第4話 盗賊団を一網打尽!?
ガイエルという男は、味方の一人から大きな盾をもらった。騎士が装備していそうな大きくて立派な盾を、水平にして地面に置いた。
すると、その盾の表面に右手の拳を当てた。何をするつもりなの。
「ふふ、よぉーく見てろよ」
ガイエルが息を吸い込んで、そのまま勢いよく右手の拳を盾に叩きつけた。
「あら……盾が?」
「ははは、よく見ろこの盾を! お前もこうなりたくないだろ?」
ガイエルが自慢げに叩いた盾を見せびらかす。盾は中心部に大きな凹みが生じていた。
頑丈な金属に大きな凹みができるなんて、普通は考えられない。自分の怪力を自慢したかったのね。
「へぇ、凄い怪力ね。あなた」
「褒めてる場合じゃないだろ。あんなの喰らったら、一たまりも……」
「その通りだ。言っておくが、お前なんか素手で十分だぜ」
「面白いじゃない。だったら私も剣なしで勝負よ」
私の闘志が久しぶりに燃えた。剣を捨てて、両手を前に構えた。
「な……お前正気かよ!?」
「おいおい、この女……正気じゃねぇぜ! あくまで戦う気かよ?」
「……ふはは! そうかい、そんなに俺に滅茶苦茶にやられたいか!」
ガイエルも私と同じく、戦いの構えを見せる。
「おい、ガイエル。殺すんじゃねぇぞ、上等な獲物だからな」
「わかってますよ、兄貴。さぁ、かかってきな!」
「じゃあ、遠慮なく行かせてもらうわ。はぁあ!」
次の瞬間、私は前に踏み出し、右手の拳をガイエルの腹部に叩きつけた。
「ぐふっ!」
ちょっと手加減したつもりだから、これでも倒れないでしょ。仮にも2メートルの巨体なんだから。
お次はわき腹目掛けて私の右足の蹴りをお見舞い、はできなかった。
「あれ? あなた……」
「お、おい……ガイエル」
右足で蹴ろうとした瞬間、ガイエルは何も言わないまま倒れこんでしまった。白目をむいちゃってるわ。
「倒しちゃったみたい……?」
「嘘だろ……ガイエルが!?」
「馬鹿な……何が起きたんだ?」
味方の盗賊達も慌てふためいている。
「私の拳で一撃みたいね。呆気なかったわ」
「あ、兄貴……どうします?」
「どうするもこうするも……くそっ、お前ら一斉にかかれ!」
「まさか、本気で言ってんすか?」
「本気だ! さっさとやれ、じゃなきゃ容赦しねぇぞ!」
「うぅ……くそぉ! うわぁあああああ!」
今度は盗賊が一斉に飛び掛かってきた。でもなんというか、動きが遅すぎるわ。
もしかして私の想像していたより、この盗賊達は弱いのかもしれない。となれば、相当手加減しないとね。
「数が多ければいいってもんじゃないわ。はぁあ!」
襲い掛かってきた盗賊達を、次々なぎ倒した。武器を使うまでもない。全員の動きがゆっくり見える、まるで子供同士の喧嘩ね。
倒れた盗賊達を見て、リーダーの男は呆然とした。
「……う、嘘だ。こんな……」
「すげぇ……あんた、一体何者だ?」
「さぁ、残りはあなただけよ。どうするの?」
リーダーの男はまだ動揺している。でも意を決したのか、何やら右手に変な白い球を持った。
「こうなったら……奥の手だ!」
今度は何をするつもりかしら。すると男はそのまま白い球を地面に投げつける。
周囲に大量の白煙が発生した。周りは何も見えなくなった。
「こいつは煙幕だ。まずいぞ、姿が見えない!」
「見えなくなったら、気配を探ればいいのよ」
「いや、俺は気配探知のスキルは持ってねぇ!」
「スキルじゃなくて、感覚を研ぎ澄ますのよ」
「か、感覚を研ぎ澄ますって……何言ってんだあんた?」
なんだか商人との話が通じない。でもそんなこと気にしている場合じゃないわ、早く男の気配を探らないと。
さて男は今どこに。あれ、どんどん遠ざかっているじゃない。これはもしかして。
「逃げたわ」
「え? そんな……」
次第に白煙が薄くなって視界が晴れてきた。周囲にはさっき倒れた盗賊達しかいない、リーダーの男はどこかへ消えた。
「盗賊って言う割には、口先だけの弱い連中だったわね」
「何言ってんだよ……あいつらは“ブラック・スティーラーズ”だぞ。Aランク冒険者でも苦戦する連中だ」
「そういえばそんなこと言ってたわね。でも何かの間違いだと思うわ、そうじゃなきゃ私の一撃で倒れたりしないわよ」
ガイエルを見下ろしながら私は言った。
「お嬢さんが異常なだけだと思うが……」
「異常ですって……私が?」
思わず商人を睨んだ。
「いや……その……勘違いするな。あんたは強い、凄く強い。あんたみたいな強くて美しい女性に会うのは俺も初めてだよ、はは」
「……ありがとう」
多分誉め言葉なのね。でも貴族としての生活が長かった私には、ちょっと馴染めない言葉だったわ。
「それはそうと、この盗賊達どうするの?」
「あぁ、こいつらな。こんな場所で放置するわけにはいかねぇから、連れて行くさ」
「でもちょっと人数多すぎじゃなくて?」
「心配することはねぇ。もう助けを呼んであるからよ」
「え? そうだったの?」
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