第32話 突然の予定変更!?
ペラーザの町に戻ったのは、日が暮れた頃だった。ジュドー率いる警備隊はそのままギルドへ向かった。
私はジョージと一緒にギルドの外へ待機した。本来ならギルドで達成した依頼について報告したかったけど、今は中に入れない。
「やっぱり、中で騒ぎが起きているね」
「有名人だものね、仕方ないわ」
なんといっても、あの“ブラック・スティーラーズ”の頭領を連行しているものね。外からすでに多くの冒険者が騒いでいた。
私達も中に入れば、彼女を倒した張本人だと思われてしまう。そうなれば嫌でも目立つ形になって、私の正体もバレる可能性が高まる。
ジュドーはそこまで計算に入れ、あえて私達を外で待たせた。
「このままじゃ、私達中に入れないね」
「仕方ないさ。フライングクラブ討伐の報酬はまた日を改めよう」
「……ジュドーはあなたの正体知ってるのよね?」
「もちろんさ。だけど名前の呼び方には気を付けてくれよ」
ジョージは口の前に指を立てて改めて注意した。
「じゃあ、今日はもう宿に行きましょう。いい加減シャワー浴びたいわ」
「いや、ちょっと待て!」
「どうしたの?」
振り返ると、なんとジュドーが外に出てきた。連行していたブローディアの姿はない。
「お待たせしました、お二方。もう中に入っても大丈夫ですよ」
「いや、まだ目立ちそうだから、日を改めるよ」
「そうですか。それでは今日はごゆっくりお休み下さい」
「ねぇ、ブローディアは? 彼女はどこに連行されたの?」
「あぁ、そのことなんですが……」
彼女はそのままペラーザ町の刑務所に収監されると思っていたけど、そうはならなかったみたい。
「さすがのギルドも、あのブローディアが相手となっては、荷が重すぎるということでして」
「それどういう意味よ?」
「簡単に言えば、この町ではない別の刑務所へ移送される形となります」
「……となると、あの刑務所か」
「あの刑務所? どこのこと言ってんの?」
「ナターシャは知らないかもしれないが、この国の最北部に超重要犯罪人だけを収容する、海に囲まれた巨大な刑務所がある」
「そこは絶海の孤島になっていまして、一度入れば脱獄不可能な要塞とも化しています。ブローディアは元Sランク重戦士、彼女を収容するにはそこしかありません」
なんてこと。確かに彼女の強さは規格外かもしれないけど、わざわざそんな場所に移送するなんて。
「でも……彼女の力見たでしょ? その気になったら泳いで脱獄だって……」
「はは、それはあり得ないよ。いくら彼女とはいえ不可能だ」
「どうしてそう言い切れるのよ?」
「それはもうあそこの島一帯には……」
「エックス殿!」
突然ジュドーが声を張り上げた。ジョージもハッとした顔をして、言いとどまった。
「すまない。えぇと、その……」
「何なのよ、言いとどまって? 気になるじゃないの!」
「特殊な結界が張られているんですよ。どんな戦士だって、絶対に破壊できません」
「本当に破壊できないの? どんな結界よそれ?」
ジュドーは咳ばらいをした。
「特殊な魔法結界です。それ以上は私も深くは知りません」
絶対知っている。私は確信した。でもこれ以上は私も深堀りする気はなかった。正直疲れが押し寄せたから、早く宿でゆっくりしたい。
「……わかったわ。ブローディアは、まさか極刑になったりはしないわよね?」
「それはご安心ください。禁固百年の刑になるだけでしょう」
「ひゃ、百年!?」
桁が違うんじゃないの。私は耳を疑った。
「彼女はオーガ族だよ」
「あぁ、そうだったわね。長生きなの?」
「エルフほどじゃないが、人間の二倍程度かな」
「十分長生きじゃない。でも百年か……あぁ……」
「彼女のこれまで重ねた罪の多さからしたら妥当な刑ですよ」
「おいおい、どうしたんだよナターシャ?」
「……何でもないわ。教えてくれてありがとう」
私は沈んだ気持ちのまま、宿に向かって歩き始めた。
正直ブローディアとはまた戦いたい気持ちで一杯だ。あれほどの強戦士、なかなかいないから。
だけどその願いが叶いそうもないなんてね。まぁ仮にも罪人だから、しょうがないか。
*
数分後、ジョージが泊まっていた『まどろのみの月』に到着した。だけど到着後、すぐにカエサルが慌ただしい様子で出迎えた。
「おぉ、ご主人様。やっとお戻りで!」
「どうした、カエサル? なんか慌ただしく見えるが……」
「一大事でございます。マチルダ令嬢が!」
「え? マチルダ……」
ジョージの新しい婚約相手、彼女が何かしでかしたのかしら。カエサルが簡単に事情を説明した。
「夕食パーティーだと!? 馬鹿な、それは来週のはずでは!?」
「いえ、さっきグノーシス家の使者が、昨日直接宮殿に来たようです。間違いなく、明日にしてほしいと。なんでも来週は急用ができてしまったとのことで……」
「なんてことだ。それで……宮殿側はなんと?」
「まだ、あなたの返答待ちです」
「……そうか」
「返答待ちって、替え玉は何もできないわけ?」
「想定外の質問や要求が来たら、とにかくすぐに返事はしないで、一旦本物の僕に確認を取るよう仕込んであるんだ」
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