第21話 Aランク魔物で実力テスト

「ナターシャ殿、おはようございます」

「おはよう、あなたも早いのね」

「早起きは慣れていますから。それより昨日召し上がった料理はどうでしたか?」

「最高のうまさね、文句なしだわ」

「お気に召したようで何よりです」


 昨日召使のカエサルがよこしてくれた料理人で、私は極上の珍味を最高のうまさでいただけた。


 あれだけの料理人は宮廷にもいるかどうか怪しいレベルね。


「それより今日はあなたの実力テストよ。昨日も言ったけど、あなたの強さを直に見ておきたいわ」

「えぇ、わかっておりますとも。ご安心ください、期待は裏切りませんよ」


 かなりの自信があるわね、この男。


 私はマクスウェルと一緒にギルドへやって来た。受付嬢と目が合うと、にっこり微笑んだ。


「あ! ナターシャ様、おはようございます……あれ、あなたは?」


 受付嬢も思わず呆気にとられた。そりゃこんな仮面をかぶった長身の男が来たら、そうなるよね。


「お初にお目にかかります。私この度、ナターシャ殿と一緒にパーティーを組むことになったエックスと申します。以後お見知りおきを」


 マクスウェルは丁寧な口調で元気にあいさつした。変な偽名を使っている。


「え、エックス様……ですか?」

「……あなた以外には私の本名は晒しません。ややこしくて申し訳ございません」


 小声で話しかけた。面倒くさい男ね。


「失礼ですが……本当にナターシャ様とパーティーを組まれるということですか?」

「そうです。何か問題でもありますか?」


 受付嬢は私の顔をじっと見た。


「えぇ、問題ないわよ。私が許可したの」

「そ、そうですか……」

「無理もないです。仮面をつけた冒険者など滅多にいませんからね」

「そうですが、それだけではありませんよ」


 受付嬢は苦笑いした。


「あのね、私は誰ともパーティーを組まないということになってたのよ」

「そういうことですか。それは大変失礼なことを……」

「別にいいから。私も気分が変わったのよ。改めて誰かとパーティーを組みたいとね」

「マクスウェル様、ギルドのメンバーカードはお持ちでしょうか?」

「ご心配なく、ちゃんと持っていますよ」

「え? あなたそれって……」


 なんと本当にマクスウェルがメンバーカードを持っていた。でも私のと少し違う。


「いつの間にメンバーカードを?」

「こことは違う別の町のギルドで作成したんですよ。メンバーカードはその作成する町ごとで、仕様や外見が少し変わってくるのです」

「そうなの。じゃあ、適性検査とか要らないのね」

「はい。これで問題なくパーティー自体は組めますよ、それにランクもあなたより高いです」


 よく見たら、マクスウェルのランクはAだ。本当に私より高い。ただの紳士じゃなかったのね。


「Aランク……でも、私はあなたの実力を知らないわ。だから何か依頼を受けないと」

「存じておりますとも。それじゃ、掲示板を見に行きましょうか」


 彼と一緒に茶色い掲示板が掛けられていた壁に向かった。そこに何枚もの依頼書がある。


「これなんかどう? あなた自信ある?」


 私が手に取ったのは、巨大なカニの魔物が描かれた依頼書だ。Aランク魔物『フライングクラブ』と記されている。


「ふふ、いきなりAランクで実力テストとはね……」

「まぁ、私の相棒になるんだから、Aランクくらいはさくっと倒してもらわないとね。自信がないならやめてもいいのよ?」

「いえ、受けて立ちましょう」


 マクスウェルは毅然とした態度で言い張った。この様子からしたら、期待は裏切らなさそうね。


 フライングクラブの依頼書を持って受付嬢に見せた。そして出現場所の、キノエ海岸に向かうことにした。


 キノエ海岸はペラーザ町を出て、南に50kmほど歩いた場所にある。かなりの距離があるけど、意外な移動手段があった。


「ご心配なく、あの馬車ですぐに行けますよ」

「え? 馬車って……」


 マクスウェルが指差した先に、確かに馬車があった。しかも馭者までついている。


「……至れり尽くせりね」

「いえいえ、あれは冒険者用の移動馬車ですよ」

「どういうこと?」

「依頼書に載っている魔物の出現場所は、大抵離れた場所にありますからね。そこに行くまでに冒険者がよく使う共用の馬車があるんです」

「そ、そうだったの……」


 初めて知った。それなら私が昨日クレセント山まで行ったのに、馬車を借りる必要なんてなかったんじゃ。


「あと、料金についてですが……申し訳ございません。割り勘という形でよろしいですか?」

「えぇ、別にいいわよ。自分の分はちゃんとあるから」


 さすがに無料では利用できないわけね、別にそれはいいか。


「では行きましょう。あと、私達以外にも誰かが乗っていることもあります。そこは大丈夫でしょうか?」

「相乗りなの? まぁ、いいか……」

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