第10話 最高ランクの魔物を討伐!?

 動揺していた受付嬢は、また渋い顔を見せる。すると、今度は別の受付嬢が現れた。


「ナターシャ様、先ほども申しましたが、ギルドとしてはパーティーを組んでからの冒険者登録を推奨しております。ピーターさんが許可してくださるようなので、彼のパーティーに加入した方が……」


 また同じことの繰り返しね。これはキリがない。私は意を決した。


「……わかった。じゃあ、あれを見せてあげる! ちょっと待って」


 こうなったら、奥の手よ。私はカバンの中に収納していた、ある物を取り出した。


 それを取り出し、カウンターに置いた。受付嬢は目が点となった。


「これは……一体?」

「森で出会った魔物の爪よ。もちろん私一人で討伐したわ」

「魔物の爪!?」


 受付嬢は驚いた。爪を手に取ってまじまじと見つめる。あとから現れた受付嬢が、何やらオーブを取り出した。


「あの、失礼ですが鑑定させてよろしいでしょうか?」

「鑑定? もしかしてそのオーブでできるの?」

「はい。一応体の一部さえあれば、魔物の正体も判明できます」

「じゃあ、やってみて!」


 オーブの前にその爪を置いた。そして受付嬢が両手を翳して何やら呪文を詠唱している。


「あれは鑑定オーブだよ」

「鑑定オーブ?」


 リッドが声を掛けてきた。


「俺と同じ鑑定スキルが、あのオーブで使えるんだ。まぁ一種の魔法道具って奴だよ」

「ふぅーん、そうなの」

「それはそうと、あの爪……俺の見たところだと……」


 リッドが変な顔で私を見始める。


「あなたはもうわかったの?」

「あぁ、わかったけど。いや……そんなはずねぇよな、はは……」

「リッド、どうかしたのか?」


 ピーターも気になったようだ。リッドがピーターに耳打ちした。多分自分の鑑定結果を教えているんだろう。


「な、なんだと!?」


 ピーターも驚いた顔で言った。


「何かの間違いだろ!? もう一回鑑定しろ!」

「あぁ、わかってる……駄目だ、変わらねぇ」

「嘘だろ、いや、そんな……」

「どうしたのよ、二人とも。何恐ろしい顔して……」

「こ、これは!?」


 今度は受付嬢の大声が聞こえた。咄嗟に振り向くと、受付嬢もかなり困惑した顔を見せている。


「あら、鑑定終わったの?」

「は、はい……ですが、その……すみません。もう一度鑑定してもいいでしょうか?」

「はぁ? もう一度って、何言ってんのよ?」

「いえ、不具合かと思いますので、念のためもう一度鑑定いたします。もう少々お待ちください」


 不具合って、何言い出すのよ。そして本当にもう一回オーブで鑑定を始めた。


 だけど鑑定が終わっても、やっぱりさっきと同じような顔をしている。私の方を変な目で見始めた。


「……失礼ですが、こちらの魔物はナターシャ様がお一人で討伐されたのでしょうか?」

「えぇ、そうだけど……」

「一人で? そんなのあり得ねぇ、だってあの魔物は……」

「Sランク魔物、トリケラベアーだな」

「あら、あなたは……」


 そこに現れたのは、昨日森で出会った警備隊の隊長だ。


「ジュドー隊長? どうしてここに?」

「突然来てしまって申し訳ない。ナターシャ殿、やはりここにおいででしたか」


 目当ては私だったのね。ジュドーには聞きたいことが山ほどある。


「あの、ジュドー隊長……さっきの言葉だけど」

「トリケラベアーって言ったのか?」


 周りにいた冒険者の数名も聞いていた。その名前を聞いた途端、ほかの冒険者達も騒然とし始める。


「トリケラベアー!? Sランクの魔物じゃねぇか!?」

「じゃあ、あのカウンターに置いてある爪が……?」


 受付嬢がオーブの向きを変えた。そのオーブに魔物の姿がくっきりと映し出されていた。


「あ! そうよこいつよ! 確かに顔に三本の角が生えていたわ、凄いオーブね。爪で名前までわかるなんて」

「いえ、ナターシャ様、それにジュドー隊長。これは何かの間違いかと存じます。トリケラベアーを討伐するだなんて……」

「なによその言い草、なんでそこまで疑うわけ?」

「トリケラベアーはな、Sランクの魔物なんだよ」

「Sランク?」

「Sランクは、魔物の等級で最高ランクだ」

「最高ランク……」


 それを聞いて、なんとなく理解できた。どうりでみんな驚いているわけね。


「ご覧の通りだ。こちらのナターシャ殿は、トリケラベアーを一人で倒せるほどの実力者。冒険者登録をしてあげてはどうだ?」

「しかし……ジュドー隊長」

「なんだ? まさか警備隊の隊長である私が嘘を言うとでも?」

「いえ、そんなことはございませんが……」

「いやいや、ジュドーさん。いくらあなたでも、信じられねぇものは信じられねぇよ!」


 ここで口を挟んだのは、なんとピーターだ。この男、何かと文句が多いわね。


「そうっすよ。Sランク魔物のトリケラベアーなんて、それこそSランク冒険者でも倒せるかどうかわからねぇ魔物だぜ」

「そうさ。それにカウンターに置いているのは爪だけ。おおかた森のどこかで拾ったんだろうな」

「拾ったですって!? あなた、言わせておけば!」


 私が怒り出すと、ジュドーが手で制した。


「わかった。確かにそうだな、爪だけでは不十分かもしれない」

「ちょっと、あなたまで何を言うの!?」

「ナターシャ殿、ほかの部位はないだろうか? 頭部でもあれば、ほぼ確実に証明できるんだが……」

「ほかの部位とかないわよ。おなかすいてたから、火魔法で焼いて食べちゃったの」

「食べた!? トリケラベアーを!?」


 またどよめきが起きた。だけどピーターはくすくすと笑いに変え始める。


「こいつは滑稽だな。焼いて食べたなんて言い訳は初めて聞いたぜ。そもそも火魔法なんて、お前さん魔道士じゃないだろ?」

「いや、本当だから。これ見て」


 私は、右手の人差し指を立てて小さな火の玉を起こした。


「な、なんだそりゃ!?」

「なにって……これが火魔法よ」

「嘘だ、杖もなしにどうしてそんな炎が!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る