第15話 エルフからのお誘い

 本当は調味料とかかけたいんだけど、今はとにかくこれで我慢。でも不思議ね、昨日食べたあのトリケラベアーの方がうまかった気がする。


 さて残りの部位もいただくとしよう。


 シュッ!


「ん? なにこれ?」


 突然私の顔目掛けて、何かが降って来た。即座に左手の指二本でそれを掴んでよく見ると、何と先端が鋭く尖っている。


 矢じりだ。次の瞬間、また同じような軌道で二本目が降って来た。


「誰かが狙っている? ちっ、食事中なのよ!」


 私にとって矢を止めることは造作もないけど、いちいち狙われていたら気が散る。


 それに正確に私の顔を狙ってきている、明らかに腕が立つ弓使いね。気配を慎重に探らないと。


「一時の方向、距離は……200メートル!?」


 なんてこと。意外と離れているじゃない。そんな距離で私の顔を正確に狙えるだなんて、どんな弓使いよ。


 これは、早速面を拝まないとね。狙われないよう木陰に隠れた。


「それじゃ、今度はこっちの番よ。返すわね」


 私を狙った数本の矢を、200メートル先にいるであろう敵目掛けて投げた。


 矢はそのまま放物線を描きながら、飛んで行った。正確な位置まではわからないけど、これで敵もこっちが反撃したと気づくはず。


「さぁ、どんな反応を見せるかしら? ん?」


 敵が早速動きを見せた。気配を探っていると、見る見るうちに敵の気が膨れてきている。


 なんて気の量なの。恐らく大技をかますつもりね。でもそれなら、こっちにも策があるわ。


「そっちがその気なら、こっちだって見せてやるわ。公爵令嬢時代に磨いたあのシュートを!」


 左手に気を集中させ、魔球を形成した。その魔球を目の前で放り投げ、地面に落ちるスレスレのところで私の蹴りを入れた。


「ボルケーノシュート!」


 蹴り飛ばされた魔球は、そのまま一直線に敵の方向へ飛んで行った。


 ドォオオオオオオオン!!


 次の瞬間、空中で巨大な爆発が起きた。敵にぶつかったと思ったけど、早すぎる気がする。


 多分、敵が放った大技と衝突したのね。あと一瞬早ければ、私の技を直撃できたはずなのに、運がいい奴。


「うわ……凄い」


 爆風が止んで、周囲は激変した。爆発の影響で周囲の木々は完全になぎ倒されていた。そしてうっすらと、200メートル前方に人影が見えた。


 煙がおさまって目を凝らして、その人影の正体を探った。体型的に女性っぽいけど背が高く、髪は白色でかなり長い。そして耳が尖っている。


「耳が尖ってる? まさか!?」


 人影は大きな弓を持ったまま、そのまま近づいてきた。やっぱり女性だった。だけどそれ以上に驚いたことがある。


「やっぱり……エルフ!」

「あなた、一体何様のつもりよ?」


 目の前まで近づいたエルフの女性は、いきなり不機嫌な口調で話しかけてきた。


「あら、これは失礼。一体何をそんなに怒ってるのかしら?」

「しらばっくれるつもり? 私の獲物を横取りしたでしょ!?」

「獲物……あ、もしかして?」

「そう。それよ」


 私が持っていたイノシシを指差して彼女は言った。


「ごめんなさい、まさか先客がいたなんて知らなかったの。でも、早い者勝ちでしょ?」

「……強いわね、あなた」


 エルフの女性がぼそっと呟いた。


「何が言いたいのよ?」

「本来なら、私の獲物よ。ここであなたを殺してでも、その肉をいただきたい」

「随分物騒なこと言ってくれるじゃない」


 もしかしてまだ諦めていないのだろうか。私は思わず剣を構えた。


「いえ、あなたと張り合いたくないわ」

「じゃあ見逃してくれるの?」

「さっきの魔法、見事ね」


 どうやら私の実力を認めてくれたようだ。そしてそのまま手を差し出した。


「自己紹介が遅れたわね。私はAランクの弓使いウィンディ・ベローナ、見ての通りエルフよ」

「ウィンディ……よろしくね。私はナターシャ・ロドリゲスよ」


 私も自己紹介しウィンディと握手を交わす。


「って、あなた人間?」


 ウィンディが今更ながら驚いた。


「そうだけど、なにか?」

「いえ、その……なんというか、背が高いから」

「185あるわ。あなたも同じくらい高いじゃない」

「人間なのに、驚いたわね。そしてさっきの魔法と言い、あなたは高ランクの冒険者では?」

「いや、まだ新人だからDランクよ」

「新人!? 嘘でしょ、信じられないわ」

「これ見て」


 私は今日発行してもらったメンバーカードを見せた。どうやらウィンディも冒険者らしい、私のランクを見ると目を見開いた。


「本当ね。でもそれなら……あなたにお願いがあるんだけど」

「お願いって?」


 一瞬だけ嫌な予感がした。


「私とパーティーを組まない? 今はソロでやっているけど、そろそろ限界を感じて、強力な仲間を探していたところなの」

「あぁ、そう……」

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