第18話 謎の女戦士

 ウィンディも私に気付いて、咄嗟に弓を構えた。


「残念。やっぱり私のものね」

「……負けたわ」


 彼女は潔く弓を下げた。


「あなたのそんな性格好きよ」

「は? 何言ってんの?」

「いや、気にしないで。それじゃ遠慮なくいただくわね」

「ちょっと待ちなさい」


 ウィンディが突然呼び止めた。


「まだ何か用?」

「あなた、どうして剣を使わないの? それに魔法は……」

「何を聞くかと思ったら、こんな奴素手で十分よ」


 彼女はそれを聞いて驚いた。


「……まいったわね。あなたのような人、初めて会ったわ」

「あら、剣だけじゃなく槍や弓も極めているの」

「そ、そうなの……」

「でも、弓に関してはあなたに負けそう。今度会ったら、弓で対決してみない?」

「いえ、遠慮しておくわ」


 彼女は苦笑いしながら答えた。


「あなたは弓だけなの? 魔法とかは?」

「一応使えなくはないけど、一番得意な武器を活かして伸ばす。それが効率いいと思ってね。それに魔法を使いたいなら、魔道士に頼ればいい」

「なるほど。だからほかのメンバーを……」

「あなたが仲間に加われば、こんないいことはないなぁって思ってたけどね。残念だわ」


 彼女は向きを変えて歩き出した。だけどすぐ歩を止めて、私に振り向いた。


「私はここから北にあるマブーレ村の宿に泊まっているわ。なにかあったら、いつでも来ていいから」

「え? あぁ、そう……」


 彼女はウィンクした。思わずゾッとした。


 わざわざ自分が泊まっている宿を最後に言い残して去るなんて。まだ私のこと諦めてないのかも。


 これは、もしかしたら彼女に相当気に入られたかも。


「でも……パーティーか……」


 ぶっちゃけ、パーティーを組むというのは考えていもいなかった。私は自分一人で冒険がしたい。それだけが夢だった。


 今はまだ一日目、なんとか初めての依頼でモンスターを倒したけど、今日分かったのはやっぱりパートナーがいた方が心強いということ。


 もしウィンディにほかに仲間がいたら、多分私はこの依頼を失敗していただろう。私は冒険者、これからは基本ギルドに行って依頼を受注して、達成して報酬をいただくことで生計が立てられる。


 ならば、多少我慢してでもパーティーを組んだ方がいい。ウィンディも言っていたけど、魔法が使えるメンバーがいれば魔道士に頼ればいい。弓が得意なメンバーは弓使いに頼る。


 役割分担って重要ね。私は武芸も魔法も極めているけど、所詮一人だけだから。


「まぁ、その時が来たら考えるか……ん?」


 また気配を察した。直後、高速で私の顔目掛けて飛んできたものを掴んだ。


 掴んだのは、またしても矢じりだ。でも明らかにウィンディのじゃない。それに先端に変な色の液体が付着している。


「毒矢!? 一体どこの誰よ?」


 気配を察知した。すると一瞬だけ、300mくらい先の方で人の気配を感じた。距離的にかなり離れている。


 ウィンディかそれ以上の弓使いがまだいたってことなの。信じられない、でも彼女の仲間でもなさそう。そもそも毒矢を使うだなんて、たちが悪すぎるわ。


 そして気配が消えた。


「……どこの誰か知らないけど、今度会ったらただじゃ済まさないわ」


 自分を狙っている冒険者がまだいる。恐らくこのクレセントバードが狙いなのね。狙われないように、早くこいつを魔物封印球に閉じ込めよう。


「あれ? 使い方どうするんだっけ……」


 よく考えたら、魔物封印球の使い方教わってない気がする。受付嬢も忘れてたのね。


 でも心配いらなかった。球が光り出すと、今度はクレセントバードの死体が見る見るうちに球に吸い込まれていった。


「凄いわ。一体どんな仕組みになっているのよ」


 なにわともあれ、これで回収は成功のようね。よし、ペラーザ町へ戻るか。




「ボス、あの女です。さっきペラーザの町の酒場で会ってきたから、間違いないです…」

「ふーん、あの黒髪の……随分背が高いじゃないか」


 ナタリーがクレセントバードの死体を魔物封印球に閉じ込めているのを、遠くから望遠鏡で眺めていた一人の女戦士がいた。


 彼女は大勢の男の部下を従えている。部下の一人が言った。


「ボス、油断しちゃならねぇ。さっきも見ただろ、あんなにあっさり矢を受け止めるなんて普通できねぇ! それにクレセントバードもガイエルと同じように……」

「弱音を吐くんじゃないよ、ホーク! 所詮人間の娘じゃないか!」


 女戦士は持っていた巨大な棍棒を地面に叩きつけた。


「ひぃ! すみません、少しビビり過ぎました!」

「まぁ、いいさ。ホーク達は引き続き監視してな。そしてうまいこと誘き出すんだ」

「わかりました。それじゃあ、例の作戦でいきます」


 男達は指示に従い、散開した。女戦士は、再び望遠鏡でナタリーを眺める。そして豪快に巨大な酒瓶をラッパ飲みした。


「ふふ……ガイエルを一撃で倒すとはね。久しぶりに楽しめそうな相手だ。あいつは……このブローディア様がねじ伏せてやる!」

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