第50話 疲労困憊の帰還

 岩壁から身を起こし、腰を低くして身構える。そして最も自信のある攻撃手段に変えた。


 右拳に全魔力を集中させる。ただの聖拳突きじゃ通用しない。


「がぁああああああああ!!」


 次の瞬間、ドラゴンの口の前方に巨大な魔球が形成され、発射された。


 やっぱり私の思った通り、ドラゴンの口から放たれたのは巨大な火の玉、ただのフレアボールじゃない。


 多分ボルケーノシュートと同じだ。もちろん直撃したら、さすがの私も一たまりもない。かといって回避したらこの周辺一帯は吹っ飛ぶ。


 ならば、弾き返すまでよ。


「真・魔拳突き!」


 全魔力を集中させた右拳で、向かってきた魔球を叩きつけた。動きは止まったけど、魔球はビクともしていない。


「ぐぅ……なんて重さ」


 右腕が震えてきた。だけど負けるわけにはいかない。私はさらに魔力を高めた。


「でやあああああああ!!」


 魔球はそのまま私の右拳で押され、そのままドラゴンに向かって一直線に飛んだ。


 跳ね返すことには成功した。あのドラゴンだって満身創痍、私の全魔力も込めて跳ね返したら、さすがに今度こそただではすまないはず。


 ドォオオオオオオオオオオオン!!


 目の前で巨大な爆発が起きた。思った通りの凄まじさ、私も吹き飛ばされそうになるほどの威力だ。


「うわぁ……派手にやっちゃった」


 しばらく煙で何も見えなかった。煙も消えた後の光景を見て、唖然となった。


 目の前に巨大なクレーターが生じていた。木々も完全に消えていたけど、ドラゴンの姿もなかった。


「消えた……消滅したの?」


 気配すら感じない。まさかさっきの一撃で本当に消滅したのか。


 なんとなくしっくり来なかった。確かにこれまでにないくらいの魔力を使ったけど、一ミリも体の破片を残すことなく消してしまうだなんて思えない。


「考えても仕方ない。あのドラゴンは消えた、ならば……」


 今度こそマチルダを探さないと、だけどすぐに私の体にも異変が起きる。


「うぅ……しまった、魔力が……」


 ほぼ残っていない。さっきの一撃はかなり効いた。またあんな奴が襲ってきたら、さすがにヤバい。


 でも今はマチルダを探さないと。なんとかこらえて、集中を高めて気配を探った。


「……気配が感じない?」


 いくら気配を探っても、マチルダの気配が感じられない。それどころかホークの気配すら感じない。


 逃げたのかも。ドラゴンとの戦いの最中は、完全に妨害されてマチルダの気配を探る余裕なんてなかった。


「いや、まさか……」


 嫌な予感がした。さっきの爆発に巻き込まれたかも。


 それだけは、やめてほしかった。こっちも威力を調整する余裕なんてなかったのよ、勘弁して。


「はぁ、どうしたら……ん?」


 私の体目掛けて、何かが高速で向かってくるのを感じた。これはもしや。


 バシッ!


「ぐぅ、危なかった!」


 ギリギリのところで左手の指二本でそれを掴んだ。予想通り、矢じりだ。


 うっかりしてた。ホーク達が逃げたこの山、多分敵の本拠地かそこからかなり近い場所のはず。


 つまり、私が今いるこの場所は、敵からしたら絶好の的になる。このままここにいたら、どうぞ狙ってくださいと言っているようなものね。


 さっきの矢じりもギリギリだった。マチルダの行方もわからないし、魔力も残っていない状態で、これ以上長居はできない。


「今日のところは、見逃してあげるわ」


 私は山を降りることにした。だけど私はふと気づいた。


「あれ……矢に?」


 矢じりに紙が巻き付かれていた。その紙を取って、広げてみる。


 そこに書かれていた長い文章を読んでみた。


 一瞬だけ希望の光は見えた。でもそれと同時に、奴らの恐ろしい目的までわかった。


 この矢は私を攻撃するために撃ったんじゃない。知らせるためのものだったのね。


「あいつら……なんてこと考えてるの」



「お帰りなさい」


 山を降りた私をウィンディが出迎えてくれた。


「あなた、まだいたの?」

「あなたを置いて帰れるわけないでしょ。それにしても、ひどい」


 ウィンディが私の体を見て顔色を変えた。


「えぇと、その……」


 よく見たら、服がボロボロになっていた。


 ウィンディは多分さっきの爆発も気づいたはず。なんていえばいいか迷った。


「何があったのかは、敢えて聞かないことにするわ」

「……ありがとう」


 空気を読んでくれて助かる。隣にはグスタフも元気よく座っていた。


「私が体力を回復させたから、安心して乗って」

「そうさせてもらうわ。さすがにもう……疲れた」


 私はグスタフの背に乗った。もう日付は変わっている頃ね。今日一日いろいろありすぎて、疲れが一気に押し寄せた。


「じゃあ、戻るわね」

「……うん」


 ウィンディの背中に顔を押し寄せる。彼女も眠たいかもしれないけど、私はついに我慢しきれずそのまま眠りに落ちた。

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