第97話 最後の一撃
空気に瘴気が混ざり、闇色の渦を背景に、狐の悪魔は浮いていた。
「……どんな手を使うたかは知らんが、貴様らの力が急に増したのは認めよう」
目を血走らせ、爪を、牙を伸ばし、ぎちぎちと歯ぎしりの音すら聞こえてくる。
「だが……それでもだ。それでも貴様らは最強たる
「……是非聞きたいね」
「出任せにしか聞こえないです」
「はっ、無知とは愚かよなぁ。それは……こういう事だっ!!」
数個の魔珠がコクリの背中側に浮かび、砕け、色のバラバラなそれらが蜂蜜色の光を帯びて輝く。そして激しい音を立てて、発生したのは同じ色をした大量の煙。
それは瞬く間に部屋を満たし、ヴェノム達の肌をかすめた。
「――っ!!」
瞬間、全員の心臓が跳ねる。
「ほう? 耐えるか。しかし次はどうかなあ!?」
「コロラド!!」
「はい!!」
「もう遅い! 次で
叫びと、2色の煙が交錯した。
「あっ……ああああああ!!」
「ぎっ……!! これが、こ奴の……!」
白い煙に包まれた、コロラドとマサラ。
簡易的な防護幕と化した白い煙と、それを飲み込むような黒い煙。
黒い煙は肌に触れただけで彼女たちの理性を焼き、目から血を流すほどの発情が襲いかかる。
今すぐにでも膝を屈して楽になりたい誘惑を舌を噛み潰すことで耐え、その瞳はヴェノムを探していた。
「あっ……」
煙は晴れ、『彼』が現れる。
「ヴェノムさ……」
その姿は、血溜まりの中にうつ伏せに沈んで、びくびくと痙攣していた。
「……他愛ない。いくら耐性を強化しようと、まともに喰らえばそこまでよ」
「……ヴェノム、さん?」
「はは♡……良いぞ、しっっっかりと認識しろ。其奴は間に合わず、死んだ。かはは……笑えるなあ♪ ぽいずんますたーとやらが媚毒で死ぬとは♡ ほれ貴様ら、まだ温かいぞ? 最後にその死体を使いたいのなら、止めはせぬ♡」
「うそ……嘘ですよね、ヴェノムさん!」
その言葉に反応はなく、びくびくと痙攣は止まらない。
そしてその血はどんどんと広がり、床を赤く染めていった。
「……あ?」
「ヴェノムさん!!」
――それが、最後の合図だった。
まるで爆発に後押しされたかのようにヴェノムの身体が跳ね起き、走り、手には一本のナイフ。
(あの血……こ奴まさか! 媚薬が回る前に出血で……!!)
そう、ヴェノムはもう、死んでいる。
媚毒をまともに浴びて、全身の血に毒が回る前に、その血を抜いてしまう。それが、ヴェノムの策だった。
「くっ……バカが!!」
しかしそれも、見破ってしまえばただの自殺。冷静に足元を狙うなり、退くなりすれば良いだけのこと。そう判断したコクリは、全ての尾を用いてヴェノムの突撃を防ごうと構える。
「無駄死にだな、ヴェノムとやら!」
「いいや……違う!」
「何!?」
その目には、光があった。
まさかと思ってコクリはコロラドとマサラに目を向けたがまだその位置は遠く、それを認識した刹那、その周囲を光線が撃ち抜く。
「食らいつけ!『
「ぎっ……ぎゃああああああ!!」
天井が砕け、降り注ぐ瓦礫より早く、龍の牙が悪魔の身体を焼く。
そしてもう一人、流星のようにここへ降り立った存在がいた。
「だりゃああああああああああああ!!」
ダン! と音を立てて着地と同時、九本の尾がまとめて大剣に断たれ、切れ端が霧散する。
「お前っ……!」
「さーて皆さん! いきなりですがクライマックス! 最後の一撃は、あなた達が決めてください!!」
「「言われなくても!!」」
魔力は、既に充填されていた。
周囲の空気を揺るがすほどの濃度で凝縮された魔力は黒と白の螺旋を描く球体となり、悪魔を撃ち抜く巨砲を思わせる。
「「喰らえ、私達の魔力を!!」」
その瞬間、黒と白の魔力が濁流を描いてコクリを包んだ。コロラドとマサラ、黒と白の魔力が渦を巻いてコクリを焼き続け、しかし鳥居の下に障壁が発生し、その魔力の光が阻まれる。が、そこへ炎が降り注ぎ、光が鳥居を包んで、
「させない。【炎の矢】」
「往生際が!」
「悪いんですよ!」
拳と錫杖が、鳥居を破壊した。
そして崩壊した障壁ごと、光の濁流がコクリを焼く。
(馬鹿な……馬鹿な馬鹿なこの
背を壁に叩きつけられ、開いた口に液体が満ちる。
あまりにも良く知ったそれは、コクリ自身も用いた蜂蜜色の媚薬。
「ざまぁみろ……っ!」
「ヴェノムさん!」
「ヴェノム!」
「ヴェノム!!」
「バカ弟子!」
――配信はそこで終わり、視聴者にはヴェノムが倒れるところまでが放送された。
その日の『
――サキュバスダンジョン攻略完了の情報だけが、号外として街を舞った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます