第26話 盗賊団の頭領の実力

 ホーク達は遂に観念したのか、撤退し始めた。でもジョージの気持ちは変わらないようだ。


「逃がさないと言ったでしょう。はぁあ!」


 ジョージが右手から再び火の玉を発射させた。一直線にホークに向かい、すぐに爆発した。


「全く、やり過ぎよ」

「ぐわあああああああ!!」

「え? 飛んで……る?」


 ホークは叫びながら上空に飛ばされた。ジョージの放ったフレアボールの衝撃で飛ばされたのかと思った。


 でも、違った。爆発が起きた場所をよく見たら、地面が急激に盛り上がっていた。


「な、なに……あれは!?」

「ったく、だらしない男達だね。がっかりしたよ」


 地面が盛り上がっていた場所に、誰かが立っていた。フードを被った背の高い人間だ。


 私と同じくらいの身長をしている。鎧を着ていない露出した部分から見ても、凄い筋肉だとわかる。


 ゆっくりこっちに近づいてきた。そして胸の膨らみに思わず目がいった。


「お、女……だと?」

「その通り。でもこの棍棒を見ても、ただの女って思うかい?」


 ドシィイイイン!!


 突然地面が大きく揺れた。フードを被った女は、右手に巨大な黒い棍棒を持って地面に叩きつけていた。


 なんて巨大な棍棒、大岩でも簡単に砕けそうだわ。


「私の名前はブローディア・バートン、“ブラック・スティーラーズ”を率いる頭領、と言っておこうか」

「頭領……ですって!?」

「なるほど。ホークもお前の部下に過ぎなかったわけか」

「その通りさ。あんたら、よくもあたしの可愛い部下達に痛い思いをさせたね」

「あら。そっちから襲ってきたんじゃない、私達は正当防衛よ」

「そっちの言い分なんか聞いてないんだよ!」


 一応正論を言ってみたけど、まともに話を聞いてくれそうな雰囲気じゃないわね。


 かなり性格が悪そう。本来なら、すぐにでもぶっ倒してやりたい。


「ナターシャ、君は下がっててくれ」

「エックス、大丈夫なの?」

「平気さ。白馬の王子様だからね」


 ジョージは微笑んで答えた。かなり気持ち悪い言葉ね。


「あーはっはっは! あんた、あたしのことをなめてるだろ?」

「なめてなどいない。ナターシャを護るのが僕の役目さ。彼女に危害を加えるつもりなら、たとえ相手が女性でも容赦はしない」

「ふふふ、女性か。言っておくけど、あんたよりナターシャの方があたしといい勝負ができそうだよ」


 ブローディアは笑いながら答えた。なんというか自信たっぷりね。ジョージなんて眼中にないのかしら。


「ブローディアとやら。君の方こそ僕を侮るなよ、あの盗賊団達のようになりたくないだろ?」

「残念だけど、あの程度じゃあたしは倒せないよ。遠慮なく魔法で攻撃してみな」


 ブローディアはきっぱり言い切った。


「……随分と自信たっぷりだな。ならばお望み通り攻撃させてもらう」

「待って、エックス!」


 ジョージの腕を掴み攻撃をやめさせた。


「どうしたんだ、ナターシャ?」

「……あなたには悪いけど、代わった方がいいわ」

「なに? 君と代われだと?」

「そうよ……あいつは私が倒す。エックスは下がってて」

「何を言うかと思ったら、戦いたい気持ちはわかるけど、君の出る幕じゃないよ」

「そういう意味じゃない! むしろ逆よ」

「ぎゃ、逆だって……?」

「あいつは……格が違う。あなたには無理」


 私がそこまで言うと、ジョージも突然魔法の発動を止めた。


「おやおや、どうした? 威勢がいいのは口だけかい?」

「……そんなに強いのか?」


 私は黙って頷いた。あいつが見せている余裕な態度は、見せかけじゃない。


 漂う気の量は底知れない。間違いなくこれまで出会った中でも最強クラスの戦士だ。しかも私と同じ女性。こんなヤバそうな戦士に出会えるなんて久しぶりよ。


 思わず武者震いしてしまった。でもそんな相手にジョージを戦わせるわけにはいかない。


「私が戦うわ。だから下がって」

「……いや、だったらなおさら僕が戦う」

「エックス!?」


 ジョージは一歩も引かず、私の制止を振り切って前に出た。


「そんな危険な奴が相手なら、なおさら僕が戦う。君こそ下がっててくれ」

「駄目よ! あいつを侮らないで、見掛け倒しじゃないわ!」

「わかってるさ、だからこそ全力で魔法を放つ。手加減はしない」

「ほう、やっとやる気になったようだね。その調子だ」


 ジョージから並々ならぬ魔力を感じる。いくらSランク冒険者の仮面を被っているとはいえ、ここまで上がるというの。


 でもブローディアは依然余裕の構えだ。避けようとする気配がない。


 ジョージは両手を前に広げると、彼の目の前に巨大な火の玉が形成された。


「ハイパーフレアボール!」


 ジョージが声を上げると、巨大な火の玉は高速で前方に発射され、一直線にブローディアに向かった。


 そのまま彼女の体に直撃して爆発、とはならなかった。


「なに? そんな……」

「嘘、受け止めた!?」


 なんとジョージの放った火の玉はブローディアの手前で止まっている。よく見たら、ブローディアの両手が前に出ている。


 両側から凄い力を込め、動きを制止させている。なんて馬鹿力、あんな火の玉を受け止められるなんて。


 そして耐久力もかなりあるようね。普通あれだけの魔力が込められた火の玉、受け止めてもそれまでで、結局火の玉の炎が体に燃え移ってしまうはずなのに。


「がぁあああああああ!!」

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