第16話 ウィンディとの競争
やっぱりそう来たか。
本当なら速攻でお断りするんだけど、いくらなんでもそれじゃかわいそうよね。ちょっと悩んだ素振りを見せることにした。
「悪い話じゃないと思うんだけど……駄目?」
「気持ちは嬉しいんだけど、私は一人で冒険者生活をしたいから」
「……そう」
あら、もしかして諦めてくれたのかも。
「無理を言ってごめんなさい。あなたの実力なら、大丈夫かもしれないわね。それじゃ」
そのまま向きを変え歩いて行った。けっこう潔いわねこの人。
「……ちょっと待ちなさい」
私はウィンディを呼び止めた。
「……なによ?」
「これあげる。お腹すいてるでしょ?」
持っていたイノシシを彼女に放り投げた。受け取りはしつつも、彼女はしばらく呆気にとられた。
「本当にいいの?」
「元々はあなたの獲物だったわけでしょ。私が少し食べたから、あとはお好きにどうぞ」
「……ありがとう」
「それより教えてほしいことがあるの。あなたこれからどこに行くの?」
「どうしてそんなことを?」
「いえ、なんというか……ちょっと気になって」
ウィンディは訝し気な目で私を見た。私が聞きたいこと、もしかしたら気づかれたかも。
「多分あなたと同じ場所ね」
「え? どうしてそんな……」
「悪いけど、同じパーティーでない以上取り合いになるわ。今度こそ負けないから」
それだけ言い残して、ウィンディはそのまま走り去った。
「ヤバい! 先を越されるわ!」
私も急がないと駄目ね。のんびりしている暇はない。クレセントバードは私のものよ。
ウィンディの足も相当速い。私も全速力でクレセント山へ向かったけど、彼女はもう先に着いたのかしら。
いや、そもそも私の杞憂かも。クレセントバードとは一言も言ってないから、目的地は同じでも違う獲物を狙っている可能性もある。
でもよく考えたら、狙っているのはウィンディだけじゃないかもしれない。とにかく急ぐしかない。
「着いた。ここがクレセント山ね」
間近で見ると、非常に標高が高い山ね。それだけじゃなく、山頂部は三日月のような形状になっているのも特徴的だ。
この山のどこかにクレセントバードはいる。早速登山口から登り始めることにした。
「どこにいるのかしら」
登りながらクレセントバードを必死で探す。でも見つからない。見つかる気配がない。
さすが極上の珍味と言われるだけある。そうそう簡単には見つからないわね。見つかったのは、ウィンディの足跡だけ。
彼女もやはりここに来ている。そして足跡からして、やっぱり獲物は私と同じ。
この勝負、私にはかなり不利ね。なぜなら彼女には弓がある。射程は私より長い。
しかも彼女はエルフだ。エルフは人一倍耳がいい。気配を探らなくても、かすかな鳴き声だけで場所がわかる。
待てよ。私は閃いた。
「だったら、ウィンディを探せばいいのよ!」
ウィンディならクレセントバードをすぐに見つけられる。ならば彼女の気配を探ろう。この近くのどこかにいるはずよ。
気配を探るとすぐに彼女の居場所はわかった。真東の方向にいるみたい。足音を立てず、そして気配を殺しながらそっと移動した。
「いた。あそこね」
前方100mほど先の木の根元にウィンディを発見した。弓を構えたまま微動だにしていない。
まだクレセントバードを見つけてないようね。これはチャンス。
私の作戦はこうだ。彼女が矢を放った瞬間、一目散に矢が放たれた場所まで走る。全速力で走れば、彼女を抜けるはず。そしてクレセントバードを横取りよ。
あまりいい気分はしないけどね。でもこれから私は冒険者として生きなければいけない、こういう姑息な手段も覚える必要があるわ。
それにさっきの勝負でわかったけど、彼女の弓の腕なら余裕で撃ち落せるはず。なおさらこの戦法が有効よ。
「あれは!?」
ついにその時が来た。遥か遠くの方で小さな鳥の影が動いたのが見えた。その鳥に向かって、ウィンディが矢を放つ。
「今だ!」
ウィンディに気づかれないよう、全速力で矢が放たれた場所まで走った。走る途中、呻き声が遠くから響いた。
間違いなくウィンディの放った矢が直撃したわね。まだウィンディは動いていない。
「残念ね。クレセントバードは私がいただくわ!」
鳥が落下した場所に近づき、私は走るのを止めた。迂闊に近づいちゃ駄目、まだウィンディが狙っているかもしれない。
矢で狙われないよう、木の陰に隠れながら移動した。そして鳥の体の一部が見えたその時、予想外のものを見た。
「あれは……嘘!?」
よく見たら、全然違う鳥だった。顔は三日月の形をしていない。これはクレセントバードとよく間違われるドリルバードという鳥だ。頭部だけ鋭く尖っているのは似ているけど。
ウィンディが見間違えたのかしら。いや、弓使いの視力でそれは考えにくい。
ギィエエエエエエ!!
遠くの方で、また鳥の鳴き声が聞こえた。まるで誰かに攻撃されたかのような声ね。
「まさか!?」
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