第58話 予想外の行動!?

 今私達が連れているブローディアは本人じゃない。


 この前ジョージが私に見せてくれた複製人形で複製された影武者だ。


 昨日わざわざ監獄シドファークに行ってブローディアと会ったのは、ほかでもないこの複製人形のためだ。複製人形は魔力を送り込んだ者と、全く同一の姿形をした影武者となる。


 ホークや周りの部下達も、完全に本人と思い込んでいるわ。あとはこいつらのボスだ。


 間近で見たらさすがに偽物だと気づくかもしれない。でも気づいた時には最後よ、すでにウィンディとジョージの二人も強力な仲間がいる。


 と言っても、マチルダを救出してからの話ね。彼女を取り戻したら、速攻でジョージが守護結界石を使う。


 守護結界石とはウィンディが用意してくれた魔法道具、エルフ特製の魔法道具でこの石に護られれば、どんな強力な攻撃だって防げる。やっぱりウィンディが味方でよかった。


 あとはウィンディと私の二人でルノーを倒す。一人の戦士に対して二人がかりというのも気が引けるけど、相手が相手だからね。確実に仕留められるやり方を選ぼう。


「着いた、ここだぞ」


 ホークが止まった。目の前に巨大な洞穴がある。ここがあいつらのアジトだ。


 中に入ってしばらく進むと、巨大なドーム状の空間が広がっている。天井はかなり高く、遥か頭上に穴がぽっかり開いていた。


 なんであんなところに穴が。でも考えている時間はなかった。


「ん? この気配……」

「まさか!?」

「よく来たな、ナターシャ・ロドリゲス!」


 悪党っぽい張りのある低い声が響き渡った。直後、前方にある階段を上った先のドアの前に亜人の戦士と、貴族の身なりをした女性が立っているのが見えた。


「マチルダ!」

「あんたが……炎獅子ルノー!」


 一目見たらその特徴を忘れられない凄い外見をしている。炎獅子だから獅子っぽい見た目をしているのは予想していたけど、顔の周りにあるたてがみが真っ赤な炎みたい。


 身に着けている鎧も立派な深紅色、筋肉隆々の巨体は私よりも大きい、2メートルはくだらないわね。


 おまけに背中には巨大な斧まで携えている。さすが誰もが憧れるほどの元英雄ね。


「約束を守ってくれたようだな。感謝するぞナターシャ!」

「それは交換してからの話よ。さぁ、マチルダを返しなさい!」

「おいおい、慌てるなよ。まずお前達から先だ」


 くそ。やっぱり抜け目ないわね、この男。


「お待ちください、ルノー様」


 変な男の声が聞こえた。なんとルノーの右隣にいつの間にか、全身ローブで身を包んだ人物がいる。


 姿からして魔道士っぽい。顔も見えないけど、一体何者なの。


「やはりここは公平にしましょう。同時に人質を交換するというのはどうでしょうか?」

「ふん、お前も随分お人好しだな」

「ナターシャ殿、それでよろしいでしょうか?」


 随分と丁寧で物分かりのいい人物だ。


「えぇ、いいわよ」


 ウィンディもジョージも頷いた。敵とは思えないほどの紳士っぷり。思わぬ助け船だけど、仮にもルノーの部下っぽいから油断は禁物ね。


「では3つ数えたら、同時に歩き出せ。いいな?」


 ルノーが言った。マチルダとブローディアも頷いた。


「ひとつ……ふたつ……」


 最後まで気を抜いちゃ駄目、ルノーはまだ何か企んでる可能性もある。


「みっつ!」


 ブローディアが前に出た。同時にマチルダも前に出た。


 どんどん二人の距離が近づいている。今のところ異常はない。ルノーも身動きをする気配もない。


 マチルダが階段を降り切った。それと同時にブローディアもマチルダと追いつく。


 二人とも重なった。その時だ。


「え?」

「どういうこと!?」

「マチルダ、何をしている!?」


 信じられないことが起きた。なんとマチルダがブローディアを羽交い絞めにして身動きを止めた。どうなってるの。


「貴様、何の真似だ!?」

「ごめんなさい。こうするしかないの!」

「マチルダ、馬鹿な真似はやめるんだ!」

「ルノー、どういうことなの!?」

「……ふふふ、はははははは!」


 ルノーが笑い出した。やっぱり罠だったの。


「この時を待っていたぜ、ブローディアよ」

「なんだと? 貴様、やっぱり裏切ったな!」

「裏切ろうとしていたのは、どこのどいつだ!?」

「な、なに……!?」


 なんてこと。私達の考えが読まれていたの。


 仕方ない。こうなったら強硬策に出るしか。


「え? なに……?」


 踏み出そうとしたけど、足が一歩も動けなかった。


「人間ごときに負けたオーガ族の戦士など、もう用済みよ」

「馬鹿な……まさか貴様……」

「フェイル、やれ!」

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