第3話 盗賊達が襲ってきた!
いきなり馬の鳴き声がして、馬車が急停止した。
「きゃあ! いたた、荷物が……」
「大丈夫か、お嬢さん!?」
「だ、大丈夫で……大丈夫よ。それより、なんで止まったの?」
「いや……すまねぇ。やっぱり今すぐ降りてくれ!」
「どうしたの?」
カツゥーン!
何かが激しくぶつかる音が聞こえた。そして今度は大勢の足音が近づいてきた。
「ヒヒーン!!」
「早く降りて逃げろ! 盗賊だ、盗賊が襲ってきたんだ!」
「なんですって!?」
「動くんじゃねぇ!」
直後、大声で叫ぶ男性の声が聞こえた。商人とは別の男の声だ。
咄嗟に外に飛び出した。荷台の後ろからこっそり様子を伺うと、馬車の前方に複数のマスクを被った男達がいた。あいつらが盗賊なの。
「お嬢さん、早く逃げて!」
「へへへ、グノーシス商会の商人じゃねぇか。こりゃ運がいいぜ」
「命と商品、どっちが大事かな?」
「なめるんじゃねぇ! 俺をただの商人だと思ったら大間違いだぞ!」
「ほぉ、言ってくれるじゃねぇか。てめぇに何ができるって言うんだ?」
「できるさ。さぁ、来やがれ!」
なんと商人が剣を抜いて立ち上がった。
なんてこと。あの商人さん、かなりのやり手だったのね。確かに腰に剣をぶら下げていたから、もしやと思ったけど。
でも多勢に無勢ね。相手は盗賊達、五人はいる。あと茂み中に仲間も潜んでいるはず。十名はくだらない。
こうなったら、私の出番ね。
「商人さん、私も加勢するわ!」
「な!? お嬢さん、まだ逃げてなかったのか?」
「おいおい、こりゃすげぇぞ!?」
「なんてことだ! 美人なお姉さんまでいたとはな、こりゃ是が非でも奪わねぇと!」
なんて下品な連中なの。やっぱり女には目がないのね、こんな奴らにはきちんと痛い目を見てあげさせないと。
「お嬢さん、駄目だ! 早く逃げるんだ、相手は盗賊なんだぞ!」
「それはこっちのセリフよ。あなた一人でこれだけの数相手にできる?」
「ぐぅ……くそ、だったら一緒に戦え。すぐにやられんなよ!」
「任せなさい。さぁ、悪党ども! かかってきなさい!」
剣を構えて、盗賊の前に敢然と対峙した。
「はっはっは! おい見ろよ、可憐な美女がいっちょ前に剣を構えてやがるぜ!」
「笑わせるぜ。お前さん見たところ背が高いが、体格だけで勝負できるほど甘い世界じゃないんだぜ!」
「そんなのは百も承知よ。あなた達こそ手加減してかかってきたら、絶対に生きて帰れないわ」
「おいおい、お嬢さんだいぶ強気じゃねぇか。言っておくが、俺達はただの盗賊団じゃねぇ、“ブラック・スティーラーズ”の名前を知らねぇとは言わせねぇぜ!」
「え、なに? “ブラック・ピーラーズ”?」
「“ブラック・スティーラーズ”だよ。この界隈じゃ、こいつらに襲われた商人の数は数知れねぇんだ」
「そうさ。Aランクの冒険者だって手こずる俺達の強さ、身をもって思い知れ!」
なんだかよくわからないけど、とにかくやたら強い盗賊達ってことなのね。でも威勢のいい言葉を言った割に、全然本気に見えない。どうしてかしら。
「ん? 後ろ……」
咄嗟に振り向いて、背後に迫っていた盗賊に手刀をお見舞いした。
「げふっ!」
もしかして今の一撃で倒れたのかしら。不意を突こうとしたようだけど、相手が悪かったわね。
「なっ? てめぇ気づいていたのか!?」
「どうやら、耳だけはいいようだな」
「あら、耳じゃなくて気配を察知したのよ。バレバレだったわ」
「気配を察知した?」
一体何をそんなに驚いているのかしら。もしかして気配を察知する方法、盗賊達は知らないのかも。
「……この女、スキル使いだったのか?」
「え? スキル……?」
「さっきの手刀と言い、なかなかの手練れだな。それなら俺達にも切り札がある。ガイエル、出番だぜ!」
後ろの茂みに潜んでいたのか、相当巨体な盗賊が姿を現した。
「へへ、兄貴。こんなか弱い女性相手に、俺様を呼ぶなんてな」
「ガイエル、なめてかかるな。すでに一人やられた」
「へぇ、そうなのか。でも俺様が相手なら、関係ねぇよ」
ガイエルという男は、周りの盗賊より一周りも体が大きい、というか私よりでかい。身長200センチはあるかも。
久しぶりに男の人の顔を見上げたかもしれない。そして鋼のように硬そうな筋肉、ちょっと圧倒されてしまった。
「……へぇ、大きいわね、あなた」
「当たり前だ。俺様はAランクの重戦士でもあるんだぜ!」
「重戦士、Aランクって……強いの?」
戦闘職や、ランクなどは冒険者のステータスの一つね。でも、私はまだよくわかってない。
「はぁ? おいおい聞いたかよ今の? Aランクが強いのかって?」
「お嬢さん! Aランクは準最高ランクの戦士が得られる称号だよ」
もしかしたら知ってて当たり前の知識だったかも。これは恥ずかしいところを見せちゃったわね。
「へぇ、準最高ね。でも最高ってわけじゃないでしょ?」
「この女、Aランクの強さもわからないでよくもそんな……」
「ガイエル、あれを見せてやれ!」
「わかりました」
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