第8話 パーティーに誘われた

 私は男に、腰にぶら下げていた剣を見せびらかした。


「こ、こいつは!?」


 男が驚いて剣を見始めた。


「もしかして、また鑑定?」

「……いや、鑑定するまでもねぇよ。こいつは驚いたな、はは……」

「そんなに凄い剣なの?」

「凄いも何も、お嬢さんよくそんな弱い武器で冒険者を目指すとか言い出すな」

「あら? これのどこが弱い剣って言うの?」

「あのなぁ、そいつはどう見ても銅製の剣だぜ。せめて鋼鉄製の剣じゃねぇと……」


 なんてこと。両親から持ってっていいと言われたこの剣が、まさかただの銅製だったなんて。


「そ、そうだったの……でも、私の実家にこれ以上いい武器がなくて」


 苦しい言い訳だけど、これで納得してもらえるかしら。


「はは、そう言うことなら話が早いぜ。じゃあ、俺がミスリル製の剣を売ってやる!」


 男がそう言うと、カバンの中から、綺麗な色に輝く立派な剣を出した。


 ミスリル製と言ったけど、どうやら本物のようね。私が持ってる剣とは段違いの輝き。


「ありがとう! あなたってお人好し……じゃないわね」


 うっかり男の言葉を聞き逃すところだった。


「3000ゴールドだ。言っておくが、値下げはなしだぜ。お嬢さん」


 しっかりしているわね、この男。しかも3000ゴールドといったら、金貨三十枚分、貴族の月収に匹敵するわ。それとほぼ同額を要求するだなんて。


「……足元見すぎよ」

「おいおい、ミスリル製の武器だったらしょうがないぜ。言っておくが相場と同じくらいだ、ぼったくりじゃねぇよ」


 私には武器や防具の相場がわからない。だけどこれ以上は付き合ってられないわ。


「悪いけどお断りよ」

「あぁ、そうかい。でも本当にそんな剣で、この先大丈夫かねぇ?」

「心配は無用よ。言っておくけど、森に潜んでいた魔物も倒したんだから」

「まぁ、弱い魔物ならその剣でも大丈夫だが。世界は広いんだぜ、悪いことは言わねぇ。このミスリル製の剣を……」


 是が非でも売りたいみたいね、この男。さすがにうざいったらありゃしない。


「……しつこいわよ、あなた」


 男をじっと見下ろして、にらみつける。するとミスリルの剣を引っ込め、後ろへ下がった。


「ひえっ、そんなおかねぇ顔するなって。悪かったよ……」

「どうしたんだよリッド? またナンパに失敗したのか?」


 別の男の声が聞こえた。今度はやや背が高い男だ、槍を持っている戦士、仲間みたいね。


「ピーターか。いやぁ、このお嬢さんこれから冒険者になるっていうんで、俺が親切に対応しているんだが、聞く耳もたずでな」

「誰が親切な対応よ、ただのぼったくりじゃない!」


 思わず大声で怒鳴りつけた。槍を持った男は私に近づいて、顔をじっと見た。


「これはまた背が高いな、そして美しい」

「褒めたって何もあげないわよ」

「はは、いやぁ気が強いな。さすがは冒険者を目指すだけはある。でも気の強さだけじゃ駄目だな、冒険者になるんだったら純粋に戦闘力が試される。武芸や魔法に秀でていないとな」

「それだったら自信があるわよ。剣だけじゃなく、魔法も使えるから」


 私はきっぱり言い切った。


「ほう? はは! こいつは気に入ったぜ。よし、それじゃこうしよう! 条件さえ飲んでくれたら、ミスリルの剣をタダで渡してやろう」

「え、それ本当? その条件ってなに?」

「俺達とパーティーを組んでくれたらな。どうだ、悪い話じゃねぇだろ?」

「パーティーって……それどういうこと?」


 ピーターという男の言うことがよく理解できない。なんでパーティーを組まなきゃいけないの。


「あのな、お嬢さん。今は魔物の状態が以前と比べて活発化してやがるんだ。低ランクの魔物でも以前より強いっていう噂だ」

「それがどうかしたの?」

「どうしたもこうしたも……新人冒険者にとってはかなり不遇な世の中だ。簡単な依頼だと思っても、予想以上に手こずって返り討ちに遭って、依頼も達成できない奴らが続出しているんだ」

「ふぅーん、大変ねぇ」

「他人事みたいに言うなよ。お嬢さんだって、新人なんだろ? 同じ目に遭いたくねぇよな?」

「なるほど、そうだな。ピーターの言う通りだぜ。俺達と組めよ、絶対後悔させねぇからな」

「あなた達と組んだら安全て保証はあるの?」


 私が聞くと、ピーターは余裕の笑みを浮かべた。


「ふふ、これ見ろよ」

「何それ? カード?」

「冒険者登録したら、こんな風にメンバーカードが発行されるのさ。一種の身分証になって、これでその冒険者がどれだけの強さかもわかる」

「へぇ、どれどれ……Aランク?」

「そうさ。俺達はともにAランク冒険者、お前さんもAランクの強さは知ってるだろ?」

「あぁ、そうね。知ってるわ」


 確か準最高ランクの戦士が得られる称号だったわね。森で出会った盗賊のガイエルも同じだった。


 でも私は不安だ。ガイエルなんか私の正拳突きであっさりやられたじゃない。そいつと同じランクだって言われてもね。


「さぁ、どうする? 言っておくが、こんなチャンス二度とないぜ」

「そうね。悪いけどお断りよ」

「な、なんだって!?」


 ピーター達は驚いた顔を見せる。


「正気かよ? さっきも言ったけど、今は新人冒険者にとって不遇なご時世だぜ。このチャンスを逃したら……」

「悪いけど、私は一人で冒険者の道を歩むつもりだから、パーティーを組む予定なんかないの」


 私が言い切ると、ピーター達は呆れたような顔を見せる。


「はは、一人でね。以前まではそんな強気なことを言っても、大目に見てもらえたんだがな」

「何よ? 別にパーティーを組まなきゃいけない決まりなんてないでしょ?」


 ピーターはしばらく無言になった。さすがに諦めたかな。


「……わかったよ。お嬢さんがそこまで言うなら、もう止めねぇよ。好きにしな」

「え? おいおいいいのかよ?」

「リッド、こんなに頑固な女性に会うのは初めてだ。行こうぜ」


 ピーターは遂に離れていった。リッドも彼に続いた。


「はぁ、やっといなくなったわ。本当にうざい、これだから男っていう生き物は」

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