第59話 魔道士フェイルの罠

 ルノーが右手を上げると隣にいた魔道士が手に杖を持って、頭上に掲げた。


 強烈な光が天井から差し込んできた。さっき見えた天井の穴から漏れている、そしてその穴の真下にちょうどブローディアとマチルダがいた。


 嫌な予感がした。直後、さらに激しい光が差し込んで、二人の姿は見えなくなった。


 思わず目を閉じた。


 ドォオオオオオオン!!


 雷が落ちたような音が聞こえた。目を開けると、見たくもない光景が目に入った。


「ぐわああああああああ!!」

「そんな……」

「マチルダああああああああ!!」

「なんてことを……」


 ブローディアとマチルダの二人が火だるまになっている。雷が二人を直撃したんだ。


 マチルダは即死だったのか、声も上げずにそのまま倒れこんだ。そしてブローディアはまだ足掻いている。


 でもしばらくして動かなくなった。私達もただ呆然と見るしかなかった。


「あぁ、そんな……マチルダ……」


 ジョージはへたり込んだ。目を覆いたくなる現実、ブローディアもマチルダも死んだ。


 しばらくして、徐々に怒りがこみ上げた。


「ルノー!! よくもー!!」


 我慢ができず大声を上げた。でもやっぱり体が動かない、どういうことなの。


「ふふふ、安心しろ。お前達には違うサービスを用意してあるからよ」

「どういうことなの!? なんでブローディアを殺したの!?」

「言っただろ? 人間ごときにやられた役立たずな女戦士など俺は要らない。ただ俺の目の前で殺したかっただけだ」

「な、なんてこと……」


 そんな理由でブローディアを釈放させたの。この男、どこまで冷酷で非情なワケ。


「あ、姉貴いいいいいい!!」


 後ろからホークの声が聞こえた。


「そんな姉貴が……」

「ブローディアは死んだ。今日から正式に俺がお前達のボスだ」

「どういうことっすか!? なんで姉貴を殺したんすか!? ボスはブローディアを愛してたんじゃなかったんすか!?」


 そういえば、ホークは元部下にあたる。ホークは何も知らなかったの。それにしても衝撃的な事実ね、ブローディアがルノーの愛人だったなんて。


「愛していたさ。だがそれはもう過去の話。今は別の愛人ができたんでなぁ……」

「な、なんだって!?」

「ふふふ……」


 別の愛人、まさか。ルノーの背後にあるドアが開くと、一人の女性が出てきた。すぐに誰かわかった。


「ま、マチルダ!?」

「どうなってんの!? マチルダが二人!?」

「違うわ! さっきのは……」

「ははは! お前ら気づくのがおせぇんだよ!」

「ごめんなさい、皆様……」


 複製人形だ。なんてこと。ルノーも私達と同じ策を練っていたの。


 甘く見過ぎていた。このルノー、見た目に反してかなり悪知恵が働くみたい。いや、こいつじゃなくて、隣にいる魔道士の入れ知恵かも。


「さぁて種明かしも終わったところで、第二のショータイムだ。フェイル!」


 ルノーがまた右手を上げた。さっきと同じように、また魔道士が杖を高く掲げた。


「な、なに!?」

「床が光っているわ。これは……」

「しまった。呪縛陣か!?」


 動けなくなったのはこの陣のせいだったの。それにしてもなんて魔力。


 あの魔道士が発動した陣なんだろうけど、そんじょそこらの魔道士じゃ考えられない強さね。


 でも魔力の高さじゃ私だって負けないわ。絶対に解いてやる。


「ぐぅ……うおおおおおおおお!!」

「ナターシャ、頑張って!」


 よく見たら、魔道士も少し動揺しているみたい。もっと動揺させてやるわ。


「なかなかやるではないか。さすがブローディアを負かしただけのことはあるな」

「その余裕面、今に恐怖の色に変えてやるわ」

「ふふふ、だがお前達とは一生戦うことはないだろうなぁ。なぜなら……」


 ルノーが魔道士の方を見た。まずい。


 このままじゃさっきと同じ雷を喰らってしまう。さすがにあれを直撃するのはまずい。


 その時、マチルダがルノーの腕を掴んだ。


「やめてください! 言ったはずです、あの方達だけは見逃してくださいと!」


 マチルダが必死に叫んだ。


「マチルダ……」


 ルノーがにやけた。


「安心しろ。俺は約束は守るさ。あいつらは殺しはしない……」

「ほ、本当に……!?」

「ちょっと奈落に落ちてもらうだけさ。一生抜け出せない地獄の底にな」

「なんですって!?」

「フェイル、あれをやれ!」


 隣にいた魔道士が杖を両手に持って、高く掲げた。


 さっきより強い魔力を込めているみたい。もしかして雷攻撃か。


 でも違った。直後、体が軽くなりふわっと浮くような感じがした。


「な、なんなの!?」


 一瞬呪縛陣が解けたのかと思ったけど違った。よく見たら、床には奇妙な模様の魔法陣が描かれていた。


 青や紫、赤が混じって不気味に光っている。嫌な予感がした。


「ワーペロ・サデッカ・モジューラ・レベセーガト……」


 魔道士が聞いたこともない言葉で魔法を唱えている。隣にいたウィンディが即座に反応した。


「まさかこの魔法は!?」

「ウィンディ、わかるの!?」

「転移魔法陣よ! 早く逃げ……」

「ゼッタ!!」


 最後に聞こえたのは魔道士の声だ。直後視界が真っ黒になり、私は暗闇の中で身動きができず、ただ落下し続けた。

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