第13話 極上の珍味の依頼

 変な男がジュドーの座っていた席に座り込んできた。そしてそのまま別の男も隣に座ってきた。


「あんたこの辺じゃ見ない顔だな。もしかしてこの町は初めてかい?」

「それと同じジュース、もう一回注文してやるよ。あとは昼食も俺達が奢ってやる、お好きなメニューを選んでよ」

「いや、えぇと……わたしは……」


 男達はにやにやしている。またうざい連中ね。もうしつこいったらありゃしない。


「俺達はなBランクパーティーなんだ。冒険者歴五年目、この界隈じゃけっこう有名だぜ」

「お嬢さん、腰に剣を携えてるけど、もしかして冒険者かい? 職業は剣士かな?」

「俺達のパーティーに入ってくれないか? 実は欠員が生じてね」


 まさかのパーティーのお誘いと来た。こんな下品な男達のパーティーで欠員とか、呆れた。誰も入りたがらないでしょ。


「悪いけど、私はパーティーを組まないことにしてるから。ほかを当たってね」

「おいおい、お嬢さんもやっぱり冒険者なんだな。だったら悪いことは言わねぇ、俺達のパーティーに入りなって」

「そうそう、最近じゃ魔物のレベルが上がってきてるんだ。お嬢さん一人じゃ荷が重すぎるぜ」

「だから俺達が遠慮なくサポートしてやるんだよ。絶対後悔させないからよ」

「しつこいわよ。丸焼きにされたいの?」


 右手から炎を起こして、男達に見せた。


「うわぁ!? こ、これは……?」

「あんた、魔道士だったのか?」

「魔道士じゃないわよ、でも魔法は使えるわ」

「驚いた。杖もなしにこんな立派な炎を、あんたすげぇぜ」


 またギルドにいた冒険者と同じことを言っている。この男達はやっぱりあてにできない。


 なにか食べようと思ったけど、ここにいたらきりがない。店を出よう。


「もういいわ。ちょっと用事があるから、じゃあね」


 席を立って、酒場を後にした。でも、多分これで終わりじゃないわね。


「おぉーい、お嬢さん。待ってくれよ!」


 やっぱりついてきたわね。もう本当にしつこいわ。


 こうなったら走って逃げよう。ギルドまで全力疾走よ。さすがのあいつらも、私の足にはついて来れないようね。


 全力で走ったら、余計にお腹空いた。さっさとメンバーカードを受け取って、何か依頼を受けよう。


 ギルドに入りカウンターに行くと、受付嬢がすぐに駆け寄った。もう顔をすっかり覚えられたようね。


「ナターシャ様、お待ちしておりました。メンバーカードが出来ましたので、どうぞお受け取りください」


 受付嬢が丁寧に差し出したのは、長方形のプレートだ。その中央に、私の偽名『ナターシャ・ロドリゲス』の文字が彫られていた。


 本名はバレてない、これは一先ず安心だ。でも、そのすぐ横にあるランクに私は目が止まった。


「えぇと……冒険者ランクがD?」

「はい。ナターシャ様はまだどの依頼も未達成の新人冒険者です。最低のDランクからスタートとなります」

「Dが最低ですって?」


 あきれた。Aランクの冒険者も素手で倒した私がDランクって、ちょっと納得いかない。


「……ご安心ください。あくまで規則ですから」


 受付嬢が耳打ちでこっそり声を掛ける。


「それ、どういうことよ?」

「いえ……あなたの強さが規格外なのはわかってます。ランクなんて依頼を達成し続ければ、すぐに上がりますから」

「それはありがとう。じゃあ、早速依頼を受けさせてよ」

「はい、あちらの掲示板に依頼書が貼られてます」

「ありがとう。早速見て来るわね」

「あぁ、ちょっと! まだ全部説明が……」


 受付嬢が指差した先を見ると、大きな茶色い掲示板が壁に掛けられていた。そこに何枚もの依頼書がある。私は近くまで寄った。


 中には凶悪そうなモンスターが描かれている依頼書がある。その中の一つに目が止まった。


「あ? この鳥って……」


 巨大な鳥の魔物が描かれた依頼書がある。その鳥は見覚えがある。


 私の記憶が正しければ、この依頼書に描かれているのはクレセントバードだ。三日月のような形状の顔をした鳥で、一度見たら忘れられないけど、この鳥は別の意味で記憶に残ってる。


 こいつの肉は、極上の珍味と評判だ。公爵令嬢時代に一度食べたことあるけど、とにかく美味しかった記憶がある。


「よし! こいつに決めた!」


 またあの珍味が味わえる。しかも出現場所もそう遠くないし、報奨金もけっこうな金額ね。ここから北西に30kmほど離れた、クレセント山ね。馬車に乗ったらすぐ行けるわ。


 早速クレセントバード討伐の依頼書を持って、カウンターへ向かった。


「すみません。この依頼を受けたいんですけど……」


 依頼書を受付嬢に見せると、渋い顔を見せた。


「あの……まさかこの依頼を?」

「そうよ。何か問題でもあるの?」

「大いに問題があります。こちらの依頼の難易度はBランクなんですよ」

「へぇ、そうなの? それの何が問題なの?」


 受付嬢がハァとため息をついた。すると後ろにいたもう一人の受付嬢が、肩をたたいた。


「仕方ないわ。受けさせてあげなさい」

「でも、これがバレたらマスターになんて言われるか……」

「ジュドー隊長のお墨付きもあるんだし、大丈夫でしょ?」

「そうね。わかったわ」

「こそこそ話してないで、受けていいのか駄目なのかどっちなのよ?」

「わかりました、ナターシャ様。大丈夫です、問題ありません」

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