第27話 エックスの渾身の一撃

 ブローディアの雄叫びが聞こえる。次の瞬間、火の玉は彼女の剛腕によって握りつぶされ消滅した。


「馬鹿な。僕の渾身のフレアボールが……」

「ふぅ……なかなかいい魔力だったよ。ご馳走だった」

「……ご馳走?」


 その言葉に私は嫌な予感がした。


「さぁて、これで私の力がわかっただろ? まだ懲りずに攻撃を仕掛けるか?」

「くぅ……まだ終わりじゃない。今度はこれで……」

「待って、ジョージ! 魔法は駄目!」

「ナターシャ、今度こそ仕留めて見せる。さっきよりさらに強力な魔法を」

「それじゃさっきと同じ結果になるわ。というか、あいつが強くなる一方よ」

「なに? どういう意味だ?」

「……あの女の魔力が上がってる。吸収したのよ、魔力を」

「なに? 吸収だと……?」

「あはは! さすがに察しがいいね!」


 ブローディアは笑いながら言った。やっぱり読み通りね。


「魔力を吸収……そういえば、そんなスキルがあるのを聞いたことがある」

「その通りさ。スキル使いが自分達だけと思わないことだね」

「……どうするの?」

「どうするもこうするも……魔法なしで戦うしかない」


 ジョージは腰の鞘から剣を抜いた。


「ほう、いい度胸だ。でもそんな細い剣じゃ、あたしの棍棒にはかなわないね」


 ブローディアも巨大な棍棒を右手に持って身構えた。


 確かに大きさが全然違う。普通に剣で攻撃しても、すぐに折れてしまいそうだ。


「なめるなよ。魔法だけじゃない。僕は剣術スキルも磨いているんだ……」

「へぇ、剣術スキルかい? そいつは面白そうだな、見せてもらおうじゃないか!」


 ブローディアが挑発した。ジョージは動じず、毅然と剣を立てた。


「駄目よ。並みの剣技じゃ、かないっこないわ」

「わかってるよ。だからこそ……最高の大技を放つまでさ」

「大技?」


 ジョージは深呼吸して、両腕を高く掲げた。


「言っておくが今度の技は、素手で受けきれないぞ。はぁあああ!」


 そのまま気を溜め続ける。有り余るほどの闘気で満たされたジョージが、そのまま勢いよくジャンプした。


「受けて見よ! 剛竜降衝波!」


 かっこいい奥義名を叫んで、そのまま剣を両手で持ち、ブローディアに向かって降下していく。


 すると落下するジョージを螺旋状に気の渦が舞い始めた。本当に竜が高速で降下しているように見える。


 仮面を被っただけで、まさかこんな大技まで出せるなんて。これじゃ努力して強くなった冒険者達は涙目だわ。


 さすがのブローディアも、これを直撃したらただじゃ済まなそう。でも彼女は動じていない。


「なるほど、そう来たかい。面白いね!」


 依然余裕の表情を崩さないブローディアが、棍棒を両手でしっかり握り腰を低く構えた。


 まさか、あの大技を受け止めるつもりなの。でも彼女ならやりかねない。


「はぁああああああああ!!」


 ブローディアが雄叫びを上げながら、棍棒を振り上げた。今まさに落下してきたジョージの剣と激しくぶつかる。


 ジョージは空中で剣を持ったまま静止してしまった。なんて女なの、本当にジョージの大技を受け止めてしまうなんて。


「ば、馬鹿な……!?」

「残念だったね。今度はこっちがお返しだ、おらあああ!!」


 動揺していたジョージに対して、ブローディアはお構いなしに棍棒を振り上げた。


 そのままジョージが吹っ飛ばされる。まずいわ、このままじゃ。


「エックス、防御して!」

「奥義に対しては奥義で返さないとね。バーストスイング!」


 ブローディアが、棍棒をフルスイングした。


 成す術もなかったジョージが、彼女の一撃を喰らい、私の遥か後ろまで吹っ飛ばされる。


「……エックス!」


 すぐさま彼のそばに駆け寄った。幸いにも木の枝にぶつかったことで、衝撃はやわらげたっぽい。


「ぐぅ……すまない……油断した」


 よかった。かろうじて生きているみたい、直撃したように見えたけど思ったより傷は深くない。多分ギリギリで防御魔法を唱えたのね。


「チッ、運がいい野郎だ」


 ブローディアの声が聞こえた。明らかに仕留め損ねた感じね。


「エックス、しっかりして! 立てる?」

「な、なんとか……ぐぅ!」


 立とうとしたけど、やっぱり無理っぽい。防御魔法をかけても、やはりさっきの一撃はかなり強烈だったみたい。


「無理しないで。ヒール!」


 ジョージの腹部に手を翳す。治癒魔法を唱えたから、これで一先ず安心。


「ありがとう、ナターシャ」

「なっ!? お前、治癒魔法まで使えるのか!?」

「そうよ、残念だったわね」


 だけど治癒したとはいえ、正直完全な状態にまでは戻らないわ。さすがにジョージをこれ以上戦わせられない。


「あなたは下がってて、私が戦う」

「ナターシャ、嬉しいけど……本当に大丈夫か?」

「私を誰だと思ってるの?」


 ジョージは私のことを心配してくれているみたい。でも心配は無用よ。


「……わかった、君を信じるよ」

「さぁ、どうした? まだ続けるかい? それとも降参か?」

「降参はしないわ。まだ、私がいるでしょ?」


 私はブローディアを睨んで前に進んだ。


「……どうやら真打の登場だね」

「あなた、随分私のこと気に入っているようね」

「そりゃそうさ! あのガイエルを一撃で倒したんだろ? 嫌でも興味が湧くさ!」

「そうなの。でも、あなたも彼と同じ目に遭うことになるわ。かかって来なさい!」


 今度は私が挑発してみた。ブローディアも顔が引きつった。


「……ふふ、ナターシャ。それはこっちのセリフだよ。そこの男のやられっぷりを見ただろ!?」

「えぇ、あなたの強さはだいたい把握できた。だから問題ないわ」

「……なんだと!?」


 ブローディアも私の言葉を聞いて、癪に障ったでしょうね。


 確かに最初彼女から感じた気の量は圧倒的だった。私も思わず脅威に感じた。


 だけどさっきの戦いで一通りブローディアの強さは把握できた。あれでも全力じゃないかもしれないけど、それでも勝てなくはない相手よ。


 私だって長年武者修行し続けたから、相手の戦い方を見れば、ある程度の強さを把握できるようになった。もちろんこんなこと、彼女に言っても理解されないだろうけどね。


「随分調子のいいことほざきやがって。あたしの強さがわかったとか、本気で言うのかい?」

「もちろんよ。だから遠慮なく攻撃してきなさい」

「お前達揃いも揃って、調子に乗り過ぎだよ。だったら……本当に後悔させてやる!」

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