第35話 ウィンディとの再会

 出てきたのは同じポイズンモール、二体もいたのね。


 これは好都合よ。今度こそ焼き尽くさない程度で倒して見せる。私は炎の剣の魔力を抑えた。


「さぁ、来なさい!」


 剣を構えた。でもモグラは一歩も動かない。


 どうしたというの。動かないというか、まるで凍り付いたかのようだ。


 そしてそのまま倒れこんだ。なんと背中に矢が突き刺さっていた。


「この矢……まさか!?」


 見覚えのある矢、まさかと思い気配を探知した。矢を放った張本人の気配が遠くに感じる。一昨日会ったわね。


「尖った耳……ウィンディ!?」


 遠くから近づいてきたのは、耳が尖ったエルフの女性。一昨日クレセントバード討伐の際に出会った、ウィンディだ。


「あら? また会ったわね、確か……」

「ナターシャ・ロドリゲスよ。あなた、マブーレの村にいたんじゃ……」

「そうよ。でも……またあなたと同じ依頼とはね」


 ウィンディとまた同じ依頼を受けるだなんて。これは何かの運命なの、女性同士だというのに。


「今度こそ、私の獲物のようね。あなたはすでに一体倒したようだけど、残念ね」

「見てたのね」

「もちろんよ。でも強すぎるって言うのも、不便よね」

「今回は、あなたの勝ちのようね」

「そうよ。じゃあ遠慮なくいただきます」


 ウィンディが右手から魔物封印球を取り出して、すぐさまポイズンモールの体を吸い込んだ。


「どうでもいいけどさ……この魔物って」

「あなたも気づいたのね。そう、この峡谷はヴァンパイアのペットどもの住処になっているの」


 ヴァンパイア、見た目は人間と同じに見えるけど、立派な吸血鬼の魔族だ。その魔族達が飼い慣らした魔物達が、この峡谷にはうじゃうじゃ潜んでいる。


 この峡谷を超えた先にはヴァンパイア達の国がある。ヴァンパイアと人間とは古くから対立していたけど、先代の皇帝(つまりジョージの祖父)が五十年も前にヴァンパイア族と交わした不可侵条約によって、ヴァンパイア達は攻めてこなくなった。


 もちろん全てのヴァンパイアが人間に友好というわけではない。互いに領土を奪うため、長年争ってきた仲だ。このコルガン峡谷は、まさにヴァンパイアの国との境界線にあたるので、たまに本物のヴァンパイアの目撃情報もある。


 と言っても、彼らはまず襲ってこない。仮に遭遇しても、すぐ逃げるヴァンパイアがほとんどで、ヴァンパイア自体が人間の脅威となることはほぼない。


 多くのヴァンパイアは人間と見た目が変わらない。そして人間と同じで知的で理性もある。でも問題なのは、ヴァンパイアが飼いならす魔物達だ。


 人間と違って、ヴァンパイアは魔物を飼いならすことに長けている。人間との長年の戦争で磨き上げた能力、その能力が皮肉にも現在だと、人間の捕獲として利用されている。


 ポイズンモールもヴァンパイアのペットの一種だろう。その証拠に、普通の魔物と違って見た目が毒々しく、狂暴性が増している。


「ヴァンパイアはね、人間の血を欲しがっているの。不可侵条約がある以上、自分達は手出しできないから、魔物達を利用して人間を捕獲しているみたい。表向きは否定しているけどね」


 ウィンディが説明を続けてくれた。


「証拠が見つからない以上、ヴァンパイアの仕業と断定はできない。でも人間も黙っていられないようね。ギルドや国境警備隊の力を借りて、コルガン峡谷の魔物達の駆除に明け暮れているわ」

「あなたはエルフなんでしょ? なんで人間に協力するようなことを?」

「勘違いしないで。私はあくまで冒険者として、ギルドで依頼を受けているだけだから。それにヴァンパイアとエルフも犬猿の仲よ」

「ふーん、そうなの」


 ウィンディは魔物封印球をカバンの中にしまった。そして私の顔をチラッと見た。


「……ここであなたと再会したのも、何かの縁よね」

「……そうみたいね」

「ねぇ、ちょっと話があるんだけど」


 あ、この感じは。私はウィンディが何が言いたいか、見当がついた。


 でも直後にまた地中から振動を感じた。もしかして三体目か。私は咄嗟に前に出た。


「え? 急に何?」

「奴よ!」

「……まさか!?」


 次の瞬間、私が立っていた場所からまたポイズンモールが出てきた。やっぱり三体目だ。


 ふとウィンディの顔を見ると、かなり驚いている。私が地中からの魔物の移動を正確に把握したのが意外だったようね。


「今度こそ、仕留める!」

「あら、また焼き尽くしちゃうでしょ」

「炎だけじゃないわ。見てなさい!」


 私はまた魔法で攻撃を仕掛けた。今度は炎じゃない。


 得意魔法の炎だと加減が難しくて焼き尽くすわ。だから今度は風よ。


「トルネード!」

「え? 風魔法?」


 ウィンディをまた驚かせてしまったようね。右手を上げると、ポイズンモールの地面から強烈な竜巻が一瞬で上空まで伸びた。


「ぎぃえええええええ!!」


 同時に、ポイズンモールも吹き飛ばされる。身動きができないまま落下してきたポイズンモールを、剣で捌いた。


「ふぅ、討伐完了!」

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