第52話 配信者の宣戦布告
食事を終えたヴェノム達は、大通りの歩道を歩いていた。
日はまだ高く、街を案内すると言うジャックは先頭。
その後ろにヴェノムとモックス、続いてサレナとマリン、最後部にスカーレットとコロラドで2列に並んだ。
「僕ら、帝都を拠点にしてる配信者パーティなんですよ! ですからいろんな配信者の方に会えるのが楽しみで……」
「へぇー、良いですね、帝都暮らし」
「意外と退屈ですよ」
等と会話をしつつも、ヴェノムの意識はこのパーティの分析に向けられている。
銀の鎧のジャックに対してモックスは一般的な布の服だが、ズボンの布は馬車にも使われる丈夫な布で、上は上質な染料で染めた半袖。
黒い口布で鼻から下を隠し、発達した筋肉と大型の
「貴女達も、ずいぶんと変わった格好なのだな」
「そうですか? 帝都では珍しくありませんが……」
「普通」
一方でスカーレットも、護衛としての目をサレナとマリンに光らせる。
可能性としてはヴェノムに恨みを持つ闇ギルドだったが、騎士団の一員を務めるスカーレットが何度も見たことのある『闇ギルドらしさ』を、彼らからは感じなかった。ちなみに何故かマリンの服は、魔術師らしいとんがり帽子とローブ、そしてその下は何故か『はたらきたくない』と書かれたTシャツだった。
「その……聞いても良いですか? サレナさんのその服って……」
一方で、コロラドがサレナに尋ねる。
彼女は修道服なのだが逆に一切の装飾の無い地味なもので、コロラドの知らない
「神に尽くすための服です」
「か……神様に、ですか?」
「いいえ。神に、です」
「……? そ、そうなんですね」
服からして帝都で信仰される何らかの宗教特有の衣装かと思ったが、どうやら彼女はコロラドにそれを布教・説明する気は無いらしかった。
口元は笑みに見えるが修道服の被り物に隠された目からは感情が読み取れず、そういう宗教もあるんだろうな、とコロラドは内心で当たり障りない振る舞いを選ぶ。
「そちらの魔術師の方は……もしかして一度、私とお会いしてないか?」
「? ごめんなさい、覚えてない」
「カキョムとナーロの魔術合同勉強会で、貴女は講師だった」
「あっ、貴女……あの時の」
「やはりマリン・ワダツさんですよね、その節はお世話に……」
「止めて」
「えっ?」
「今の私はその名を捨てた。私の呼び方はマリンで良い。でももうワダツじゃない。覚えておいて」
「あっ……はい」
スカーレットもスカーレットで、人生色々あるのだろうな、とそれ以上の詮索を止めた。
「まずですね、さっきのホテルは海鮮料理が有名だったんですけどこの先に肉料理の旨い店があって……」
そんなどこか探り合うような雰囲気の中、ペラペラとジャックはヴェノムに街の解説を続ける。
よほどこの街に詳しいのかとめどなくあふれる説明はひたすら続いて、気づけばヴェノム達は『この先工事中』の看板が立つ大通りの突き当りまで来てしまった。
そして目の前にあったのは、建設途中のスタジアム。
「……そしてここが今回の超☆会議の聖地、【チャンピオンバース】です!」
笑顔で看板に背を向け、こちらに振り返ったジャックは、子供のような笑顔でそう言った。
その後ろにあるのは、まるで古代の巨大建造物を再現したかのような、コンクリート製の巨大な王冠を模したスタジアム。
まだ誰一人血を流したはずがないその建物からは既に戦いの熱気が放たれ、あと数日でここが戦いの場になることを、嫌でも予感させる。
「バトル部門に登録した配信者なら誰でも参加可能、ルールは何でもあり! そして!」
ブン、とジャックは腕を振り上げて、投げたのは映像魔珠。
「そういうことか……!」
「えっ、え?」
「……そう来たか」
それは空中でピタリと止まって、上空から彼らを映す。
「僕ら配信者パーティ、『
そして高らかな宣言が、帝都に響き渡った。
――そしてそれからしばらくして。
『ワハハハハ、それは災難だったな!』
旧式の魔珠から映し出される立体映像で、ガンビットが笑っていた。
「笑い事じゃねぇんだよガンビット……で、お前は?」
『クーラのお陰であと3日かな。で、帝都の治安はどうだ? ざっと見の感覚で良い』
「どうもこうも大熱狂だよ。何かあればすぐに民衆が騒ぐし、とにかく街には行かせないほうが良い。ただ、別に変な組織が目立ってるとかもないな。スラムはまだ見てないが」
『そうか……こちらに来た報告から目新しい変化はないな。祭りと言えばケンカだがまだその空気は無いか……』
最上階のバーの個室で連絡を取っている彼らは周りから見えない場所におり、邪魔するものはいなかった。
「酒場じゃあるまいし、まだ道端で酔っ払いが歩いてたら警備兵に捕まる程度な感じだな。まだ祭りの前だし、そもそもこれだけデカい祭りなら帝都も本気で警備するだろ」
『そうか……助かる。やはり生の声があると違うからな。ところで上流階級の空気はわからないか?』
「おい注文が多いぞ、今日来たばかりで……」
『? 何だ、知らないのか?』
「何をだよ」
『いや……お前にケンカを売ったそのパーティ、『
「……は?」
思いがけない言葉に、ヴェノム達は顔を見合わせる。
その顔は、知らなかった、と言わなくてもわかる顔だった。
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