第57話 マチルダ救出作戦
ブローディアとの面会を終えた私達は、港町まで戻ってきた。
「はぁ、やっと終わったわ」
「もうあんな場所には行きたくないわね」
計二十分もクジラの口の中にいたなんて、考えるだけでゾッとする。とにかく今はシャワーを浴びたい。
「ジュドー隊長!」
突然ジュドーを呼ぶ若い男の声が聞こえた。彼の部下が走って向かってきた。
「どうした? 何かあったのか?」
「はい。ジョージ皇太子殿下が……」
慌ててジュドーが部下の口を塞いだ。
「大声でその名前を言うな!」
不用心な部下ね。周りに人が大勢いるのに、聞かれたらどうするのよ。
「うぐぐ……申し訳ございません」
「全く……で、彼についてどんな報告だ?」
「はい。その……大変申しづらいのですが……」
部下はかなり深刻な表情を見せる。嫌な予感がした。
「失敗しました」
「なんだって!?」
「ご安心ください、彼は生きて帰ってきました。傷一つなく……」
「だが、それでは……」
「交渉は失敗したとのことです。今ペラーザ町にいますから、詳しくは後程彼からお聞きください」
「わかった。報告ありがとう」
部下は敬礼して足早に帰った。
「あぁ、やっぱりね。そんな感じはしていたけど……」
「でもそれじゃ……完全に私達次第になるわね」
「とにかく私達も戻りましょう」
やっぱり駄目だったか。生きて帰って来れただけでもマシね。
全てはウィンディの木箱の中にあるアレ次第だ。馬車に乗り換えてペラーザ町に引き返すことにした。
*
ペラーザ町の『まどろみの宿』に着いた。ジョージもとっくに戻っていて、仮面はつけていない。
ジョージが言うには、奴らのアジトに行き、炎獅子に会うことはできた。でもいざ会って自分が皇太子だと明かしても、まるで聞く耳を持ってもらえなかったという。
そりゃそうなるわ。本物の皇太子がそんな場所に行って人質交換を要求するって、普通あり得ないもの。
ジョージのマチルダを助け出したい想いは理解できるけど、やっぱり無茶がある作戦だったわね。
「心配しないで、ジョージ」
ウィンディから木箱を受け取って、ジョージに中身を見せた。
「これは……うまくいったのか!?」
「だから言ったでしょ!」
期限は明日まで。ほかに手はない。ブローディアからいただいた魔力、無駄にするものですか。
ジョージが突然立ち上がった。鞄の中から仮面を取り出す。
「僕も一緒に行かせてもらう。嫌だとは言わせないよ」
「わかったわよ。足を引っ張らないでね」
さすがにここまで来たら断れない。
ブローディアを連れて同行が許可できるのは三人まで、一人は私と指示されている。
つまりあと二人連れて行けるわけで、ジョージとあと一人だけ。でも一番頼りになるのは、彼女よ。
「ウィンディ、お願いしていい?」
「水臭いわね。同じパーティーじゃないの」
よし、これで三人決まった。
「でもエックス、念のためフードとかも被ってね。あとウィンディも、エルフだってバレたら何かと面倒だわ」
「わかった」
「ナターシャ殿……」
ジュドーが慎重に声を掛けた。私は首を横に振った。
「駄目よ。同行を許可するのは三人まで。あなたは残って……」
「ですがそれでは!」
「ジュドー。気持ちはわかるが、下手に刺激させない方がいい」
「……わかりました」
渋々頷いてくれた。
「私達三人もいれば十分よ」
「相手は炎獅子です。どんな卑怯な手を使うかわかりません。最後まで気を抜かないように」
ジュドーに言われなくてもわかっている。マチルダ救出作戦、人生でこんなに手と汗握る作戦に挑むなんて初めての体験。
失敗は許されないわ。
◇
翌日、私とジョージとウィンディの三人はザローイン山の山頂から南西部にある古代遺跡跡地に向かった。
そこにはすでに炎獅子の部下と思われる亜人の兵士達がいた。そしてホークとその部下達もいた。
「ふふ、約束通りだな」
「ブローディアの姉貴、俺達やりましたぜ!」
「あぁ、やればできるじゃないか。恩に着るよ」
私達が連行しているブローディアを見て、ホークも嬉々としている。すっかり自分の作戦が成功したものと思っているわね。
「ちょっと、あなた達も約束守ってよ!」
「わかってるさ。新しいボスのところまで案内してやるよ」
ここじゃなかったのか。ホークが歩き出したので、私達はあとを追うことにした。
「……なんとか騙せたわね」
ウィンディが小声で語りかけた。
「僕の複製人形をあなどっちゃいけないよ。誰がどう見ても本人だ、声だって完全に複製できる」
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