第30話 ナターシャの恐怖の寝技!

 ブローディアの足先が間近に迫ったところで、私は両足を広げた。


 私は即座に両足でブローディアの右足だけを絡めとった。


「な、なにぃっ!?」


 彼女にとっても意表を突いた行動だったみたいなのか、そのまま態勢を崩して、上半身だけが地面に叩きつけられた。


 今度は左足も両腕で掴んだ。これで彼女の下半身はもう身動きできないわ。


「ぐっ……小癪な真似を!」

「避けると思った? 残念だけど、こうした方が効果的よ」

「ふふ、まさかそんな細い足で、私の足を締め付けるつもりかい?」

「そのつもりだけど」

「はは、笑わせるな。私の脚力を甘く見るんじゃない! お前ごときに締め付けられるほど……」


 だけどすぐにブローディアの表情はこわばった。やっと気づいたようね。


「な? 足が……動かない……?」

「あぁ、なんてことだ。ブローディア、降参するなら今の内だぞ」


 ジョージも最早私の勝利を確信したみたいだ。逆にブローディアを気づかっているのね。


「なんだと? 言わせておけば、こんな足すぐに……」

「まだわからないようね。じゃあ私が地獄を見せてあげるわ。はぁあ!」


 両足に力を込めて、ぐっと締め付けた。


「ぐわあああああああああ!!」


 ブローディアが大声を上げながら悶え苦しんでいる。一瞬だけ骨の折れる音が聞こえたけど、やっぱり効果は抜群ね。


「ブローディア、これがナターシャのお得意の寝技だ」

「ね、寝技……だと?」


 ジョージが解説してくれた。


「寝たまま相手の足を絡めとって、そのまま両足で締め付ける。最悪足の骨は全て折れるだろう」

「……そんな」

「あなたが降参すると言うまで離さないわ。さぁ、どうする?」


 ブローディアは若干恐怖の色を浮かべながらも、抵抗の姿勢を崩さない。


「ふざけるな。骨の一本くらいで、このブローディア様がまいるとでも……」

「一本だけじゃまだ強気よね。じゃあ二本目!」


 さらに力を加えて締め付けた。また骨の折れる音が聞こえた。


「ぐわあああああああああ!!」

「どう? まだ続ける気?」


 ブローディアはがっくりと項垂れた。さすがに二本目は相当こたえたようね。


「……まいったよ」


 私は足をほどいて立ち上がった。ジョージのそばに駆け寄って、右手を上げた。


「ざっとこんなもんよ」

「……君は本当に恐ろしい女だ」



「これでよし!」


 ジョージがブローディアを特殊な魔法ロープで縛り上げた。


「本当に解けない?」

「大丈夫さ。この魔法ロープなら、どれだけの怪力でも不可能だ」

「……念のため、私が強化しておくわ」


 剣と同じ要領で、私は魔法ロープに魔力を送り込み強化させた。


「これで万全だな。やっぱり君は頼もしいよ」

「私の魔力前提の話でしょ?」


 私はふとブローディアを見た。右足がほぼ使い物にならなくなった彼女は、何もできずずっとふさぎ込んだままだ。


「さっきまでの威勢はどうしたのよ? 盗賊団の頭領らしくないわよ」

「……あたしは負けたんだ。好きにしろ」


 完全に負けを認めたようだ。ロープで縛り上げたけど、もはや抵抗する素振りすらないわね。


「このまま町へ連れてってあげるわ。あなた、多額の賞金があるみたいだし」

「そりゃそうさ。一生遊んで暮らしていけるぞ、喜べ」

「……じゃあ、早速」

「その必要はない。すでに救援を呼んでおいた」

「え? いつの間に……」


 ジョージの言葉は確かだった。しばらくすると、遠くから多くの人を乗せた馬の大群が押し寄せてきた。


 先頭にいた男は私の見覚えのある顔だった。


「ご無事でしたか、お二方!」

「ジュドー、よく来てくれた。私達は無事だ」

「なんであなたが!? っていうか、いつの間に救援なんか呼んだのよ?」

「正確には呼んでいない。あの鳥を使ったんだ」


 ジュドーの左肩に一羽の鳥が立っていた。


「ハヤブサ? そうか、ロイドも使ってたわね」

「盗賊団が現れた時に手配した。だけど直後にブローディアが現れてね、間に合うか不安だったけど心配はいらなかった」

「それにしても信じられません。まさか、あの悪名高いブローディア・バートンを捕えてしまうだなんて」


 ジュドーが馬を降りてブローディアに近づいた。


「警備隊の隊長か。お勤めご苦労様」

「ブローディア、念のため確認させてもらうぞ」

「確認?」


 ジュドーがブローディアの頭に手を伸ばそうとした。でも即座にブローディアが頭突きで手を弾いた。


「気安く触るんじゃないよ!」

「ぐっ! おのれ……これ以上抵抗したら間違いなく極刑になるぞ!」

「知ったことか! 今更生き恥を晒そうとは思わないね」

「ちょっと待ちなさいよ」


 私が間に入り込むことにした。


「ナターシャ殿、すみません。あなたにお願いしてもよろしいでしょうか?」

「……でも本当にいいの?」

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