第31話 ホークの頼みの綱とは?

 私はジュドーがやろうとしていたことが理解していた。


「構いません。あくまで本人かどうか、念のため確認したくて……」


 ブローディアの顔をじっと見た。そして彼女に近づいた。


「……お前ならいいよ」


 ブローディアはまるで従順な奴隷のように、頭を自ら差し出した。なるほど、自分を負かした相手じゃないと、命令を聞かないタイプね。


「じゃあ遠慮なく」


 ジュドーと同じように、彼女の頭に手を伸ばした。そしてフードを掴み、そのままめくった。


 彼女の頭が出てきた。銀の長髪と同時にとんでもない物を見てしまった。


「なにこれ……角!?」

「まさか……この女」

「そうです。ブローディア・バートン、元最強のSランク重戦士でしたが、その正体はオーガ族の戦士でもあるのです」


 なんてこと。長い銀色の髪からはみ出した二本の白色の角は、確かにオーガ族の証でもあるわ。


「オーガ族とはね。どうりで強すぎるわけだ」

「あなた方のおかげで、ようやく捕えることができました。本当になんとお礼を述べたらよいか……」

「気にしないでくれ。全てはナターシャのおかげだ」


 ジュドーが改めて私に向かって頭を下げた。


「報酬については、改めてギルドでお渡しいたします。賞金については、ざっと五十万ゴールドかと」

「ご、五十万!?」


 耳を疑う金額が飛び出した。一般の貴族の年収の十倍以上の金額、ブローディアが言っていたことも誇張じゃないわね。


「もう“ブラック・スティーラーズ”もお終いだな、どんな気分だ?」

「……あたしがいなくなっても、まだ炎獅子がいる」

「ん? 何の話?」

「……まぁいい。連行しろ」


 ジュドーが命令を下し、数名の部下達が囲みブローディアに立つよう促す。


 でも彼女は動かない。いや、動けないんだ。


「……残念だけど、この足じゃね」

「すまない。実は彼女が……」


 ジョージが事情を話してくれた。


「なるほど。では、あの荷馬車の中に入ってもらおうか」


 金属製の籠が入った荷馬車が停めてあった。


「かなり狭そうね」

「でも足が動かないんじゃ、あれに入ってもらうしかない」

「ナターシャ殿、何度も申し訳ございませんが……」

「わかってるわよ。さぁ、ブローディア」


 縄の結び目部分を持って、ブローディアの体を起こした。彼女は一切抵抗の素振りをしない。本当に私の命令だけには素直に聞くみたいね。


「オーガ族は自分を負かした相手に従う。種族の掟さ」

「へぇ、そうなの……」


 かなり窮屈な掟ね。最初会った時は、かなり豪放磊落な女だと思っていたけど、意外と忠誠心は厚そうで驚いたわ。


 そして改めて間近で彼女の顔を見た。フードを被ってたからわからなかったけど、意外と美人ね。


 というかオーガ族という割には、顔は人間そっくり。角が生えているか生えていないかの違いくらいしかないわ。


「そういえば、さっき言っていた炎獅子って言葉だけど……」

「気にするな。でも、いずれ会うことになるだろう」

「強いの?」

「……お前なら楽勝かもな」


 籠の前まで来たところで、ブローディアは片足だけでジャンプし、そのまま乗り込んだ。


「じゃあ、閉めますよ」


 部下の一人が籠を閉めて、鍵をかけた。


「ナターシャ、念のため籠全体にも強化魔法を」

「その必要はないわ、ね?」


 私はブローディアを見ながら言った。ブローディアは呆気にとられた。


「……お前、私を信用しすぎだろ」

「あら、あなた私の命令には従うんでしょ?」

「……好きにしろ」

「だってさ。じゃあ、連行してちょうだい!」


 ジュドーが改めて命令を下した。そのままブローディアを乗せた馬車はペラーザの町へ向かった。私もジュドー達と一緒に町へ戻ることにした。



「あ、兄貴……ボスが……」


 ブローディアがジュドー達に連行されていく様子を、遠くから眺めていた男達がいた。


「……くそ、もう“ブラック・スティーラーズ”はお終いだ」


 ホークはもはや吐き捨てるように言った。


「そんな。兄貴までそんなことを、俺達これからどうしたら……?」

「勘違いするな。盗賊団をやめるとまでは言ってねぇよ。別のボスに頼むまでだ」

「別のボス? まさか……」


 部下もホークが誰をあてにするかがわかった。


「でも……ブローディアがあの様なんですぜ。炎獅子の旦那に頼んだって、同じ結果になるかもしれねぇ」

「だからと言って、ほかに頼るあてもねぇよ。それとも、足を洗うのか?」

「いや、俺だって今更シャバには戻れねぇ」

「だったら、行くしかねぇな!」


 ホークと部下の男は立ち上がり、そのまま山を越えることにした。彼らが向かうのは、もう一人の戦士が統率する盗賊団のアジトだった。

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