第34話 コルガン峡谷で魔物討伐
「お嬢様、着きましたぜ」
「ありがとう、助かったわ」
「帰りはこの笛を吹いてください。そうすれば、すぐに迎えの馬車が来ますから」
翌日、宿で目を覚ました私は、ギルドで新しい依頼を受け新しい場所に向かった。
私が向かったのはペラーザ町を出て、南西へ30kmほど離れた場所にあるコルガン峡谷だ。高さ100メートルほどもある細長い切り立った深い谷が、延々と続く地形で、凶悪な魔物も多く出現する。まさに冒険者達にとって超えるのが困難な“修羅の谷”だ。
私が受けたのは、Aランク魔物のポイズンモールの討伐。地中を進むモグラの魔物、毒攻撃が厄介だと書かれている。
まぁ、私にとっては毒を出そうが何だろうが敵じゃないけど。デカいからすぐに見つけやすいはず。峡谷に入りしばらく進むと、すぐに大きな穴を見つけた。
「ポイズンモールの穴ね……ん? この振動は?」
私は地中から何かが進んでくるのを、すぐに察知した。これは私の気配探知の能力じゃない。新しく履き替えたブーツのおかげだ。
このブーツも、ジョージの置き土産だ。宿で目を覚ました直後、ジョージはすぐにベルフィンク岬へ出発したが、その際に私にくれた。
「せめて、このブーツを履いてくれ。そんなサンダルじゃ心もとないだろ」
確かにそれは私も思っていた。サンダルじゃ、歩くたびに砂利や小石が引っかかったりするからね。
ジョージがくれたブーツはそれは立派な革製だ。丈夫で雨が降っても濡れたりしないだろう。
そして最も特筆すべきは、魔法効果にある。私がほかに着けているアクセサリー類と同様、やっぱりこのブーツにも魔法効果がある。
それが〈地中振動感知〉、文字通り地中を進む魔物の動きを正確に捉えられる。地中だと気配察知でもかなり難しいけど、このブーツがあるおかげでその心配もない。
「距離的に……五メートル!?」
すぐに私は後退した。直後、さっきまで立っていた場所から巨大なモグラが姿を現す。凄いわね、このブーツの効果。
「ぎりゅああああああ!!」
毒々しい見た目をしたモグラだ。全身が黒色だけど、所々紫色の縦縞が不気味に走っている。紫色は多分毒素ね。目も異様にデカくて赤く光っている。
そして鋭く尖った牙が十本以上も並んでいる。魔物としても、明らかに普通の見た目じゃない。
「多分この魔物も、ヴァンパイアのペットね」
「ぎりぃええええええ!!」
「うるさいから、さっさと片づけよう。でも、さすがに素手はまずいか」
ポイズンモールというだけあって、迂闊に攻撃したら毒まみれになっちゃう。さすがにそれはまずいから、魔法で攻撃しよう。
「じゃあ、遠慮なく焼かせてもらうわ。フレアボール!」
右手を前に出し、火の玉を発射した。すぐに直撃し、これで討伐完了。
とはならなかった。
「ぐぎぎぎぎぎ……がぁあ!」
「あれ? まだ生きてる?」
相当加減したけど、このモグラもやるわね。咄嗟に両腕を交差させて防御態勢をとっている。
耐久力も高いみたい。それにこの動きの良さ、間違いなくこのモグラは普通の魔物じゃないわ。
「しゃああああああ!!」
金切り声を上げながら、爪を伸ばして飛び掛かった。長い爪にも毒があるわね。引っかかれたらヤバい。
避けるのは造作もないわ。すぐに真横に飛んで私は鞘から剣を抜いた。
でも銅製の剣じゃ不安ね。多分普通の攻撃じゃ通じない。一工夫加えるか。
「この炎の剣なら、どうかしら?」
剣に魔力を送り込み、剣先を真っ赤な炎で包んだ。炎の剣、そのままだけど、これならきっと有効ね。
モグラは向きを変えて、再び私と向き合った。炎の剣を見ても、臆せず再び私に突っ込んできた。
またさっきと同じような引っかき攻撃、何度も同じ手は通用しないわ。避けるまでもなく、突っ込んできたモグラを、そのまま一気に炎の剣で一刀両断した。
「あれ……しまった!」
なんと一刀両断した直後、モグラは跡形もなく消えた。しまった、送り込んだ魔力が高すぎて、一瞬で焼き尽くしてしまったのね。
クレセントバードの時と同じく、依頼達成の証は魔物の体を封印して持っていくことだ。これじゃ証明できないじゃないの。
かろうじて残ったのは、爪の先端だけ。でもこれで証明できるか不安、一応回収はするけど。
「あぁ、本当に加減って難しいわね」
さっきのフレアボールは相当加減して防御された。炎の剣はある程度魔力を高めたけど、今度は高すぎた。威力の微調整、これって本当に難しいわ。
仕方ない、また別の依頼を受けるか。そう思って、引き返そうとした直後。
「……ん? また振動!?」
なんと再び同じ振動を感じた。間近まで迫ったところで後退したら、またさっきと同じように地中からモグラが出現した。
「ぎりゅあああああああ!!」
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