第28話 ナターシャ対ブローディア

 半分怒り気味のブローディアが、棍棒を持ち直し突進してきた。


 巨大な棍棒を片手で持っている。怪力だけは確かね。さすがに直撃はまずい。剣で受け止めないと。


「ナターシャ、これを使え!」


 後ろにいたジョージが剣を差し出した。


「さすがにそんな剣じゃ、まずいだろ」

「ありがとう、エックス」


 確かに銅製の剣じゃ、あの棍棒にはかなわないわね。でもミスリル製の剣でも不安だ。


 だったら、魔法で硬化させるまでよ。剣先に魔力を集中させた。


「うりゃあああああ!!」


 ブローディアがすぐ近くまで来ていた。いちいち叫びながら攻撃するのが癖なの。うるさいことこの上ないわ。


 容赦なく私に対して棍棒を振り回してきた。


 ガキィイイイイン!!


「ぐっ! そんな剣で!?」

「残念、互角のようね」


 棍棒は私の剣で動きを止められた。もちろん普通だと、剣の方が折れてしまうでしょうけど、今の剣は私の魔法で硬度が増しているのよ。


 ブローディアはひたすら棍棒を振り回す。硬度が増した剣なら、何度攻撃されようが防げるわ。


 でもこのままだとジリ貧ね。ブローディアの一撃はとにかく強烈だ。一撃防ぐたびに、私も魔力を消費している。


 長引くと、私の魔力も尽きてしまう。その前に終わらせないと。


 と思っていたら、ブローディアは突然攻撃の手を止めた。


「……なるほど。その剣、魔力で強化しているね」


 ブローディアがにやりと笑いながら言った。単なるパワー型かと思いきや、意外と察しがいいわね。


 すると、ブローディアは今度は棍棒を両手で持った。そして腰を低くして、気合を込め始める。


 まさか。一瞬嫌な予感がした。


「私の棍棒だって強化できるんだ。次の一撃で決めてやる!」


 この女もやるわね。だったら、私だって負けないわ。


「望むところよ。はぁあああああ!!」

「ナターシャ、いくらなんでも無茶だ」


 さすがのジョージも、彼女の気の高ぶりに気が付いたようね。


「エックス、私を信じて」

「ナターシャ……」


 ブローディアもかなりの魔力の持ち主ね。さっきジョージの魔法を吸収したのもあるけど、あれだけの魔力なら相当棍棒も強化されたはず。


 でも、魔力の高さなら私もかなり自信はある。有り余るほどの魔力を剣先に集中させた。


 するとブローディアの表情も若干こわばった。私の魔力を感じているみたいね。


「な!? お前……その魔力は?」

「残念ね。魔力の高さなら、私の方が上よ」

「ぐぅ……なめるなよ!」


 ブローディアが突進してきた。棍棒を両手で持ち、渾身の力で振り下ろす。そして私も剣を振り払った。


 ガキィイイイイイイン!!


 金属同士の激しくぶつかる男が聞こえた。次の瞬間、私の剣は軽くなった。


「……ふふ、どうやらあたしの勝ちだね」

「あぁ、そんな……」


 ブローディアは勝ち誇った顔をした。エックスからもらったミスリル製の剣は、真っ二つに折れて、折れた剣先の部分は無情にも地面に突き刺さる。


「あら、あなたの棍棒だって軽くなってない?」

「なんだと……うっ!?」


 今度はブローディアも異変に気付く。彼女も持っていた棍棒は次の瞬間、真ん中部分からぽきっと折れ曲がり、上半分の部分が地面に転がった。


 ブローディアはしばらく呆然としてしまった。さすがの彼女も想定外の事態のようね。


「……馬鹿な」

「さぁて、どうする怪力女さん。まだ続ける?」


 ブローディアは、持っていた残りの下半分の部分も潔く投げ捨てた。


「……古くなっていたから、新しいのに替えようと思っていたところだ」

「あら? 随分新品なように見えたけど?」

「ほざくな。それよりお前だって状況は同じだろ? そんな剣でどうするんだ?」


 確かに彼女の言う通り、私の持っていた剣も同じだ。私も柄の部分を捨てた。


 そして両手の拳を握りしめる。ブローディアも察した。


「まさか、素手で挑むつもりかい?」

「いけないかしら? 言っておくけど、勝てる自信はあるわよ」

「はは! いい度胸だ、あたしに対して格闘で戦いを挑むとはね。言っておくが、格闘なら誰にも負けたことはないよ!」


 ブローディアは嬉々とした顔で拳を握りしめ、格闘の構えを見せた。


 あの様子からして、かなり格闘には自信ありそう。自慢の怪力がいかせるからね。


 本来なら、かなり分が悪そうに感じるけど、私だって格闘には自信があるわ。


「ガイエルと同じだと思わないことだ。格の違いを見せてやるよ!」

「望むところよ。かかって来なさい!」

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