第36話 全属性魔法の使い手
三体目は無事に倒せた。魔物封印球に閉じ込め、これで依頼も無事に達成ね。
「なにじろじろ見てるの?」
ウィンディは呆然と私の戦いぶりを見ていた。
「凄いわ! あなた風魔法まで使えるのね」
「あら、魔法なら全属性扱えるわ」
「ぜ、全属性ですって!? ってことは、水と土も?」
「もちろんよ、はい!」
私は水魔法と土魔法も披露した。大量の水を鉄砲のように発射させる魔法、そして地面の下から岩盤を突き出す魔法を繰り出す。
ウィンディは口をあんぐり開けたまま見ていた。
「す、すごい……しかもなんて威力と精度なの……」
「昔から訓練してたから、どうってことないわ」
「……もしかして雷も?」
「使えるわよ。ほいっ!」
右手の人差し指で切り立った崖を指差した。人差し指の先から、小さな雷を凝縮させた弾を発射させ、崖の一部を崩落させた。
ウィンディはもはや言葉すら出さなかった。
「ライトニングバレットよ。でもこれも威力の調整が難しくてね、今のも手加減したつもりだけど……」
「あなた規格外すぎだわ」
「うーん、自分はそうは思ってなかったけど。あなたは魔法扱えないの?」
「使えるけど、風と水と土だけね。炎と雷は無理だわ」
「エルフは長生きなんでしょ? だったら全属性の魔法を極められるんじゃない?」
「あのね、魔法には属性適正っていうのがあるのよ」
「ぞ、属性……適性?」
そういえば、魔法には属性適正があるって話を聞いたことがある。
「どんなに訓練したって、その属性への適性がなかったら極められない。私は……炎と雷適性がないから」
「そうだったの……」
なんだか気まずい空気になった。普通に全属性魔法を見せつけたのはいいものの、これじゃ私が大げさに自慢しているみたいで気分が悪いわ。
「ごめんなさい。別にそんなつもりじゃなかったの」
「謝らなくていいわ。私はあなたが規格外だって十分知っているから」
「……それはどうも」
「それよりさ、あなたのその力。ぜひ私に貸してくれない!?」
ウィンディは目を見開いて聞いてきた。やっぱり彼女、まだ諦めてなかったのね。
「あなたとパーティーを組めっての?」
「う……その……実は倒したい魔物がいるんだけど、私だけの力じゃかなり厄介な魔物なのよね。それで……」
「いいわ、力を貸してあげる」
私は快く返事をしてあげた。
「え? 本当にいいの!?」
「気が変わったのよ。パーティーを組むのも悪くないと思ってね」
「そうなの。凄く嬉しいわ、じゃあこれから改めてよろしくね!」
ウィンディは手を差し伸べた。彼女の手をがっちり組んで握手した。
これで改めて、ウィンディとパーティーを結成することになった。
でも、よく見たら彼女も背が高い。180くらいあるかもね、長身な女性が二人もいたら目立つかも。
「エルフの中では平均より高いのよ」
なんてこと。こんなことならもっと背が低いエルフを選べばよかった。
いや、今更後悔しても仕方ない。彼女の弓の腕はよく知っている、戦力的に彼女の代わりがいなさそうだしね。
「それよりさ、さっき言ってた倒したい魔物がいるって話だけど……」
「ごめん、ここにはいないの。実はここからまだ南にある海岸で……」
「もしかしてキノエ海岸?」
「そうよ。そこにいるスライムの退治に苦しんでて、でもあなたの魔法なら……」
キノエ海岸にスライムが出てくるなんて、初めて知ったわ。面白そうだから、付き合ってあげるか。
でも私はあることに気付いた。
「わかったわ。行きたいけど、その前にギルドへ行かないと」
「あ、その必要はないわ。今回の討伐はギルドの依頼とかじゃないから……」
「え? そうなの」
「あのね、魔物の討伐って必ずしもギルドで依頼を受ける必要はないわ」
「それはそうかもしれないけど、じゃあスライム討伐の報酬って……」
彼女は首を横に振った。
「お金じゃないわ。しいて言うなら、スライムを倒した後に手に入るコアね」
「なんだ、実質タダ働きなの?」
「ちょっと、そんなこと言わないで! あのね、キノエ海岸に出てくるスライムのコアは超貴重品よ、間違いなく!」
ウィンディが自信たっぷりに主張する。これだけの自信を見せてくれるってことは、よっぽどの大物なのね。
「そこまで言うなら、行きましょう」
キノエ海岸はここからそこまで距離が離れていない。私とウィンディは徒歩で向かうことにした。
キノエ海岸に向かう途中、ウィンディはいろいろ話してきた。魔法以外にも、興味を引いた物があるという。
「そのブーツだけどさ、普通の装備じゃないわね。魔法効果があるでしょ?」
「あら、やっぱり気づいてた?」
「当然よ。さっきのポイズンモール、私も気づかなかった。多分、地中の振動を感知するのね」
彼女の聡明さには驚いた。長命のエルフということもあるけど、どっちかっていうと彼女自身の頭の良さかしら。
「そのピアスと指輪だってそうでしょ?」
「え? それは……」
「私の目は誤魔化せないわよ」
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