第45話 ジョージの救出
約30分後、私達はベルフィンク岬を一望できる丘の中腹にまでやって来た。
グスタフの速さに助けられた。仮に馬だったら、もっと時間かかってたわ。
「あれがベルフィンク岬ね。って、なにあれ!?」
高台から見下ろすと、驚愕の光景が目に入った。なんと岬周辺の海域が虹色に輝いている。
あまりの美しさに圧倒された。
「ホタルクラゲね。私も見るのは初めてよ」
「ホタルクラゲ? 夜になると七色に光るというあの……」
こんな美しい光景が見られる岬を一望できる場所に別荘を建てるだなんて、贅沢すぎるわ。
いやいや。妬んでいる場合でも、感傷に浸る場合でもなかった。ジョージを探さないと。
「あそこに別荘があるわね」
丘のてっぺんにちょうど大きな別荘があった。あれがマチルダの別荘、もう夜遅いのに明かりがついていて、別荘の周りを人が右往左往しているのが見える。
「探し回っているようね」
「一旦別荘に行きましょうか。ジョージがいつ頃出たのか気になるわ」
私は別荘に向かおうとした。でもすぐにウィンディが腕を掴んだ。
「ちょっと待って! 今別荘に行くのはまずいわ」
「まずいってどういうこと!?」
ウィンディはため息をついた。
「あのね。身分の高い人物が二人も行方不明になったところに、狼を連れた背の高い二人の女性が現れたら、みんな不審がるわ」
「あ……それもそうね」
確かにウィンディの言う通り。私はいいとしても、ウィンディはエルフ、さらにグスタフも狼としては巨体すぎる。
怪しむな、という方が無理があるわね。私も軽率だった。
「まずはジョージだけでも探しましょう。森の中にいるはずだから。ほら、あそこ!」
私達は再び丘から見下ろした。ベルフィンク岬から西に数百メートル進んだ場所あたりに、森が広がっている。
きっとジョージはあの森の中だ。早速グスタフに乗って、森へ出発することにした。
「待って。その前にもっと正確な場所を探らないと……」
「正確な場所って。何か手はあるの?」
「もう一回さっきの手紙貸して」
ウィンディにまたジョージが書いた手紙を手渡す。ウィンディが目を閉じて再び念じた。するとすぐに目を開けた。
「大変! 急がないと!」
「何があったの!?」
「……血を流して倒れてる」
「なんですって!? 仮面はつけてないの?」
「いえ、つけているわ。でも、かなり重傷みたい」
とんでもないことになったようね。仮面を被っている以上、そう簡単にジョージも魔物にやられないはずなのに。
そのジョージが血を流すって、かなりの強敵と戦ったのね。
「グスタフ、飛ばして!」
「ガウ!」
ウィンディが声を掛けると、グスタフは風を斬るように走り出した。
この岬に来るまでの速度よりも速い。この子、どこまで速く走れるの。
森の中へ入ったあとも、グスタフは速度を落とすことなく、木々の間を駆け抜ける。
この様子だと、グスタフはもうジョージの正確な場所がわかっているみたい。ジョージには悪いけど、多分血の臭いでわかっているのね。
「いたわ、あそこ!」
視界の先に、立派な服を着た人物が岩を背に座り込んでいた。血を流したわき腹当たりを手で抑えている、多分治癒魔法も使えるんだろうけど、魔力が低下しているみたいね。
「ジョージ! 大丈夫!?」
私の大声に彼も気づいて、ハッと顔を上げる。仮面は被ったままだ。
「ナターシャ、ナターシャなのか!?」
彼の目の前でグスタフは止まった。私は即座に降りて、ジョージのそばに寄った。
「しっかりして! ヒール!」
彼の傷跡に手を当てて、治癒魔法をかけた。でも血は止まらない。
「かなり深い傷ね。ごめんなさい、私の治癒魔法程度じゃ完治できないわ」
「ぐ……すまない。また君に迷惑をかけてしまって」
「しゃべっちゃ駄目! 今すぐ別荘に戻りましょう」
私は彼を抱えて立ち上がろうとした。
「いや、戻ってはいけない。彼女を……マチルダを探さないと」
「気持ちはわかるけど、あなたが死んだら元も子もないじゃない! それにもう夜も遅いわ」
「大丈夫よ。私に任せて」
ウィンディが自信のある顔で言った。
「え? あなたも治癒魔法が……」
「使えるわ」
さすがエルフね。ウィンディならかなり高度な治癒魔法が使えるのかもしれない。
彼女はジョージの傷跡に両手をかざし、目を閉じた。
「ここは森の中だから、森の精が集まっているわ……木々の精霊よ。このお方の受けた深き傷痕を閉ざし、清らかなる水と光で包みたまえ」
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