第51話 黄色いエリアはバトルの証

「帝都のメシかー」

「気になりますね、どこ行きますか?」

「護衛として言わせてもらえば、あまりせまい店は面倒が多いんだが……」

「……ってなると、ここかなあ」


 とりあえずと言うことで、最初に案内されたホテルの隣の赤い旗がはためく店に入る。そこもホテルのようだったが、赤い旗が立つだけあって外壁には料理や食材が描かれ、案内板によると最上階がレストランになっているらしかった。


「あ、ヴェノム様!」


 そしてホテルに入るなり、身なりの良い太った男が笑顔でヴェノム達に近づく。


「知られてんのかよ」

「当然ですよ、あなた達が先日潰してくださった盗賊団! 前にウチの食材輸送を何度も妨害しやがった連中でしてね! もうスタッフ一同大歓迎です! 何でも食べて行ってください!」

「へぇー、そうだったんだ」

「どの盗賊団だろうな。もう見当もつかない」

「先日ってまずいつなのかが分かりませんよね」

「ささ、どうぞ最上階へ! あ、よろしければ配信もしてくださいね!」


 言いながらヴェノム達はフロアの片隅に連れていかれ、何故かそこには小さな扉があった。


「なんです? コレ。階段はあっちじゃあ……」

「『エレベーター』ですよ、ご存じありませんか? 滑車の力で最上階まで一気にお連れいたします!」

「い、一気にか……」

「もちろん安全装置もばっちりです! 今まで一度も故障一つありません!」

「ふーん……?」

「面白そうだ、乗ってみないか」

「まぁ……試しに乗ってみるか」


 そしてその後、最上階のレストラン。


「いやぁ、楽しかったな!」


 目をキラキラさせて、ヴェノムが感動にひたっていた。


「そんなに良かったか?」

「あの感覚はくせになるだろ、木登りとかアレで出来ればいいのに……あとダンジョンにも欲しい!」

「かつてないくらい目がキラキラしてますね……でも確かに男の方ってああいうの好きそうです」

「だがダンジョンにアレがあったら間違いなく罠だろう」

「くそ、そりゃそうだ。引っかかってしまうかもしれない……」


 などと言っている間に、料理が運ばれてきた。


「本日の日替わりランチでございます」

「お、凄い、海鮮だ」

「かいせん?」

「海の幸だよ、細切れになった魚と貝と……あんまりパンには合わないんだがな、この『コメ』って種子を蒸したものによく合うんだ。昔港町で食べたなあ」

「へぇ……私、海のモノ食べるの初めてです」

「私もあまりないな……この白いのが魚なのか?」

「いやそれは魚でも貝でもなかったような……」

「クラーケンの稚児ですね。一度日光で干すと素晴らしいうまみが出るのですよ」


 ウエイターがさらりと笑顔で説明するが、ヴェノムたちにはピンと来ていないようだ。


「へぇ……クラーケンの……」

「この黒いスープに浸っためんは何ですか?」

「クラーケンの稚児ちごはスミを吐くんですが、それをソースに加工したものをパスタに混ぜると深い風味が出るのです。どうぞお試しください」

「スミ? な、なんだか変わった料理が多いな、ここは……」


 ともあれ恐る恐る料理を口にすればそんな不安もどこへやら、ヴェノム達は気づけば無言で料理を食べていた。


「あ、私、黙っちゃってました……すごい、スミって美味しいんですね」

「魚の食感と全然違うぞ、だがこのくにくにした感じが良いな……山の幸とはまるで違う」

「チーズとキノコの風味によく合う……! ああ惜しいな、これならもっと森で採れたての新鮮なキノコと食べたい……!」


 そして思い出したように感動の言葉をそれぞれ口にした時、ふと部屋の片隅にヴェノムの注目が向いた。


「……あ、すいません。うるさかったですかね」


 そう言って頭を下げると、そのテーブルにいた四人組の一人、こちらに背を向けていた金髪に鎧の青年が振り返って、


「いえいえ、ここの料理は絶品ですからね。気持ちはわかりますよ、ヴェノムさん」


 魔珠を見せつけながら、そう言った。


「あ、配信者の方でしたか。すいません、てっきり冒険者の方かと」

「よく言われます。ところで……有名なヴェノムさんとご一緒できたんです、よろしければお話していただけませんか?」

「お話ですか」

「ええ、武勇伝をぜひ、お聞きしたいなって」

「……」


 そんな人懐こい笑みに対して、ヴェノムは返事をしなかった。

 それと言うのも、その冒険者たちの雰囲気が明らかにおかしかったから。

 こんなホテルの中ですら、彼らはまるで冒険の最中のような格好で、それでいて冒険特有の緊張感がまるで無いのだ。


「……武勇伝なんて、大したことじゃありませんよ。襲ってくる盗賊を倒してただけです」

「ふふふ、流石です、ヴェノムさん……そんなことを軽く言える冒険者なんてそうはいませんよ、やっぱりあなたはすごい方だ……!」

「ぶふっ」


 金髪の青年が称えてくるが、それを残り三名は笑って見ている。

 それがどうにも気になって仕方ないヴェノムの表情は険しく、またスカーレットも腰の刀の位置を確認した。


「ところであなた方……何者ですか?」


 真剣な表情で、ヴェノムは尋ねる。

 それに対して金髪の青年は、さらに笑顔を強くして言った。


「私達はパーティ名『ピースメイカー』。そして……まぁ少しは名の知れた配信者です。よろしければ、この後街を一緒に回りませんか? ちなみに私がリーダーのジャック」

「モックスです」

「……マリン」

「サレナと申します」


 その瞬間、ヴェノムの冒険者としての習慣が、ジャックを【剣士】、モックスを【格闘家】、マリンを【魔術師】、サレナを【僧侶】とカテゴライズする。


「スカーレットだ」

「コ、コロラドです」


 全員が名乗ったところで、警戒の空気が場を支配する。


「皆さま、食後のお飲み物はいかが致しますか? 目の覚めるコーヒーなどがおすすめですが……」

「お願いします。……飲んだら行こうか、コロラド」

「え、あ、はい」


 その様子を見て、金髪に鎧の男、ジャックは笑う。

 その笑顔は、並の女性ならまとめて虜にしそうな魔性ましょうの笑みだった。

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