第96話 ラストバトルは財宝に囲まれて
「……来たか」
気配を感じて振り返った、九尾の悪魔。
「来てやったぞ……コクリ」
「ほう? そう来たか、マサラ」
――そこにいたのは、マサラだけだった。
同じ悪魔のコクリが見誤るわけもなく、彼女は今、単体で受肉してそこにいる。
金色の財宝に囲まれたコクリの寝所で、対峙する二体の悪魔はまだ、動かない。
「……かつての恨みはお主だけが晴らす、ということか? ククッ、侮ってくれたものよの?
「……黙れ。貴様など
「挑発は……足の震えを隠して言えよ、下僕」
ざわざわと、九尾の尾が伸びていく。
禍々しく魔力が満ちて、部屋の空気が電撃を帯びたように音を立てる。
「ちっ……!」
先に動いたのは、マサラだった。
背のポーチから取り出したのは、小さな魔珠。それを魔力で溶かして取り込み、手を前に構え、黒い魔力の波動を撃ちだす。
「はっ。この泥棒猫が!」
対するコクリも片手を構え、その手には小さな魔珠。
それを握り潰すとその拳が赤く輝き、光線のように打ち出された黒い魔力の濁流を殴りつけるように打ち消す。
すると後方に散った黒い波動が、爆撃のような音を立てて炸裂した。
「はっ……なかなかやるのう♪ 下僕にしては歯ごたえがある! お主を虐げていたころ、これくらい楽しませてほしかったぞ♪」
「くっ……!」
言葉とは裏腹に、興奮した面持ちで叫ぶ九尾の悪魔。
「だが……次はこちらから行くか」
尾の中から魔珠を取り出し、黒くどろりと垂れたそれが鎖へと変貌する。
それを鞭のように振り回し、笑顔のまま、
「食らえ♪」
それを、叩きつけた。
「くっ!」
直撃する軌道から裂けて、床を叩く黒い鎖。
直撃に一拍遅れて、ゴン! と床が陥没する。
「さて」
そしてそれを引き、今度は横に振る。
「っ!」
そのことに血相を変えたマサラが、
「避けろ!」
後ろに向かって、叫んだ。
「くっ!」
「わあ!」
山になって積まれた金貨の影から、ヴェノムとコロラドが飛び出す。
鎖を尾の先端で握り、手数はさらに増えていく中で僅かな隙間を探して、ヴェノム達は逃げ惑った。
「ハハハハハ、ネズミどもめ、
「舐めんなクソ狐女が!」
半ば苦し紛れに投げられたのは、一つの球体。それを空中で破壊すると、白い粉末と煙が広がった。
――が、それだけだった。
「くっ……このっ!」
続いてコロラドも煙玉を投げるが、コクリの目にはあまりにも悲しい抵抗にしか映らない。
やすやすと叩き割られたそれは、なんの意味もない場所に紙吹雪を生み出した。
(?)
その戸惑いが、小さな隙を生む。
とすっ、と何かの針がコクリの尾に刺さり、動きがにぶった。
「……もしかして、これが毒のつもりか?」
もはや苛立ちすらあらわにして、コクリがヴェノムを睨みつける。
「っ……!」
煙玉の一瞬後に鎖が上から叩き落されて、間一髪、ヴェノムは攻撃をかわしていた。
刺さったはずの投げ矢からの毒はまるで効かず、ただ敵を苛立たせただけ。
「つまらん」
だからこの時、コクリは思考をシフトさせた。
今、自分をこうして襲うのは敵ではなく、眠りを邪魔する羽虫。
運悪く、マサラという壊れた玩具と羽虫2匹の現れるタイミングが重なっただけ……となれば、あとは殺し方の問題でしかない。
(どうやら見たところ、あのオスが要か……最初はあれで良かろう)
腕か足を千切り、叫ばせてやれば戦意は失せる。そのままみっともなく命乞いをさせ、殺し、その後にゆっくりと痛めつければ気も晴れるだろう。
そう思った、その瞬間だった。
――ふっ、とヴェノムの姿が消える。
「ん? ……がはぁっ!!」
そして次の瞬間に、腹の前にヴェノムがいた。腹に放たれた肘が臓腑を揺らして、そのまま真後ろに飛ばされ、ベッドで跳ねる。
「なっ、なんれっ」
驚く間もなく、さらに一撃。
「
「がっ!!」
ベッドごと、コクリの身体が弾かれた。
突然のことにまだ思考がまとまらないまま、空中に浮いた無防備な身体を自覚する。
「この時を……夢に見たぞクソ狐!!」
「やっ……ぶふっ!!」
顔面への拳の一撃は床にめり込む速度まで加速させ、服をはためかせて悪魔の身体が落ちる。
「はっはー! やったかぁ!?」
粉塵を巻き上げ、一瞬見えなくなる悪魔の身体。しかしそこに闇色の光が奔って、
「舐めるなよ……! やってくれたな雑魚どもが!!」
赤黒い炎のような魔力が天井まで吹き上がり、闇が空間を包んで、
「
――第2ラウンドが、始まった。
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