第12話 王子の手厚い加護

 適性検査が終わって、私は無事に冒険者登録ができた。大岩を壊してしまって一瞬弁償するのかと思ったけど、そこはジュドーがなんとか処置してくれた。


 本来ならこれで私は冒険者、一早く何かの依頼を受けたいところだけど、ギルドが言うにはメンバーカードが発行されてからでないと受けられないとのことだ。


 その間、暇なので私はジュドーと一緒にとあるレストランに来ていた。


「なにはともあれ合格おめでとうございます。今日は私が奢りましょう」

「私、未成年なんですけど……」


 ジュドーは顔がこわばった。


「ご心配なく。ここのジュースはおいしいと評判ですから」

「……また特別扱いね」


 ボソッと呟いた言葉にジュドーは反応した。


「何かおっしゃりたいようですね」

「言いたいことは山ほどあるわ。まず第一に……」


 ジュドーが突如人差し指を口元に当てた。


「大きな声で話さないように、あなたが言いたいことはわかりますから」

「……私の本名知ってるでしょ?」


 私が気になってたことに、ジュドーは黙って頷いた。


「やっぱりね。いつから?」

「最初に出会った時からですよ。さすがの私も目を疑いましたが、偽名を聞いて確信しました」

「はぁ? なんであの偽名で!?」


 ジュドーがまた口元に指を立てた。周りの視線をかなり気にしている。


「……実はあの偽名、あるお方から教わったのです。あなたが昔から使っていた偽名だと」

「え? まさか……」


 今のジュドーの言葉で私も気づいた。思い出せば、私の偽名を知っている人間はこの世で一人しかいない。両親ですら教えたことないのだ。


「あなた、ジョージの……!?」

「シィー! 小声でお願いします!」

「……わかってるわよ。まさかあなたが彼の知り合いだったなんてね」

「昨日も連絡を取ったんです。あなたが冒険者になるようなら、必ず見守るようにと仰せつかりました」

「なるほど。道理で好待遇過ぎるわけだわ、もしかしてまだ私のことを……?」

「はい。愛していらっしゃいますよ」


 呆れた。あれだけはっきりと「愛していない」と言ったのに、なんで懲りないのかしら。


「お待たせしました。こちらがご注文の品でございます」


 ウェイターがジュースを持ってきた。差し出されたジュースは美しい青色に輝いていた。


「おいしそう。これ何てジュース?」

「ブルーエレメントという名前ですよ。これを飲めば魔力が回復するだけでなく、スピードや活力が向上します」

「ふぅーん、まぁ美味しければいいわ」


 一気に飲み干した。のどにしみ渡って、体中から力が漲るようね。


「こんなに美味しいジュースを無料でね。気持ちは嬉しいけど、ほどほどにしてほしいわ」

「なぜです? 言っておきますが、ジョージ様はあなたが冒険者になることに反対はしておりません。むしろあなたの身の安全を最優先に考えておりますから、これだけの支援をするわけで」

「だから、余計なお世話ってやつなの。私は、一人で冒険者の道を歩みたい、一人だけの力で生きていきたいの」


 きっぱり主張した。でもジュドーは渋い顔を見せる。


「ナターシャ殿、お気持ちはわかります。あなたならそう言うと思っていました。どうやってもお一人で冒険をされるということですね」

「そうよ。だって普通の冒険者は、王族から援助なんかされないでしょ? それじゃ何も楽しくないわ」

「……わかりました。そこまで言うなら、私はもう止めません」


 そう言うとジュドーは立ち上がった。


「あら? 行っちゃうの?」

「はい。ジョージ様にはあなたの今のお気持ちをそのままお伝えします。ですがこれだけは約束してください、決して無理をなさらずに。我々の助けが必要になった時は、いつでも頼って大丈夫ですから」

「ありがとう。でもそんな事態はまず起きませんから、大丈夫よ」

「……では失礼します。あなたの冒険に光あれ」


 ジュドーは頭を下げて、そのままレストランを出て行った。

 

「あー、やっといなくなったわ。ってもうこんな時間か、そろそろメンバーカードが出来上がる頃かな。あ、でもお腹が……」


 ここにきてまた腹の虫が鳴った。思えば昼食はまだだった。しまった、ジュドーに昼食奢ってもらえればよかった。


 なんてこと考えたら駄目よ。私は一人で冒険者を目指すんだから、さっそく何か注文して食べましょう。


「すみません、オーダー!」

「よっ、姉ちゃん。この席空いてるかい?」

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