第41話 ギルドマスターの底知れぬ強さ!?
私はカウンターの上に爪の一部を出した。この爪は炎の剣で焼き尽くして残った一体目の一部だ。
「……あの二体も倒したんですか?」
「そうよ。だけど一体目は焼き尽くしちゃって、これだけしか残らなかったの」
「そ、そうですか。はは……」
受付嬢は苦笑いした。ウィンディも呆れたように頭を抱える。
「Aランク魔道士でも、ポイズンモールは焼き尽くせないわよ」
「そうなの。じゃあSランク魔道士なら可能よね」
「……あなたは魔道士じゃないでしょ?」
あぁ、そういえば私の戦闘職ってどうなるのかしら。私はふと自分のメンバーカードを見た。
「あれ? なにこれ?」
ふと見ると長方形のプレートの形は変わっていなかったけど、色が全体的に変わっている。鮮やかな緑色になっていた。
「あ、おめでとうございます。Cランクに昇格しましたね」
「え? 昇格って……」
「はい。依頼を達成し続ければランクが上がる仕組みですので」
そういえばそんなこと言ってたわね。といっても、そんなにまだ多く依頼を達成していないから、達成感がないわ。
「自動で昇格するのか、便利な仕様ね」
「そうよ。あと、戦闘職もこれで正式に決まるわね」
「え? そうなの……」
「ウィンディ様の言う通りです。今までは新人冒険者扱いですが、ナターシャ様のそれまでの戦闘履歴がそのメンバーカードにも記録されているんです」
「それでその戦闘履歴をもとにどんな戦闘職にふさわしいか、認定されるの。でも戦闘職とかあくまで名目に過ぎないから、そんなに深く考えないで。剣士なのに魔法使っても全然問題ないのよ」
なるほど。あくまで一番向いている戦闘職を表示させるわけね。
私はもう一度メンバーカードを見た。でも名前とランク以外は何も表示されていないように思える。
「ねぇ、戦闘職とか書いてなくない?」
「それは……ちょっと見せてください」
受付嬢も私のメンバーカードを見た。だんだん困惑してきたみたい。
「……初めての事例ですね。やっぱりナターシャ様は」
「あなたは特別ってことなのね。なんだか羨ましい」
「じゃあ戦闘職なしってこと?」
「その通り。強いて言うなら“オールマイティー型”かしらね」
カウンターの奥から突然別の女性が聞こえた。現れたのは、紺色の分厚いコートを着た女性だ。
髪は綺麗な茶髪だけど、顔を見た感じ結構年取っているように見える。歴戦の戦士が醸し出す年相応の風格を感じるわ。
「あぁ、マスター! まだいたのですか?」
「今日はたまたま暇でね。それより、見てたわ。戦闘職が表示されない冒険者とか、いつ以来かしらね?」
このギルドのギルドマスターのようだ。ギルドマスターが女性とは思わなかった。
笑いながら私に近づいた。身長は170センチくらいで、女性としてはそれなりに高い方だ。
でも私はすぐ感じた。彼女から感じる気は計り知れない。
昨日戦ったブローディア以上の実力じゃないかしら。
「あなたがここのギルドマスター?」
「そうさ。名前はアンジェラ・レインハート、よろしくね」
アンジェラは右手を差し伸べた。堂々とした顔と姿勢で私を見上げる。
今までの女性は長身の私を見上げたら、大抵動揺していたのにこのアンジェラは全くそんな素振りすらない。逆に余裕を持った笑みを浮かべている。
でもその余裕は決して演技じゃない。隣にいるウィンディも顔が引き締まっている。彼女だってアンジェラの底知れぬ力を感じているんだ。
「ナターシャ・ロドリゲスよ、改めてよろしく」
アンジェラと握手を交わす。握手をしていた間も、彼女は一時も私から目を離さず、隙を見せない。
今この場で不意を突いて攻撃をしかけても、絶対に当てられないわね。
「……ふふ、さすがね。もう私の強さを感じたの」
「……あなたこそ」
「あの……二人ともどうしたんですか?」
にらみ合って口数も少なくなった私達の様子を、受付嬢が心配した。
「なんでもないわ。仕事しなさい」
「は、はい……」
「そういえば、あなたもいたわね」
「ウィンディ・ベローナよ。今日付けで彼女とパーティーを組むことにしたわ」
「よろしくね、エルフの弓使いさん」
アンジェラもにっこり笑いながら、ウィンディと握手を交わす。
「あら? もう一人いたでしょ? 仮面の紳士さんが」
なんてこと。アンジェラはジョージのことも知ってたのね。
「仮面ですって? あなたのパートナーって一体どんな人よ?」
「名前はエックスって言うの。詳しくは宿に行ってから話すわ」
「……急いであげたほうがいいわよ」
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