第73話 新たな旅立ち

「おっ、コロラド! マサラと分かれたのか、良かったじゃないか!」


 コロラドとマサラが分離して、決戦前に置いてきたスカーレットの元へヴェノム達が向かうと、焼かれたウッドゴーレムを背にしたスカーレットはそう言った。


「おい不敬であろうが! 何も良いことなど無いぞ!」

「えっ何でだ、誰かに取り憑かれたり取り憑いたりする生活なんて不便だったんじゃないのか?」

「うぐっ……!」

「……言われてみればそうじゃな」


 ちなみに服なぞ無くて構わぬ、と言ったマサラに対して、投げつけるようにそこら中の布を投げつけたのはヴェノムとコロラドだった。


「多分ですけど、歩くのとかめんどくさいんでしょ」

「バラすな元依代よりしろ……! ああ、一歩一歩がめんどくさい……移動のために歩くなど何も面白くない……! 呼吸すらめんどくさい……!」

「こいつ引きこもりを極めてるな」

「黙れ。文句はわらわを封印した連中に言え」

「お前ね、そういうのは責任転嫁って言うんだぞ」

「とにかく貴族や兵士が戻る前にずらかるのじゃ。ほれ行くぞ」

「えっ何故ですエイルアース殿」

「『お前達が犯人だな! グサッ』ってされかねんだろ」

「あっ……」


 というわけで一度ヴェノム達は全員で闘技場に向かい、その来賓室らいひんしつでガンビット達と合流したのだった。


「やあやあお疲れ! よくやってくれた、本当にありがとう、皆さん!」


 笑顔を見せて出迎えたガンビットは、ヴェノムの肩をバシバシと叩いてねぎらう。


「それはお前もだろガンビット……大騒ぎだな、怪我人でスタジアムが埋まってる」


 来賓室からはスタジアムが一望できるが、そこにいるのは夕暮れも近くなる中、寝かされたままの怪我人達とそれを助けるボランティアたちだった。


「ああ、とにかく物資が足りん。まるで災害……いや、まさに災害だったな」

「メーアスブルクさんとクーラちゃんは?」

「ああ、隣で寝かせた。さっきまでずっとイビルアイの駆除を頑張ってくれたていからな……というか、そちらの白い毛の方はどなただ?」

「イビルアイの攻撃を食らったら分離したんだ。まぁ命に別状はないみたいだから良いんだが……で、これからどうする?」

「それなんだが、まだ食料があるうちにちょっとした案がある。聞いてくれるか」

「案?」

「ああ、発案者の方々だ」

「ど、どうもはじめまして……」

「久しぶりだな、ヴェノム殿」

「お久しぶりです、ヴェノム様♪」


 そこにいたのはカキョムの王と、王女と、身なりの良い若い男性。


「……なるほどね?」


 それだけで大体のことを察したヴェノムは、笑顔を浮かべて親友の背中を叩いた。


 ――かくしてそれから、半年の月日が流れる。

 夏が終わりを告げ、山々が紅葉する時期のこと。ヴェノム達が、旅を終えた。


「いや〜、久しぶりの我が家だな」

「うわ、ホコリだらけ……お掃除しないとですね」


 久しく開けていたヴェノムの家はあちこちに汚れが積もっていて、今回は珍しく死体は落ちていなかった。


「おーいヴェノム、なんか食わせるのじゃ」

「妾も腹が空いたぞ」

「ウチに来るって言ったのは師匠でしょ、掃除くらい手伝って下さい。あとマサラは働けこの野郎」

「ったく、不敬な奴じゃ」

「あはは……」


 半年の間に溜まった新聞を拾い上げ、古い方から順番に目を通していくヴェノムとコロラド。

『帝都崩壊!? 禁忌きんきに手を染めた帝王の末路!!』

 から始まる新聞の見出しは、

『新たなる指導者候補に帝国貴族のピーハッド家挙がる! 有名配信者とともに帝国の闇を暴くゲリラ配信!』

『相次ぐ不正の暴露ばくろ、復興と諸国の動きはどうなるのか?』

『進む復興、スラム街の解体と、奴隷解放宣言。エン帝王が語る諸国との未来!』

 と移り替わる。


「……結局、またガンビットがうまくやったって気しかしないんだよな……アイツの笑い顔が目に浮かぶよ」

「帝王の相談役ですからね」


 あの後、避難民の救護を担っていたガンビットは、ゆっくりとその実権や成果をリョウゼンやハルモニア、そしてピーハッド達に譲り渡した。

 そして同時にジャック達『勧善懲悪ノブレス・オブリージュ』に協力して帝国貴族やそれと癒着ゆちゃくした業者や奴隷への非道な扱いを暴き、さらにその功績も全てピーハッド家に渡していった。

 あっという間に民や他国からの支持を集めたピーハッド家は傍流貴族ぼうりゅうきぞくから一躍成り上がり、ピーハッド家長男・エンは新たな帝王としてその王妃・ハルモニアに見守られながら即位してしまった。


「リョウゼン国王もそりゃ喜ぶわな。てか何でガンビットはギルド長やりながら帝国とカキョムで相談役やってんだよ」

「カキョムの城壁、もう少し広げるらしいですね。帝国に倣って奴隷解放宣言する王都も増えましたし……カキョムもですけど」

「発展すんのか……メシのうまい店が増えれば何でも良いけどな」

「でも大丈夫ですか?」

「何が?」

「ヴェノムさん、顔バレしてないですかね」

「……自信ない」


 帝国貴族の闇を暴くにあたって、当然のように協力させられたヴェノム達の相手は、他でもないあのコラット・シンガプーラ・ソマリ。最初にヴェノム達が帝都で出会った貴族だった。

 今のヴェノム達にとって割とどうでも良かったので気兼ねなく成敗したのだが、どうやらそれがまたまた噂になっているらしい。


「あ、そう言えばスカーレットの熱愛報道とかあったな、ヒポポ出版め今何してんだ」

「……一回、サクラさんとそのへんの話したいな……」


 等と話していると、扉がスココココ、と叩かれる音が連続した。


「おーいヴェノム、手紙じゃぞ。騎士団からではないか?」

「あ、ホントですね」


 ヴェノムが近づくと一羽の鳥が逃げるように飛び去り、あるのは一通の手紙。


「速達かぁ」


 軽い気持ちで開くとそこには、太い筆文字でこう書かれていた。


『いきなり帰ってくるのはまだ良いけど、悪魔を引き連れてくるんなら連絡くらいすべきだよね?☆

 街の占い師がそろって怯えてたり、そもそもまだ何も報告を聞いてないけどまさか駐屯所に連絡1つ寄越さないとかあり得ないよね?☆』


「うーわめっちゃ怒ってる……」

「無意味な☆が逆に怖いですね」

「あーあ、儂は知らんぞ」

「妾も知らん」

「PS.旨い酒を沢山手に入れました」

「すぐゆくぞヴェノム! 不義理は良くないのじゃ、ほら早く!」

「……やっぱサクラさんわかってんなあ」

「妾は行かぬ」

「じゃあ悪魔が逃げましたって報告しようか? お前分離してからロクに働いてないだろ。金もないのに騎士団に追われる毎日を過ごしてくれ」

「ぐぬぬ……分かった行こう。聞きたいこともあるしな……」


 かくして、長い帝都からの旅が終わってもイベントは尽きない。


「……ま、悪いことにはならないだろ」


 そう呟いたヴェノムは、強く感じる嫌な予感をかき消すようにそう言った。

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