第42話 宝石商でコアを鑑定

 アンジェラは顔をしかめながら言った。


「何が言いたいの?」

「きなくさい感じがしてね」

「え? それって……」


 アンジェラは突然首を横に振った。


「ごめん、また悪い癖が出たわ。気にしないで」

「……そう」

「じゃあ失礼します。私達、大事な用がありますから」


 アンジェラが何を言いたかったのかすごく気になる。でもウィンディがボソッと「コア」と耳元で囁いたのを聞いて、私達もギルドを出た。


 ギルドを出て、しばらく歩くとウィンディが凄いため息を出した。


「はぁー、もうしんどかった。なんなのよ、あのおばさん!」

「ただ者じゃないわね、一度戦ってみたいわ」


 ウィンディはギョッとした顔で私を見た。


「やめた方がいいわよ。私だってわかるわ。あのおばさんの底知れない気を」

「だからこそ面白そうじゃないの」

「はぁ……どこまで強い戦士が好きなの、あなたは」

「まぁ、それより宝石商まで急ぎましょう。閉まっちゃうから」


 私達は駆け足で宝石商の店まで向かうことにした。店の手前まで行くと、なんと店主らしき人物が入口の前に立っていた。


 まだ閉まっていなかったと思いきや、その店主がいきなり入口の扉の上に幕を下ろし始めた。


「あぁ! ちょっと待った!」


 ちょうど閉まる時間だったみたい。店主は振り向くと、私達の顔を見てギョッとした。


「お客さんか? 困るね、もう閉めちゃうんで明日にしてもらえないかい?」

「そこをなんとか。そんなに量も多くないから!」

「駄目なものは駄目だよ! 宝石の鑑定には時間がかかるんだ」


 店主もなかなか頑固ね。こうなったら嫌でも態度を変えさせるまでよ。


「お願い! これだけだから」

「だから駄目だって……え?」


 私は右手にアクアリウムスライムのコアの破片を持って、店主に見せた。


 やっぱり私の思惑通り、店主も目の色を変えたわね。さぁ、どう出るかしら。


「……こいつは凄い。まさか、アクアリウムスライムのコアか!?」

「そうよ。さすがは宝石商ね」

「まだあるわよ。ほら、これも」


 ウィンディも右手にコアの破片を持って、店主に見せた。店主はさらに目を見開いた。


「ふほほ、すげぇ! アクアリウムスライムのコア自体超レアなのに、それが十個近くもあるのかい!?」


 さっきまでの不機嫌な様子は一変し、店主はもう目の色を変えて、コアをじろじろと見始める。


「ねぇ、まだ閉めるのは早くない?」

「……そうだな。わかった、お嬢さん達は特別だぜ! 入りな!」


 店主も気持ちを変え、垂らしていた幕を引っ込めると、ドアを開け中に入る。私達も続いた。


「……別に明日でもよかったのに」


 ウィンディがボソッと呟いた。


「こういうのはなるべく早めに済ませたいのよ」

「まぁ、気持ちがわからなくはないけど」


 店主がカウンターの中まで行くと、急にしゃがんで何かを探し始める。


「あった、これだ。ちょっと待っててくれよ」


 店主がカウンターの上に取り出したのは、妙な形をした器具だ。


 貝殻のような見た目をしていて、下の部分にはくぼんだ形をした透明の入れ物がある。


 上の部分は蓋になっていて、その中央に円形の白く光る石がはめられている。


 多分石は魔石の一種かもしれないけど、恐らく透明の入れ物に宝石を入れて蓋を閉めると、宝石の価値の鑑定ができるようになっているのね。


「宝石鑑定器、通称“アプレイザルシェル”さ。試しに一個だけ鑑定させてくれ」


 私はコアの破片を一個貝殻の下の窪みに置いた。


 店主が上の蓋を閉じた。すると、しばらくして貝殻全体の色が変わり始める。


「うぉお!? これは!?」


 店主が突然大声をあげた。貝殻全体は金色に輝いている。


「……多分当たりね」


 ウィンディが呟いた。これはかなりの金額が期待できるわね。


「へへ、俺も長年この仕事をしているが、こんな大物は初めてだぜ」

「それはどうも。いくらになるの?」

「そうだな……この色だと……」 


 店主が金色の貝殻をまじまじと見つめる。どうしてそんなに考え込むのかしら、色で簡単に判別とかそういうのじゃないの。


「ざっと、3000ゴールドかな?」


 店主が発した言葉に一瞬耳を疑った。


「はぁ? 何ですって!?」

「だから3000ゴールドだよ。言っておくが、これでもかなり高いぜ」

「いや……ちょっと待って!」


 私はウィンディの顔を見た。彼女も唖然としているようだ。


「……低くない?」

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