第48話 ホークの意地

「もう少しよ、グスタフ頑張って!」


 グスタフは走り続ける。さっき私が光を見た場所まで、距離的にはあと二百メートルくらい。


 もう少しだ。でもここでグスタフに異変が起きる。


「息が……荒くなってるわ」


 ウィンディの言葉通りだ。確かにグスタフの呼吸が激しくなってきてる。


 それと同時に若干速度も落ちてきた。無理もない、さっきからずっと走りっぱなしだもの。


「がう!?」


 突然、グスタフが止まった。


「そんな、もうバテたの!?」

「がるるる……」

「違うわ。これは……」


 ウィンディが鼻を手で抑えた。するとグスタフも何やら様子がおかしくなって、せき込んだ。


「がふぅ、がふぅ!」

「ごほっ! なに、この臭いは!?」


 私も嫌でも臭った。ただならぬ悪臭が漂ってくる。


「ごほっ! ごほっ! これじゃ臭いを辿れないわ」

「そんな! ここまで来て……」

「あいつら気配も消している。このままじゃ追跡は無理ね」


 ウィンディは諦めたような口調で話す。でも距離はそこまで離れていない。


「私は……諦めないわ」

「ナターシャ、無茶言わないで。グスタフの体力も……」

「じゃあ降りるわ。私一人でも行く」


 私はグスタフから降りた。まだチャンスはある。


「ちょっと! 臭いも辿れないし、気配察知もできないのよ!? どうやって追うわけ?」

「あいつらは、マチルダをさらった。つまり私達ほど、早くは移動できないはずよ」

「そうかもしれないけど、たったそれだけの理由で追跡なんて無茶よ」

「あなたは先に別荘に戻ってて。グスタフもしっかり休ませてあげて」

「あぁ、ちょっと!?」


 私は走った。ウィンディが呼び止めたのが聞こえたけど、お構いなしよ。


 悪臭がどんどん酷くなってくるから、鼻では息できない。鼻を手で抑えながら移動するのって、けっこうしんどいわね。


「さぁて、どこに行ったかしら……」


 奴らは気配を消している。でも所詮は素人だ。


 私の気配探知を甘く見ないでね。目を閉じて、魔力を高めた


「……嫌でも気配を出させるわ。スコールシャワー!」


 奴らはマチルダを連れているから、迂闊に攻撃魔法は放てない。ならば威力も低めの魔法で威嚇するまで。


 前方の木々一帯に大粒の雨を降らせてみた。最近編み出した魔法だけど、どうかしら。


「ん? 一瞬だけ……」


 感じた。突然の雨にとまどったようね、私の予想通りだ。


 正確な距離と場所も分かった。一時の方向、距離は約70mか。


 私は走った。今度こそ、逃がしはしない。


 走り出すと同時に、奴らの気配もビンビン感じるようになった。私に見つかったと気づいて、奴らも走り出したようね。


 でも足の速さじゃ負けないわよ。



「とうとう見つけたわ。観念しなさい!」


 木々の間をいくつも抜けた先に、奴らはいた。マチルダをさらった連中は、私の姿を見ながら立ち止まっている。


「兄貴……追いつかれましたよ!」

「参ったな。やっぱりお前だったか、ナターシャ!」

「あら、あなた?」


 よく見たら知っている顔だった。確か“ブラック・スティーラーズ”のホークね。


 私達にこてんぱんにやられて、まだ懲りてなかったの。でもよく考えたら、ホークは取り逃していた。今度は捕まえないとね。


「あなた、諦めが悪すぎるわよ。ブローディアはとっくに幽閉されたのに」

「うるせえ! てめえに何がわかる!? 俺達盗賊団は執念深いんだよ、ブローディアがいなくても、まだ新しいボスがいるんでな」

「新しいボス……まさか炎獅子のこと?」

「ふふ、そうさ! よく知ってるな!」

「ブローディアが言ってたわ。ってことは、あなた達はそいつの部下になったってこと?」

「その通り! 俺達の新しいご主人様さ、言っておくがブローディアなんかよりも遥かに強くて恐ろしいぜ! お前でも敵じゃねぇ!」


 呆れた。盗賊には忠誠心の欠片もないって言うけど本当ね、元頭領を簡単に呼び捨てにするなんて。


「ただの腰ぎんちゃくじゃない、あなた達」

「こ、腰ぎんちゃくだと!?」


 ホークが怒り出した。この男、相変わらず気が短いわね。


「あ、兄貴……こらえてくれ、今は……」


 そばにいた部下が馬車の荷台を見ながら言った。


「あぁ、そうだったな。ナターシャ、今はお前と戦っている暇はないんでね」

「言ってくれるじゃない。私が見逃すとでも思って?」

「ふふ、お前だって知ってるだろ? 俺達が超重要人物を連れていることに」


 もちろんそのことは知っている。なるほど、考えたわね。


「下手に手だししてみろ! マチルダ・グノーシスの命はねぇぞ!」

「……はいはい、わかったよ。じゃあここから一歩も動きません」


 もちろん一歩も動かないでも、あいつらを一網打尽にできる余裕はある。あの魔法を使うか。


 パァン!


「……へ?」


 部下の一人が後ろへ倒れた。ついでにもう一人の部下も倒した。


「な、なにが起きた!?」

「これがわからないの?」

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