第9話 まさかの門前払い!?
公爵令嬢時代も、とびぬけて背が高いからとにかく目立って、擦り寄ってくる男は多かった。
どこの世界でも、男の考えていることは同じ。
「時間取られちゃった。えぇと、カウンターは……あそこか」
ギルドの奥にあるカウンターへ行き、受付嬢の女性と会った。受付嬢も私の背の高さに圧倒されたのか、しばらく無言だった。
「……えぇと、いらっしゃいませ。本日はどういったご用件でしょうか?」
動揺してたけど、すぐに事務的な口調で対応した。さすがプロね。
「わたし、今日から冒険者を目指すナターシャ・ロドリゲスと言います。冒険者登録をしたいんだけど……」
「え? 冒険者登録……ですか?」
受付嬢が驚いた顔で私を見た。
「あの……失礼ですが、今日初めて冒険者登録をされるということで、お間違いないでしょうか?」
「そうよ。さっきも言ったじゃない!」
「……そうですか。その……念のため確認ですが、付き添いの方やほかにパーティーメンバーはいますか?」
受付嬢の質問に私も面食らった。何を聞いているの。
「私一人よ。何か問題でもあるの?」
「お一人で!? かしこまりました……えぇと、少々お待ちいただけますか?」
受付嬢は、カウンターから離れて、後ろにいた別の受付嬢らしき女性と会話した。何なのよ、一体。
しばらくして、受付嬢が戻ってきた。
「これは失礼しました。お名前をもう一度お聞きしてよろしいでしょうか?」
「ナターシャ・ロドリゲス、よ」
「ナターシャ様、恐れ入りますが日を改めた方がよろしいかと存じます」
「はぁ? 突然何言い出すの!?」
受付嬢の言葉に、私は思わず大声を出してしまった。周りにいた冒険者達も、何事かとこっちを見ている。
「ですから、その……ナターシャ様はお一人で冒険者登録をされるということですよね?」
「だからさっきから言ってるじゃない? それの何が問題なのよ?」
「恐れ入りますが、付き添いの方がいない状態か、パーティーをまだ未結成での状態で、単独で冒険者登録することをギルドとしては推奨しておりません」
「それって……どういうことよ?」
受付嬢が言うには、ここ最近特に魔物の動きや強さが活発化しているとのことだ。新人冒険者が相次いで死亡することも珍しくなくなってきて、非常に危険な状態が続いているという。
さらに新人冒険者でもこなせる簡単な依頼でも、経験豊富な冒険者が代行することが増えてきて、ますます新人冒険者の肩身が狭くなってきている。
「……ということです。ですから、パーティーメンバーを探すか、どこかのパーティーに所属していることを証明されない限り、安易に冒険者登録をおすすめいたしません。おわかりいただけましたでしょうか?」
さっきピーターが言っていたのと同じような内容ね。
そもそもパーティーを組まないと、冒険者登録ができないような状態なのね。だけど肝心なことをまだ聞いていないわ。
「要するに、あなた達は過保護すぎってことね」
「いえ、過保護とかそういう意味ではなく、新人冒険者達の身の安全としてですね」
「もういいわ。それに大事なことを聞いていなかった。適性検査ってあるんでしょ?」
「はい、適性検査は確かにあります。一応冒険者としての素質や、戦闘力が最低限あるかを検査する試験なのですが」
「その適性検査に合格すれば、問題ないでしょ? パーティーを組むのは、その後からでもいいじゃない?」
受付嬢は渋い顔をした。
「以前まではですね。ですが、その……適性検査に合格して自分の実力を過信する新人冒険者が後を絶たず、危険な依頼を単独でこなしてそのまま生きて帰って来ない事例も多かったものですから、我々としてはまずどこかのパーティーに所属してから、試験に臨むことを推奨します」
「あぁ、もうじれったいわ。それって自己責任でしょ!? そんな悠長なことしてられないから、さっさと適性検査ってのをやらせてちょうだい!」
受付嬢は困惑している。やっぱりマニュアル通りの対応しかできないのね。
「よぉ、お困りのようだね。お嬢さん、いやナターシャさんかな?」
後ろから聞き覚えのある男の声が聞こえた。さっき話しかけてきたピーターだ。ちゃっかり名前まで聞いているのね。
「あら、ピーターさん。もしかして、この女性と知り合いですか?」
「はは、知り合いも何も、このナターシャさんは新人冒険者。だから俺達がパーティーを組んであげるってわけだ」
「そうだったんですか。大変失礼しました、それなら問題ございません」
「ちょっと、何勝手に決めてんのよ!?」
ピーターは私の耳元に口を近づけた。
「いいじゃねぇか、こうでもしないとすんなり話が通れねぇだろ? ここのギルドはけっこう厳しくてね……」
「さっきも言ったけど、お断りよ!」
私はピーターを思わず突き飛ばした。
「ぐわっ!?」
「おいおい、ピーター!?」
吹っ飛ばされて、ピーターは動揺した。リッドまで何事かと駆け寄った。
「これは……はは、思った以上の力だな」
「あの、パーティーを組まれるのではなかったのですか?」
「私はパーティーは組みません! 改めて言うけど、一人で冒険者登録をします」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます