第29話 ブローディアの執念

 ブローディアが先に仕掛けてきた。踏み込みがかなり速い、あっという間に私の目の前まで来た。


「危ない、ナターシャ!」

「でやああ!!」


 強烈な右フックをかましてきた。ブローディアはパワーだけは私と互角ね、当たったらかなり痛いはず。


 大柄な体格なだけに、迫力だけは確かだ。でも肝心の攻撃速度はそこまでないから、難なくかわせる。


 その後も左フックやジャブ、蹴りなどおかまいなしに攻撃し続けるけど、私の体にはかすりもしない。


「身のこなしだけは一流だね」

「あら? あなたの攻撃が正確じゃないだけでしょ?」

「なんだと……言わせておけば!」


 さらに力を込めた攻撃が私を襲ってくる。やっぱりさっきと変わらないわ。挑発されるとカッとなりやすいタイプね。


 ブローディアの息がだんだん上がって来た。そして焦りの色も見えてきている。今まで私みたいな相手と戦ったことがないようね。


 さて、それじゃそろそろケリをつけてあげましょうか。


「この一撃で決めさせてあげるわ。はああ!」


 がら空きとなったブローディアの腹部に、私の正拳突きを直撃させた。


「ぐっ!?」


 手ごたえありね。腹部だけは鎧もつけていないから、これで決着のはずよ。


「……ふふ、その程度かい?」

「え? まさか……」


 ブローディアが不気味に笑っている。私の正拳突きをもろに喰らったというのに、どうしてこんな平然なの。


 咄嗟に後退して、彼女から距離を取った。やっぱり立ったまま平然としている。効いていなかったの。


「ははは! ガイエルとは格が違うと言っただろ! お前の自慢の正拳突きも、あたしには効かないよ!」

「なんてことだ……ナターシャの正拳突きを喰らっても、ビクともしないだと?」


 ジョージまで驚愕している。彼も私の正拳突きの強さは十分知っている。


「……頑丈さだけは規格外ね」

「強がるのも今の内だ。これからたっぷりと地獄を見せてやるよ、はぁあああ!!」


 また気合を込めたブローディアが、突進してきた。でもその直後、転倒した。


「……どうしたの? 石にでもぶつかった?」


 なんで転倒したか、ある程度予想はできていた。


「ば、馬鹿な? うぅ……ぐふっ!」

「時間差で効いてきたな。甘く見ていたのは君の方だったな」

「こ、こんなはずは……どうして……」

「さぁ、もう容赦はしないわ。次の一撃で決めてあげる」


 腹部を押さえて苦しんでいるブローディアを見ながら、私は攻撃の構えをとった。あの様子からしたら、次に正拳突きを当てれば確実に倒せるはず。


「……ふふ、なるほどね。ガイエルが一撃でやられるはずだ。でもね!」


 ブローディアは立ち上がった。そして腰を低くし、両手を強く握りしめて気合を込め始める。


「はぁあああああ!」


 腹部に私がつけた痣(あざ)が、見る見るうちに消えていった。


「回復しているだと? まさか……自己治癒か?」

「あなたにまだそんな能力があったなんてね」

「少しあんたをなめていたよ。今度はあたしのとっておきを見せてやる」

「へぇ、どんな技を見せてくれるのかしら?」

「その笑顔、すぐに苦悶の表情に変えてやるよ」


 ブローディアが再び突進してきた。だけど少し速度が遅く感じた。


 これなら攻撃は避けやすいわ、でもまだ何かありそう。一応慎重に彼女の出方を探ろう。


「たぁああああああ!!」


 目の前まで来たところで、例のごとく叫びながら右拳を私に振り下ろしてきた。


 彼女の攻撃パターンはだいたい読めた。この右拳の攻撃をかわして、今度こそ正拳突きでとどめよ。


 でもそうはいかなかった。


 ドォオオオオオン!!


「え? なに……」

「もらった!」


 なんとブローディアの右拳は、私ではなく地面に叩きつけられていた。強烈な一撃で地面が揺れ、地割れが起き私は思わず態勢を崩してしまった。


 そしてブローディアは私が態勢を崩すと同時に、空高くジャンプした。そのまま空中で態勢を変えず、両足を綺麗に並べてそのまま降下してきた。


 なんて大胆な攻撃なの。あの両足で全体重を乗せ、一気に私を踏み潰す気かしら。


 いや、そうじゃない。見た感じ、避けるのはたやすいわ。でも避けても駄目。


 あの高さと、彼女の怪力からして、恐らく落下したらそれこそ隕石の衝撃並みの威力になる。この周辺一帯は吹き飛ぶわ。


 つまり私だけじゃなく、ジョージまで巻き添えにするつもりだわ。考えたわね。


「避けろナターシャ!」


 ジョージが叫んだ。でも残念だけど、避けるわけにはいかない。あなたまでただではすまないわ。


 避けないであの攻撃を無力化させるには、あの方法しかない。ちょっと強引だけど、私は両足を空高く伸ばした。


「何をやってるんだ、ナターシャ!?」

「まぁ、見ていなさい」

「これで終わりだぁああああ!!」

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