今は考えても仕方ないわ。魔物が襲ってくる可能性もあるけど、今はひたすら上ることに集中よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る