第11話 適性検査で驚愕の力を発揮!

 何をみんな驚いているのかしら。そもそも魔法を起こすのに杖が必要なんて、聞いたことないわ。


「い、いや……でもそんな小さな炎じゃ、焼けないだろ?」

「あら? もちろん威力を調整できるわ、こんな感じに」


 強く念じて、人差し指からもっと大きな炎を起こした。炎の先端はあっという間に天井にまで届いた。全員がそれを見て、呆気にとられている。


「こ、こんな……馬鹿な?」

「すげぇ、杖もなしに火魔法を起こすのも初めて見るけど……なんで正確に威力を調整できる?」

「なにって……ちょっと訓練したら、これくらいできるでしょ?」

「いや、訓練とかそんな問題じゃないと思うぞ」

「それくらいでいいだろう。どうやらナターシャ殿の言うことは本当のようだ。これくらいの炎なら、確かに魔物の肉も食べられるな」

「……わかりました、ジュドー隊長がそこまで言うなら、認めましょう」


 受付嬢がついに根負けしたようだ。


「おいおい、いいのかよ?」

「ですが、一点だけ譲れない条件がありまして、適性検査に合格した者しか冒険者登録はできません。それはよろしいですか?」

「あぁ、その点は問題ない。ナターシャ殿なら簡単に合格できるだろう」


 簡単に合格できるとか、何を根拠にそんなこと言うのかしら、この男。


「わかりました。それではナターシャ様、こちらに来てください」


 受付嬢が手招きしたので、私はカウンターの中に入った。カウンターの奥にある部屋に入り、そこには見慣れない大きなオーブが中央の台座に置かれていた。


「なんなの、このオーブ? それに適性検査って、一体これから何をするわけ?」

「ナターシャ様、どうぞそのオーブに両手で触ってください」

「触るって……こう?」


 オーブにそっと両手を当てた。すると仄かに光り出して、何やら文字がたくさん表示された。


「剣適性、槍適性、斧適性、弓適性……なんなのこれ?」

「このオーブでその人間がどの武器に適性が高いか。またどの職業が向いているかが、わかるわけです」

「へぇ、そうなの」


 適性とかあったのね。私は幼い頃から、剣も槍も斧も弓もあらゆる武器を使って訓練してたから、無関係と思っていたけど。やっぱり冒険者のルールってややこしいわね。


「こ、これは!?」

「どうしたの? 検査終わった?」


 受付嬢がまた困惑した顔を見せている。


「あなただと、もう不具合じゃないかもね」

「はぁ? どういうこと、それ?」

「全武器適性Sとなっています」

「それって要するに最高ランクってことよね」

「はい、そうなんですけど……普通あり得ません」

「まぁ、いいわ。検査は問題ないってことでいいのよね?」

「いえ、次は魔法適性も確認します。もう一度オーブに触れてください」


 魔法適性までわかるのね。さっきの火魔法じゃ駄目なのかしら。


 オーブに触れると、今度は一瞬だけ凄く光った。さっきみたいに何も文字は出てこない。受付嬢は凄く困惑している。


「どう? 終わった?」

「これは……終わった、というより」

「いえ、もういいでしょう。次の検査へ……」

「ちょっと!? 私の魔法適性教えてよ」

「測定不能、と出ました」

「そ、測定不能!?」


 あまりに意味不明な言葉だ。もしかして、指輪の『スキル封じ』が発動したんじゃ。


 でもそれじゃさっきの武器適性は正常に表示されていた。どういうことかしら。


「それこそオーブの不具合じゃないの? もう一回調べてよ」


 私はもう一度オーブに触れてみた。やっぱりさっきと同じで一瞬だけ凄い光を発して、何も表示されない。


「変わりません、測定不能です」

「嘘よこんなの。だってさっき見たでしょ? 火魔法は使えるわ」

「気にしなくていい。あなたの魔力がそれだけ高すぎるということですよ」


 男の声が聞こえたので、振り向くとジュドーがいつの間にか部屋に入っていた。


「人の検査勝手に見ないでくれる?」

「いえいえ、なにせ大型新人の適性検査ですからね。私も気になってしまいまして」

「大型新人って……」

「測定不能でも、別に問題はないだろ? 次の検査に進んでくれ」


 もやもやした気持ちは消えないけど、ジュドーが促すと受付嬢はそのまま壁際に進んだ。


 壁際にカーテンがかかっていた。そのカーテンが開けられ、その先の光景を見た私は目を疑った。


「これは……岩?」


 なんと高さ五メートルくらいある巨大な長方形の岩があった。中心部に、窪みがある。


「こちらの岩であなたの全力時の戦闘力を測定いたします」

「全力時って、具体的に何をすればいいのよ?」

「ご自身が最も自信がある武器を選んで、そのまま岩の中心部にある窪みに攻撃を与えてください。もちろん手加減はせず、全力で攻撃して大丈夫です」

「そんなこと言ったって、もし岩が崩れ落ちたらどうするのよ?」


 受付嬢はそんなことはないと言わんばかりに、首を横に振った。


「ご安心ください。特殊な魔法効果がかかったクリスタルロックと呼ばれる岩です。ですので、いかなる衝撃にも耐えられます」

「なるほど。じゃあ、遠慮なく全力で攻撃しちゃっていいわけね」

「いや、ちょっと待った!」


 ジュドーが突然口を挟んだ。


「あなたの場合は、ちょっと手加減した方がいいかもしれません」

「はぁ? それどういう意味よ?」

「いえ……まぁあくまで試験なので、ほどほどにお願いします」

「そ、そうですね。あの、ほどほどにお願いします」


 受付嬢まで苦笑いしている。


「呆れた。全力での戦闘力を測るんでしょ? だったら私の全力見せてあげるわ」

「ちょ、ちょっと待った!」

「うるさい、あんたは下がってて!」


 ジュドーを突き飛ばして、私は気合を込めた。腰を低くして、右拳強く握る。そこに一点の気を溜める。


 今こそ、私の渾身の聖拳突き、見せてあげるわ。


「でやああああああああああ!!」


 勢いよく踏み込んで岩の中心部に右拳を叩きつける。さすがの硬さね、思わず右手が痺れたわ。


「どう? これが私の全力……」


 バキッ!


 何かが割れるような音がした。よくみたら、中心部からヒビが生じ始めた。


 ヒビ割れは徐々に広がり始め、やがて岩全体にまで広がった。受付嬢達が青ざめている。


「あぁ、そんな……」


 バコォオオオオン!


 大きな音を立てながら、岩は粉々に崩れ落ちた。


「嘘でしょ……こんなの」

「あれ? どんな衝撃にも耐えられるんじゃなかったの?」

「あなたの場合は規格外です。だから手加減するよう言ったのに」

「……いや、多分老朽化よね。そうよ。そうに決まってるわ……」


 受付嬢は首を横に振った。


「この前、取り替えたばかりですよ」

「あぁ、そうなの……ごめんなさい。悪いことしちゃったわね、おほほ……」


 私は笑うしかなかった。

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