第24話 突然の悲鳴
洞穴に入ってマクスウェルは、奥の方まで歩いた。念のため誰かいないか確認しているみたいだ。
「……大丈夫、誰もいないな」
「なら問題ないわね。さぁ、さっさと外しなさい」
彼は言われるがまま、仮面を外した。その素顔は私が何度も見た顔だった。
「ジョージ……一体何してんのよ?」
「君が心配でついてきたんだ。この姿ならしばらくバレないと思っていたけど、早かったな」
「最初に会った時から、そんな感じはしてたわ。あなた変装へたくそでしょ」
「はは、まさか君に言われるとはね。でもこの仮面だけは、絶対に必要なんだ」
ジョージは外した仮面をじっと見つめた。
「その仮面、普通の仮面じゃないわね。魔法道具?」
「そうさ。さすがに察しがいいな、こいつを被れば、僕もSランク冒険者だ」
「なるほど。道理で動きがよすぎるはずだわ」
「ナタリー、君もいろいろアクセサリーを付けているじゃないか。僕がプレゼントした……」
「その名前で呼ぶのはやめて!」
思わず大声を出してしまった。
「私はもうナタリーじゃない。ナターシャ・ロドリゲスよ、昨日付で冒険者になったの」
「……そうだったな。それは悪かった、ナターシャ。じゃあ君も、僕の呼び方に気を付けてくれよ」
「でもあなた偽名が二つあるんでしょ?」
「そうだ。人前にいる時はエックス。みんながいない時か、あるいはカエサルの前ならマクスウェルと呼んでくれ」
「あぁ、ややこしいわね。ていうか、マクスウェル・シーザーって何なのよ? あなた以前までそんな偽名一度も使わなかったじゃない」
ジョージはその言葉を聞いて、返答に困った。
「……僕の知り合いの名前、とだけ言っておこう」
「へぇ、そんな知り合いがいたなんて初耳よ。どこにいるの?」
「どこにいるかまでは教えられない。だけど、頼りになる知り合いさ」
「……まぁいいわ。それよりもっと大事なことを聞かないとね」
「大事なこと? なにかな?」
ジョージはすっ呆けたような顔で聞いた。
「なにかな、じゃないわよ! あなた仮にも皇太子なんでしょ!? 冒険者やっていていいと思ってんの!?」
さすがのジョージもそれを聞いて、険しい顔を見せる。
「……わかっているさ、自分の立場は。だからこそ、影武者を用意している」
「影武者ですって? バカバカしい、そんなことで誤魔化せるわけないでしょ?」
「ただの影武者じゃないんだよ。これを見て」
ジョージが左手で取り出したのは、小さな木製の人形だ。
「その人形がどうしたって言うのよ?」
「触ってみて。そして強く魔力を送り込むんだ」
ジョージに言われるがまま、私はその木製の人形を強く握りしめて魔力を送り込んだ。
次の瞬間、人形は勝手に私の手から離れて、見る見るうちに巨大化していった。
次第に私の身長と同じくらいの大きさになり、頭部からは長い黒髪が生え、顔も私とうり二つになる。
全身の体型も今の私とそっくりね。改めて見ると、私って相当スタイルいいんだって、ちょっと嬉しくなった。
「凄いだろ? これは複製人形って言ってね。もちろん声も真似できる。これだけ瓜二つなら、誤魔化せるはずさ」
「複製人形と言い、その仮面と言い、一体どこで調達したのよ?」
「ごめん、こればかりは言えないんだ。たとえ君であっても」
「そうなの。でもね、所詮人形に過ぎないわ。民衆はともかく、国王陛下まで誤魔化せないでしょ」
「確かにそうだね。でも父上も立ち会うような大事な行事の時は、さすがに宮廷に戻って、その時だけ皇太子に戻るつもりさ」
「……民を騙して、自分は呑気に冒険者、いい身分ね」
ボソッと嫌味を言ってみた。もちろんジョージも聞き逃さなかった。
「それを言わないでくれ。重々承知している。でも……君を愛しているんだ。だから僕は」
「あのね、これだけは言っておくわ。あなた皇太子なんだから、もっと責任感というか、愛国心を……」
「うわぁああああああ! 誰かぁあああああ!!」
突然の悲鳴とともに会話が途切れた。
「今のは、悲鳴?」
「誰か助けてくれえええええ!!」
「全く。こんな大事な時に!」
「多分誰かが魔物に襲われているんだ。急いで助けに行こう!」
ジョージは仮面をかぶって一目散に走り出した。私の説教から解放されて、嬉しがっているみたいね。
でも突然止まって、私を見た。
「僕のことはエックスと呼んでくれよ」
「あぁ、もう! わかってるわよ!」
いちいち呼び名に気を付けなくちゃいけないとか、本当に面倒。
私もジョージを追うため、洞窟を出て悲鳴が聞こえた方へ向かった。海岸から離れて森を進み、やや開けた場所に来ると男性がしゃがみこんでいる。
「おぉ、いいところに来てくれた。助けてくれ!」
男に襲い掛かろうとしているのは、さっきも倒したフライングクラブだ。
海岸から離れたこんな森の中に出てくるなんて、少し妙ね。でも考えても仕方ない。
「あなたは下がってて、はぁあ!」
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